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※パラレル地球の救い方※  作者: Negimono
第一章 アフリカ編
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エピローグ

 すみません、やっぱエピローグ書きました。これで正式に一章完結となります

 あの後、俺たちは戦いに勝利した。あの戦いはビクトリア決戦と名付けられ、のちの歴史に大きく刻まれるだろう。

 そしてあの戦場を共に駆け抜けた戦友たちもまた、後世に名を残す。


 しかしきっと、多くの人の脳に記憶されるのは、俺とジダオだけになってしまうのだ。

 軍人でない一般人には俺たちの名前しか知られていないのだ。戦いで死んでいった勇敢な彼らのことを、歴史に残すことは難しい。


「チャンクーさん、ジダオさん、準備は出来ましか?」


「もちろん。というか、俺に準備が必要な持ち物もないが。ジダオは?」


「俺こそ、これと言った準備は必要ないだろう。早く始めよう。やるべきことは多い」


 ケニアの主力戦士ホゥェップに呼ばれ、座っていた椅子から立ち上がる。ジダオも同時に歩き出した。


 この暑いアフリカの大地で、俺は生まれた時から着ている伸縮性の高い漆黒の服。しかし今この場では最も適した格好だと感じる。


 そう、ここはビクトリア連合軍の拠点。ビクトリア決戦での戦死者を尊び、弔う場である。


 俺には宗教的文化はよくわからないが、司祭か宗教学者らしい人物が、各国で多く存在する戦死者を読み上げていった。


 俺の知らない者ばかりだ。しかし知っている者だけでもかなりの人数になる。


 タンザニア最強の戦士であり、最期の時まで友のために戦ったというジェリアス。

 彼が軍の指揮と、俺たちが相手出来ない強力な変異種を倒してくれなければ、簡単に戦線は崩壊していた。誰もがこんなところで死んでいい人物ではなかったと、彼の死を悼んでいる。


 ジェリアスを生涯支え続けた謎多き男、アッサム。

 彼は最後まで何者だったのか分からない。仮説はいくつも立っているが、真実を知るのは死した者たちだけだ。

 しかし、我々に協力し勇敢にも仲間を守り続けた戦士であることは間違いない。故に、彼のことを魔王軍の裏切者だと主張する声が酷く苦しい。


 ウガンダの主力であり、誰よりも愛国心の強い漢、クラグ。

 彼と出会っていなければ、俺は未だに人類を守るという使命を疑っていた。今でも人類全てが善とは思っていないが、彼のような漢がいることを知れた。それだけで、俺は今回戦う意味を手に入れたのだ。


 ウガンダの天才軍師、ガイトル。

 敵のヘイト管理は誰よりもうまく、歴戦の経験から戦場全体を見て行動していた。彼の功績は大きく、どの軍からも彼を賞賛する声が聞こえてくる。


 俺が指示して作らせ、そして作戦通りことを進めてくれた尊敬すべき技術者、ドゥェッド。

 彼はケニア決戦にて超火力を持つ戦艦の操縦と指揮を率先して行い、確実に敵戦力を削り続けてくれた。彼がいなければ俺の隆盛は機能しなかった。溢れだす大型種の群れを相手できなかった。


 他にも今回の戦いで功績を残し、しかし死んでいった者たちは多い。

 彼らの功績はここにいる者以外の誰にも伝わることはない。だからこそ、共に戦った俺たちが、一人一人に向き合い記憶してやらなければならないのだ。


 そして何より絶対に忘れてはならないのが、蝗魔王率いるバッタ軍である。

 奴らは人類にとって間違いなく脅威であったが、それ以上に彼らは己の正義を貫いた。


 戦う以前に得た情報では彼らが無差別に人類を攻撃していると受け取れたが、決してそんなことはなかった。彼らは大いなる信念のもと、自らの正義をもって戦っていたのだ。


 確かに奴らが出した犠牲は計り知れない。共に絆を深め合った戦友たちを殺したのも奴らである。

 奴らのせいで崩壊した都市や国もあり、多くの人が悲しみの海に沈んだ。


 しかしそれは俺たち人間目線から見た考えであり、奴らからしてみれば俺たちこそが忌むべき敵なのだ。

 特に知能のある人型種などは連携の達人。あれほどのチームワークを見せたのだから、彼らはそれほどの絆と信頼で結ばれていたはず。それを崩したのもまた俺たちなんだ。


 そして蝗魔王はサバクトビバッタの繁栄を願って行動を起こした。

 魔王というのは元来人間を襲うという使命を背負っているはずなのに、彼の戦いはそのほとんどがバッタたちを思ってのことだった。


 思えば、奴らが侵略的な戦いを仕掛けたのは蝗害が始まった直後だけで、それ以降はずっと水場を守り続けていた。

 俺が戦ったのも、タンザニアの崩壊都市を除けばビクトリア湖周辺だけである。


 もちろん、奴らが戦力を蓄えるために防衛線を敷いていたのだろうという解釈もできる。むしろそちらの意見の方が強い。人間たちには彼らを完全な悪として伝えた方が都合が良いだろう。


 しかし、俺はこの拳を交わしたあいつらが、ただ人間を襲うために行動を起こしていたとは、どうしても考えられないのだ。


 名もなき上位人型種、(ジァン)暴力(ボウリ―)、神虫、そして蝗魔王ワン。他にもジダオが戦った魃魔王カンハンやジェリアスが戦った天巧星など、思慮深く仲間思いな連中ばかりだった。

