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※パラレル地球の救い方※  作者: Negimono
第一章 アフリカ編
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第八十二話

~SIDE ガイトル~


 強気に、強気に。罠があるかもしれない場所へ、大胆に軍を進ませる。

 例え罠を踏みぬくとしても進む必要がある。あの場で何もせず留まっていれば、この戦いに敗北することは確実なのだ。


 俺たちの仕事はヘイト管理をすること。距離がある状態では移動速度の速い敵に弾を当てられず、それでは戦艦が危険に晒される。

 そうでなくとも、中心部に敵が溢れチャンクー殿がそれを捌ききれなくなった時点で、我々の敗北が確定してしまうのだ。もしも蝗魔王がその拳を我々に向けたのなら、その瞬間戦線は崩壊。ビクトリア湖周辺国は壊滅する。


「ったく、あそこで指くわえて待ってれば良かったのによォ。なぁんでここまで来ちまうかな」


 俺たちが戦車を勢いよく前進させていると、不意にそんな声が聞こえてきた。

 いったいどうやったのか、閉じ切った戦車の中にもよく通る勇ましい声だった。


 戦車の画面越しに見てみると、たった一人の人型種が岩場に座っていた。

 手にはたった一振りの刀。腕が四本ある人型種ならば、最低でも二本得物を持っているのが適正だろう。もしくは四本の腕で振るうような巨大な得物。


 しかしながら奴の得物は細身の刀だ。逆を言えば、あれでも充分に戦えるほどの実力を持っているということだろう。

 俺が知っている中で、あの得物を完璧に使いこなす敵と言えば蝗魔王一人しかいない。良くない想像ではあるが、奴は蝗魔王に準ずる実力者の可能性が高い。


「その場を退け。でなければ、この場で貴様を殺す。剣では戦車に勝てない。それが分からないような愚か者ではないだろう?」


 俺はあくまでも強気に忠告した。むろん、たとえ奴がその場を退いたとしても生きて返すつもりはない。人型種は、たった三体であっても軍を撃退し、都市を一つ壊滅させられるほどの強者なのだ。人々を守る軍人として、みすみす見逃すわけにはいかない。


「キハハ、面白いこと言うな、お前。剣が戦車に勝てないって? 逆に言い返してやるよ。”戦車程度”では剣に勝てない。ましてやお前ら程度の練度では絶対に勝てないさ。お前たちは弱い。魔王様は何を警戒してるのか知らないけど、ケニアのホゥェップじゃなくてこんな雑魚を相手させるなんてな」


「勘違いするな。お前の相手をするのは俺の軍ではない。俺直属のこの戦車だけだ。貴様程度に、これだけの数を相手させるほどの余裕はないもんでな」


 俺の言葉に、相手よりもむしろ味方から動揺が走る。それもそうだろう。ただでさえ相手は強者であることが分かっているのだ。恐らく全員で掛かっても勝てないだろう。

 しかし、だからこそ俺と、その直属の部下数名だけで戦うのだ。勝てないからこそ、多くの人数をここに割くわけにはいかない。


「行け! お前たち! 覚悟はさっき決めたばかりだろう! お前たちの覚悟を俺に分からせて見せろ!」


 俺とこの戦車を置いて部下たちが動き出す。誰もそれ以上留まろうとはしなかった。俺の指示を疑わず素直に従ってくれる、本当に良い部下を持った。


 逃げ、これは逃げだ。俺の部下は全員覚悟を決めたというのに、結局俺は、部下に死にに行けと言う覚悟が出来なかった。本来なら俺ではなく、部下数名に足止めをさせ、その隙に突破するべきだったのだろう。けれど俺にそんなことを指示するだけの勇気はなかった。

 ここまで来て指揮者失格の命令をしてしまったと、心の中で自分を叱責する。


「良かったのか? 俺からしたら、お前程度軽くのしてあいつら追いかけることくらい造作もないんだがなァ。お前、本気で俺を相手に戦えるつもりなのか?」


「それは自信過剰が過ぎるな。さっきまでの俺の戦いを見ていなかったのか? あれを見たうえで、俺がなんお準備もせずに強者を相手しようとするほど愚か者に映っていたのなら残念だ。お前には戦闘の美学が足りない」


