耳を塞ぎ、すべてを聞こえないように願っても聞こえてくる声、婚約者の愛するあなたの心の声など知りたくないのに……。
「またお前は耳の鼓膜を破ろうとして!」
「……」
耳を塞いでも聞こえてくる雑音、ざわざわざわと聞こえてくる。
『どうしてこんな娘がわしらの間にできたのか……いっそ生まれなければよかったのに』
生まれなければ、生まなければ……わかっていました。
私は耳をとっさに塞ぎましたが雑音が聞こえてきます。
お父様がもう二度とするなと怒鳴って部屋から出ていきました。
「もう聞きたくない」
心が狂いそうになる。雑音。生まれた時からずっとずっと聞こえてくる。
耳を塞ぎ、鼓膜を破ろうとした、でもダメだった。怖いのだ。
「無音も怖い、私は……」
私は侯爵の令嬢としては失格でした。人の多いところにいけばすぐ倒れ、何も聞きたくないと頭を振り、体が弱いわけでもなく、どうしてこんなだと父にも愛想をつかされ、母は生まなければよかったと……。
「神様、もう聞きたくありません……」
人の多いところが怖いです。だって聞こえてくるのです、笑顔の裏で悪意の言葉が。
私はどうしてこんな力、いらないと何度も繰り返しました。
魔法の要素もあるのかと調べてもらいましたが魔力が私はないそうです。
「……神様、神様、助けてください」
何度祈っても許されない。でも一番つらいのは……。
「気にすることはない、人見知りなのはまあ君の性格だしね」
『なんでこんなのが僕の婚約者なんだ? いつもおどおど、人の顔色を窺って、ああ彼女の姉のほうが婚約者としてふさわしい、僕のマデリーン』
愛してる人がいるのならそちらと思いますが、私の姉は既婚者でした。
私は薄く笑います。だって優しい言葉をかけているこの人は私の婚約者です。
聞こえてくるのは悪意。
婚約者に選ばれるなどだれも思っていませんでした。こんな人見知りがひどい娘。
でもなぜか王太子の婚約者に選ばれてしまい、私は地獄の日々でした。
社交のひとつもできやしない、お姉さまはあんなにお美しく、すべてに完璧なのに。
ああもう聞きたくない。
「……私、もう下がってもよろしくて?」
「ああ体を大事にな」
「ありがとうございます」
『マデリーンに会いたいなあ、どうして……』
私は頭を下げて走り出しました。姉と殿下が浮気をしていることは知っていました。
でも証拠すらなく……もう死にたいです。
私は婚約破棄をお願いしました、しかし私は陛下に呼び出され、陛下が興味深げにこちらを見るので黙っているしかなく。
「ふーん、お前がリアナか」
「はい……」
「お前、ギフトすら生かせないなんて、馬鹿な娘よ!」
「え?」
そういえば陛下の心の声が聞こえてこない? 私は恐れるように後ろに下がりました。
陛下は玉座に座り笑っています。まるでわからない……。
「お前のギフトは人の心の深層を読み取る力、私の力もそうだといったら?」
「え?」
「しかしこの力、成長とともに消えていく、私ももうほぼ人の心など聞こえぬよ。しかし仲間はわかる。お前の力がわかったからあのバカの婚約者にしたというのに」
陛下が説明をしてくれましたが、この国にたまに現れるギフト持ち、それは空を飛べたり、何もないところから水を生み出したりいろいろな力を持つ人だそうです。
同じギフトは共鳴しわかるらしいのですが。
「あの私は……」
「私はこの力を隠していたから未熟なお前などにはわかるまい、お前のその力、消えるまではあと数年ある。ぜひ力を貸してくれ」
陛下は人の心を読めるようだとそういえば昔いわれ、政敵を次々に消してきたと……。
私は陛下の心がよめないことに少しほっとしていると、多分20歳を過ぎると少しずつ消えていくと陛下が言います。
ああ聞こえなくなる……うれしい。
「お前は16歳、あと4年だ」
「はい」
「その力を貸してくれ」
「え?」
「政敵を……」
私は陛下のお言葉を聞いて驚きます。私は殿下と姉をなんとかしてくれるのならと頷きました。
もうあの人たちの不義を見たくなかったのです。
私は数年後、婚約破棄をして、真実愛する人と結婚しました。
ああ、婚約破棄をした理由? 殿下の不義です。姉とともに処刑されました。
皆驚いていましたわねえ。陛下はスペアはいるといって第二王子を王太子にしましたわ。
政敵をすべて消し去り、私の父も処刑されました。でも私は連座なしで爵位を継ぎましたわ。
ああ、何も聞こえないってとても快適ですわ。
真実愛する人の心の声は、ええ20歳までは聞こえていましたわ、自分に正直な人でしたの。今は聞こえません。
それはそれでいいのもしれませんわね。
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