第八十五話
流石にSIDEチャンクー進めます。ホゥェップとドゥェッドがどうなったかはまた今度。
磁力式破砕鎚を振り上げ俺の目の前に立つ破壊種にぶち当てる。その一撃は防御するために奴が差し出していた四本の腕をたやすく粉砕し、内部のカラクリによる二撃目で顔面をぐちゃぐちゃにした。
「……装填」
再び磁力式破砕槌から「ガゴン」という鈍重な音が響き、打面の中心に開いた穴から磁石の塊が飛び出す。
破壊種の硬い外骨格を砕くほどのパワーを持つ磁石はタングステンに勝らずとも劣らない重量を有し、地面を叩いて穴を作る。
これほどの威力を発揮する磁石。当然自然界で誕生することは絶対にありえない素材である。
主成分は強力な磁力を持つことで有名なネオジムだが、磁力と衝撃に魔力が乗るよう改良した物質である。
これによって魔法の攻撃以外受け付けない変異種にすらダメージを与えることを可能にしたのだ。
しかしこの磁力式破砕鎚という武器は磁石を用いて二撃目を放っており、都合上一発一発再装填する必要がある。
再装填と言っても、「装填」という言葉に蓋の解除と磁石の生成を任せているだけだが。
ガイトルに渡した炎の杖、『爆裂金剛杵』は魔力タンクさえ持っていれば誰でも扱えるのに対し、これは地属性の最上位である俺以外に扱うことのできない武器である。
そのため汎用性は低いが、防御力特化の敵にこれほど刺さる武器もあるまい。
「あんまりもたもたしていられないな。敵が溢れ始めてる。これ以上時間を使えば周囲の友軍に被害が及ぶのは目に見えてる。なんかすげー遠くから大砲も飛んできてるし、速攻で片を付けないとな」
磁力式破砕鎚に組み込む形で収まっている黒の剣に融合力を注ぐ。それは緻密に組まれた魔力の導線をたどって打面に至る。ついでに攻撃に必要ない白の剣は一旦外し、銀槍の先端に装備させておく。
相手の防御を確実に突破できるよう魔法的観点から設計された磁力式破砕鎚の防御突破力はこれでさらに向上し、再装填をせずとも大型種程度なら絶命させられる。
再装填はそう手間の掛かるものではないが、超強力な磁力を持った金属を生成する都合上、かなりの融合力を消費する。
融合力の効率を考えると、こうして装填の頻度を減らすのが良いという結論に至った。
俺も蝗魔王相手に余裕があるわけではないのだ。
ひとまず俺は攻撃力の向上したハンマーを雑に振り回し、周囲にいた煩わしい大型種を蹴散らした。これの影響で仕掛けも発動してしまったが、一言つぶやくだけで装填ができるため関係はない。
とりあえず今は装填しないでおこうか。
開けた空間はに濁流のごとく大型種が押し寄せてくる。俺が有利に立ち回れる場所を少しでも減らそうという考えなのだろう。
しかしそんなものを許すほど俺は甘くない。
背中に装備した銀槍を用いて地面を走り、ひしめく大型種の隙間を縫っていく。
本来ならば銀槍で大型種の上を取り安全に移動するべきなのだろうが、先程も述べた通り今回は時間がない。こんな量の敵をまともに相手していられる余裕はないのだ。
それに俺は一つ、この群れの中から狙っていることがある。
いつの間にか蝗魔王の姿は群れに溶け込み見失ってしまった。しかし俺は先程まで蝗魔王がいた場所へ急ぐ。
それは上位人型種のような動き。狭い道でも相手へ迫る最短経路を的確に判断し、その多腕によって器用に駆ける。
「バカがチャンクー! 群れの中に入り込めば上位飛行種の攻撃を抑制できるとでも考えたか!」
そんな声が聞こえてきた。俺を挑発するような声音。だがバカはお前だ。
直後、破壊種の壁を貫いて上位飛行種が突撃してきた。
今まで上位飛行種は何か物体に接触するだけでその身を粉に変え、圧倒的な勢いを失っていた。
しかし今回は違う。高い防御力を有する破壊種の外骨格を貫いてもなおその勢いを失わない。上位飛行種はほんのわずかな時間の隙にそれだけの耐久力を獲得したのだ。
しかも俺の顔面を正確に狙った突撃。破壊種によって視界を塞がれた状態からそんな攻撃が出来るほど奴らの感覚器官は優れていない。
つまりこれは第三者による攻撃。そう、例えば蝗魔王がその場で強化した飛行種をぶん投げた、とか。