 俺は言いつつ、おもむろに戦車の上扉を開く。そこから上半身だけを晒し、奴を直接この目で捉えた。


 肉眼で捉えた奴は思ったよりも慎重が低く、しかしその肉体は美しく鍛え上げられていた。いや、昆虫に筋肉を鍛えるという概念があるかは知らないが。

 とにかく人間目には完璧な細身の筋肉をこれでもかというほどさらけ出している。


 未だ距離があるというにも関わらず、奴は今すぐにでも飛び出せるといった構えを取っていた。

 たった一突きで戦車を打ち抜けるだろう魔法の刀を軽く引いて持ち、他の腕は硬く地面を掴んでいる。超低姿勢から一瞬にして距離を詰めようという算段なのだろう。


 ならば、俺が選択するべきはカウンター。もしかしたら俺にも視認できない程の速度かもしれないが、奴を出し抜くのならば初手の一撃以外にない。


「お前たちは()()を大切にしているそうだな。ならばこちらから名乗ってやろう。俺はガイトル。この軍の指揮官であり、ウガンダで最も賢い男だ」


「……フン、お前程度の雑魚に名乗りはしないつもりだったが、礼儀を欠くわけにもいかん。俺の名は武術(ウーシュー)。数多の闘法を自在に使いこなす、蝗魔王様が眷属随一の実力者よ」


 お互い、何とも自己評価の高い口上だ。だが戦場ではそのくらいがちょうどいいだろう。自己評価は高いに越したことはない。

 俺は手元でとある操作をしつつ、奴の攻撃を待つ。


 数秒か数十秒か、互いの間を静かな空気と驚くほど長くて短い時間が過ぎていく。

 恐らく向こうも待ちの戦いを得意としているのだろう。先程から一ミリたりともあの姿勢を崩していない。もしくは俺がカウンターを狙っているのに感づいて根競べを仕掛けている。


 しかし、俺は奴らの性質について一つ知っていることがあった。

 豊かな思考を持たない代わりに集中力に秀でている奴らであるが、根競べになると高確率で向こうから動き出してくれるのだ。


 奴らは本来、敵への最短距離をその圧倒的な集中力によって最速で導き出し、一分のたがえなくそのルートを踏んでくるものだ。

 それは統一された教育によってそうなっているのではなく、生まれ持った習性によってほぼ強制されている状態なのだ。


 このように非常に好戦的な習性を持っている奴らは、根競べに勝つことは少ないのだ。それだけ知っていれば、俺はいくらでも根競べに耐えきることができる。


 もう部下たちの戦車も遠くに行ってしまい、その大きなエンジン音すら聞こえないほどの時間が経ったのち、予想通り向こうから動き出してくれた。


 奴は二本の手と二本の足で地面を粉砕しながら前進し、戦車から身を出している俺を狙って跳ね上がる。

 奴の飛び込みはその性質通り直線的。しかしその速度は、俺が想定していたよりも倍以上に速かった。


 マズい! カウンターが間に合わん!


 そう思った直後、俺の足元が大きく揺れた。そう、戦車が少しだけ後ろに動いたのである。操縦士は奴の動きを俺よりも過大に評価していたらしく、奴が動き出す直前に既に操作を開始していたのだ。


 これによって僅かながら猶予の出来た俺は、手に持っていた()()を叩きつける。

 直後、俺の目の前で奴の顔面が大爆発。奴は全身に大きな傷を負い、そのまま吹き飛ばされた。


 チャンクー殿からいただいた武器、『爆裂金剛杵』。(きね)と名付けられてはいるが、その実、これはただの棒状の金属の塊だ。


 チャンクー殿が試作した魔法の武器であり、身体強化などの特殊な技術が要求される魔法は込められていない。

 しかしその威力は凄まじく、先端を当てるだけで大爆発。しかも防御系の魔法があるらしく、こちら側に被害はない。


 俺のような人間であっても、これを振り回す腕力さえあれば変異種の相手が出来る。夢のような武器だと言える。

 チャンクー殿から渡されたこの水銀が切れるまではずっと戦い続けられる。例え腕が上がらなくなってしまっても、気合と根性で戦い切るのだ。

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