プロローグ
今回から第二章が始まりますが、まずはプロローグ! プロローグの伏線はプロローグで回収していくスタイル。
はるか昔。太陽がその身に光を灯し、太陽系の歴史が始まった数億年後。地球は惑星にも満たない微惑星として誕生する。
当時の地球は規模の小さな太陽のようで、炎と溶岩に包まれていた。
そんな過酷な環境の観測を任された観測者【地球神】は、主に地球の成分や温度、気圧などを記録し、太陽系のまとめ役である太陽の観測者【太陽神】を仲介して銀河の中心にいる上位神に報告をしていた。
たびたび降ってくる隕石によって地球の状態は激しく変わり続けていく。隕石が降ってくるたびに増えた物質を調べ、減った物質を測定する。
そんな日々に仕事のやりがいを感じていた地球神だったが、たかが下位神としての人格は、幾万年の月日に飽きてしまっていた。
地球神は元々太陽を外側から観測するため、惑星に成長できそうな微惑星に空っぽの古い肉体とテキトウな人格をくっつけて送り込んだ、いわば上位神たちの手抜きで作られた観測者である。
当然そんな手抜きの人格は惑星規模の年月に耐えきることはできない。数万年もすれば地球神はこの生活に飽きてしまった。
仮にも微惑星を預かるものとしての人格であるから、終わりのなさに壊れてしまうことはなかったが、仕事をする以外に何かをする気力も湧かなかった。
そんな時、地球に超特大の隕石が降ってきた。地球神はその事件に、地球の危機というよりも大規模な変化に、胸を躍らせていた。
「ハハハハ、なんだよあれ! あんなん喰らったらこの星も終わりだな! 俺はあれをどうにかできるのか!?」
地球神は地球を管理し存続させ、さらに意図的に変化を与えることでどんな結果になるのか実験するために、地球そのものとも言える力を与えられていた。
地球を守ることも地球神の仕事だ。だからあの隕石を退けなくてはならない。
しかし、今の地球神にそんな思考は存在しなかった。長大な年月の中、渇望していた楽しみ。彼はこの出来事をただただ楽しもうとしている。
「まったく、地球の観測者は気がふれているようだ。私が向かわされたのも頷ける。私は別の恒星系から送られた観測者、メテオリート。地球神、貴様はこの地球から出て行ってもらう」
メテオリート、隕石や小惑星に与えられる名前として一般的なものだな。特にこれと言った意味はないはず。強いて言うなら、その格を安定させるためのものか。
「へぇ、俺とやろうってのか。体積比を見てみろよ、俺に勝てるのか? いいや、お前じゃ俺に勝てないね。大人しく資源になってもらおう」
そうして地球神は、突如として現れた侵略者との戦いを始めた。
それは惑星一つを賭けた大勝負。勝てば損害を退け、負ければ乗っ取られる。引き分けはない。それはすなわち、惑星の消滅を意味するのだ。
惑星と隕石のぶつかり合い。それは決して生物と生物の殴り合い程度では済まされない。ひとたび拳を交わせば1000度を超える熱エネルギーが発生し、星の権利を用いて魔法でも放とうものなら、魔王や化生など一撃で消滅してしまう。
隕石のパワーと速度をその身に宿したメテオリートの攻撃は凄まじく、体積と重量で大きく勝っているはずの地球神を圧倒し始めていた。
「名前も持たない仮初の主よ、貴様はもう用済みだ。さっさとここを明け渡すがいい! 半端者が戦い方を覚えた。それは許されざることなのだ」
「俺のことテキトウに扱ってきた上位神共に乞う名なんてあるか! この人格も、この身体も、あいつらが手抜きで作りやがったからこんなことになってんだろが。てめぇらの都合で死ねとか、ふざけてんじゃねェ!」
地球神の強味はその重量。小惑星にも至ろうかという大きさのメテオリートだが、原初の地球相手では足元にも及ばない重量である。