 アララーも彼らと何らかの関係があり、それが人類に害を成すものではなかったのだと感じる。


 あいつらが特に何の理由もなくあれほど人を殺し、そして自らの仲間を殺してもなお戦い続けたとは思えない。


 そして何より、蝗魔王の最期の言葉。

 古の中国にてしのぎを削り合った大英雄と大魔王。黄帝と蚩尤の関係を垣間見たあの瞬間、俺には言いえぬ喪失感があった。


 まるで何か信じていたものに裏切られたような。

 果たして俺と蝗魔王は、互いの命を賭して殺し合うべきだったのか。互いの考えを共有し、協力し合うべきだったのではないか。そんな考えが決戦後の俺の脳を支配していた。


 俺は、何か取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。そう考え始めるともう耐えられなかった。


「チャンクー……大丈夫か?」


 ジダオが小声で話しかけてくる。俺とジダオしか聞き取れないような、ごく小さな声だ。


「なんだよジダオ、藪から棒に」


「いやな、あの戦いが終わってからお前、元気ないぞ」


「元気ないのは連中も同じだろ」


 俺たちは戦いに勝利した。だというのに、喜びをその目に浮かべている人間は少ない。


 それもそうだろう。失ったものが多すぎた。取り返しのつかないものが多すぎた。

 死んだ人間は返ってこない。戦いの最中に新しくできた禍根はそう簡単には途絶えない。


 対して手に入るものも何もない。領地が増えて産業が盛んになるわけでもなければ、戦いに出資して利益を上げられるわけでもない。

 元来魔王との戦いはそういうものだ。うまみは何もなく、ただただ損失と悲しみが突きつけられるだけ。そりゃあ誰でも暗い顔になる。


 それに、魔王二体を打倒しビクトリア湖周辺は落ち着いたが、まだアフリカ全土の蝗害が解決したわけではない。

 ここの兵士が出兵することは当分ないだろうが、それでも不安な気持ちはぬぐい切れないんだ。


「確かにそうなんだが、お前のは軍を抜いて酷い。生きる意味も全て失ったみたいな顔をしている」


「不安なんだ。俺は何か取り返しのつかないことをしちまったんじゃないかって。アララーに助言を仰ごうにも、あいつは全然反応を示さなくなっちまった」


 ジダオに今の俺のありのままを伝える。やはり本当に困ったとき、傍にいて話を聞いてくれるのはこいつだけだ。

 タンザニアではジェリアスやアッサムがいた。ウガンダではクラグが相談に乗ってくれた。

 でも、あいつらは死ぬんだ。俺たちより簡単に死ぬ。簡単にいなくなってしまう。


 いつまでも共に歩み続けてくれるのはこいつしかいないんだ。いや、こいつもいつかは……。


「なるほど、蝗魔王の最期の言葉か。確かに、俺も魃魔王からその手の話を聞いた。俺たちが戦うべきは、魔王ではないもっと別の存在なんじゃないかと」


「そうだ。俺たちは魔王と協力するべきだったんじゃないか?」


「お前の言いたいことは良くわかる。なまじ奴らが完全な悪でなかったために、不安に思うんだろう。だがな、あの蝗魔王が、何か信念を残したまま死を受け入れる玉だと思うか? あいつは抵抗するなら最期のその瞬間まで諦めない男だ。それは拳を交わしたお前が一番よくわかっているだろう」


 確かに、あいつはそんな奴じゃない。飄々としていてテキトウに生きているように見せながら、その実奴は誰よりも勝ちにこだわっていた。たったそれだけのことに、何千年も命を賭けられるほどに。


「だから、あいつが言葉を残したということは、奴は何かを成し遂げたんだ。それがお前。奴の目的を達成するためのピースを、お前は全て手に入れたんだ。それを奴に認めさせた」


 ジダオの言葉をかみしめる。俺を励まそうと一部誇張しながら紡ぐ言葉。彼の温かみと思いやりに胸が熱くなる。


「……なるほどな。ありがとうジダオ、励ましてくれて。確かに俺はあいつとの戦いでいろんなことを学んだ。そしてすべてを自分のものにしたつもりだ。だからもうあいつにすがる必要はない」


 俺の中で何かが吹っ切れた。蝗魔王は確かに強く、思慮深い男だった。俺の好敵手と言えた奴を失ったことが、俺の心にダメージを与えていたのだろう。だがもう大丈夫だ。

 やっぱりジダオに話を聞いてもらうのは良い。こいつは俺がかけて欲しい言葉を的確に与えてくれる。


 そして今度は、俺が人型の化生として傷ついた人間たちを励ます番だ。この葬儀が終わったら皆に声をかけて回るとしよう。




 そして数時間後、葬儀はつつがなく終了した。当然心に深い傷を負った者も多かったが、彼らのメンタルは今後時間をかけて回復していくだろう。


 その後数日間を置き、俺たちはまた戦場に赴く。


 まずはヨーロッパとの陸路を遮っている邪魔な群れを潰すところから。

 魔王亡き今、先進国も協力を惜しまないだろう。彼らの力があれば、事態は早急におさまるはずだ。


 戦って戦って、戦い続ける日々。しかし魔王が出現してからの時間を考えると、俺たちが戦っている時間なんて微々たるものだった。


 魔王が出現してから三年間続いた蝗害。そんな長きに渡る人類の戦いは、俺たち化生が現れてから二か月と経たずに収束することになる……。


~第一章 ビクトリア決戦 完~

 一応パラちきは毎週金曜日投稿を目標に書いていきます。ただ今後メインは同時連載の伊勢ロブになります

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