俺はこれを狙っていたのだ。闘争大好きの蝗魔王が、味方に任せて安全地帯から高みの見物なんて耐えられるはずがない。
俺の顔面を吹き飛ばそうと接近していた上位飛行種を、あらかじめ銀槍に装備させておいた白の剣で受け止める。
銀槍は本来ならこのレベルの攻撃を受け切れるほどの出力を発揮できないが、白の剣の防御効果で問題なく防ぎ切れた。
これが白の剣を銀槍に装備する利点。俺が左手から右手に剣を移動させるよりも、銀槍を左から右へぶん回す方が遥かに速い。俺の銀槍は既にこの両手にも引けを取らない器用さを示しており、わざわざ手を使う必要もないのだ。
黒の剣はより使い勝手のいい武器に、白の剣はより速い武器に。それぞれ本来の用途で運用するよりも適した使い道が存在する。
「お前はそこにいるんだな、蝗魔王! 装填! さらに武装変更、突貫戦車!」
蝗魔王のだいたいの位置を把握した俺は、その場に突撃するため武装を変える。
突貫戦車。それは手で押すタイプの小型戦車である。戦車とは言っているが大砲を撃てるわけではなく、現代のものよりも原始的な戦う車両、と言った格好だ。
直線的な走行性能に優れ、前方に取り付けられた三角錐状の盾を相手に押し付けることで無理やり密度の高い群れを突破することができる。
磁力式破砕鎚のカラクリも引き継いでおり、一体目は一撃で倒すことが可能である。
さらに先端部分には上向きに爆発魔法が設置されており、より小さなパワーで敵を退かせる。
主な材質はもちろんタングステン。重量に優れ、黒の剣の効果で攻撃力も高い。この密度の群れであってもそう苦労なく突破できるはずだ。
俺はしっかりと足に力を入れ大地を踏みしめる。しかし踏ん張るのは最初だけだ。
車輪部分に搭載した爆発魔法によるアシストが動き始め、鈍重な車両は俺のその重さを感じさせないほどの走力を発揮した。
この突貫戦車は小さいながらも立派な車両であり、タングステンを用いていることからも、ガソリンなどのエンジンを搭載して運用するべき武器なのだ。
今回は任意で変更のできる魔法によって動かしているが、開発に時間を掛ければ人間でも問題なく使えるようになるだろう。
突貫戦車に体重を寄せる。魔法エンジンによって機動力の向上した戦車は、その見た目とは裏腹に軽々と走り出す。
前方の敵など意に介さず、ほぼ俺の全速力に近い速度で戦場を駆け抜けた。
フロントの鉄板に触れた大型種はいとも容易く弾き飛ばされ、破壊種には装填した磁力の圧力を食らわせる。
相変わらず火炎岩石砲はまき散らしており、小型の変異種を寄せ付けていない。
「その場その場の状況に合わせて武器を変えられるってのはやっぱずりぃよなァ。こっちにゃ対策のしようがねェ。なんだよそれ。俺のだいたいの位置が分かっただけでこの群れが機能しなくなるなんてな。それにしても、お前は臆病だと評価せざる負えないが」
今度こそ蝗魔王と直接対峙する。ここまで少し時間を掛けてしまった。奴は群れを扱うのがうますぎる。自分の身を隠すのにも、そして強力な攻撃を放つのにも群れを使う。
俺を臆病と評価した蝗魔王だが、向こうも決して勇猛果敢ではないのだ。俺と直接戦わなくていいなら、それがベストだと考えている。
それはこちらも同じなんだが。
奴が俺を臆病と評価したのは、この過剰な防具によるところが大きいだろう。
本来ならば小型人型種や上位飛行種の攻撃を目の当たりにした時点で防具を脱ぐべきだったのだ。
奴らの攻撃をこの防具で防ぐことはできないし、いくら俺の膂力があっても流石にタングステンの全身鎧は動きが鈍る。
ただこれにはふか~い理由があるんだよなぁ。
突貫戦車越しに対峙する蝗魔王は何故か少し迫力がない。
中国出身だからか、俺の知らない独特の構え。
奴の元が昆虫だからか、呼吸による戦闘リズムが感じられない肉体。
ここが最終決戦だと、二人の間に言いえぬ緊張が走る。
今更だけど、うちのキャラ死に過ぎじゃない!? メインの二人以外ほぼ死んでるじゃねーか。
なろうのあとがきはここまでたどり着いた人しか読まないからこういう発言してもいいの楽しい