その地球神から放たれる拳は容易くメテオリートの身体を吹き飛ばし、その身を燃やし尽くす。
しかしそれでも侵略者は砕けやしない。圧倒的なエネルギーと速度は突き出された拳を逆に突破し、地球神の心臓部まで届いた。
「砕けやしない、砕かせやしないぞ、メテオリート! 惑星の底力、見せてやる」
地球の心臓部。そう、コアにあたる部分は溶岩など比べ物にならない熱量を持つ。一つの惑星が持つエネルギーは時に宇宙にも至り、大陸をも粉砕して見せるもの。小惑星を吹き飛ばすことくらい、容易くはないが可能である。
地球神の心臓に触れたメテオリートの拳はその熱量に溶かされ、金属の塊をまき散らしていく。
地球神の身体が大爆発を起こし、まるで噴火のごとく彼女の腕を弾き飛ばしたのだ。
それからも繰り返される戦い。泥仕合に次ぐ泥仕合である。
メテオリートが拳を突きつけても地球神にはさして響かず、対して地球神が攻撃を繰り出そうともメテオリートが止まることはなかった。
人類からは想像もできない力と力の衝突は、他の太陽系の観測者にだって小さくない影響を与える。
この当時、半端者の地球神か、太陽系の頂点である太陽神しか魔法や権利を戦闘に使うことは出来なかったはずなのだ。それは観測者にとって必要のないものであり、むしろそれができることの方が異常であり、だからこそ地球神は彼女に狙われているのだ。
しかしこの瞬間、周りの観測者たちも権利の使い方を理解する。この時点で、メテオリートが果たそうとしていた目的は不可能になった。
惑星の観測者相手にここまで善戦してきたメテオリートだが、それでも太陽系全ての観測者を相手することはできないのだ。
「メテオリート、ここは絶対に渡さない。俺が生まれ、そして背負った使命は、俺だけのものだ。いつまで続くのか自分でも見つけ出せないこの使命、貴様にくれてやるわけには行かないんだ!」
地球神が放つ拳。それは文字通り星を砕き、宇宙をも震撼させる。
対するメテオリートは、この攻撃を受け切ることは出来なかった。
彼女はそれまで、地球神の攻撃に対して逆の拳で答えていたが、ついにそれが叶わなくなったのだ。
彼女の力は隕石の勢いに寄るところが大きく、持久戦に入ってしまった段階でこの均衡が崩れることは決まっていたのだ。
「メテオリート、貴様に背負わせるわけにはいかない。この地獄のような使命を。いつか上位神に復讐するというこの野望を! 頼むからどっか行ってくれぇ!」
地球神の拳はメテオリートの心臓を貫き、弾き飛ばした。
同時に地球に落ちてきていた隕石も大気圏の外に押し出される。
地球の存亡を左右する巨大な隕石は、地球の表面を掠めて過ぎ去ったのだ。そう、これがのちに語られるジャイアントインパクトであり、地球の衛星、月が出来た起源であった。
「使命が増えてしまった。彼女の分も俺が背負おう、全てはクソッたれな上位神が悪いのだから」
それから地球神は、半端者ではない別の観測者を襲って回った。
彼らが力を持つことは許されない。力を得た者を始末するのがメテオリートの使命であり、それを地球神が奪ったのだ。
太陽系の外にいる上位神は物の規模というものを分かっていない。今回のように惑星そのものを破壊しかねない隕石だって簡単に送り込んでくる。それではダメなのだ。太陽系全ての観測者の力が集結しなければ、復讐は成り立たないのだから。
「俺が勝手に始めた戦いだが、許しは乞わないぞ。その力は、半端者の俺にしか扱えはしない」
地球の歯車が狂い始める。あるものは地球神に恨みを持ち、あるものは地球神に手を貸し、またあるものは技術を鍛え上げる。
全ては日ノ本に起きる出来事。全ては彼の作り上げた箱庭の世界の出来事。