第七十九話
ここで!? と思うかもしれませんが、SIDEガイトルです。
今回あくまで蝗害を『最強の軍』として扱っているので、主人公VS魔王の熱いバトルもいいですが、軍VS軍も書きたいな~と思いまして。
~SIDE ガイトル~
ビクトリア決戦最後の舞台、ケニア。
敵軍は一か所に固まっており、タンザニア・ウガンダからの軍とケニア軍で挟み撃ちをする形になる。さらに今回は、ビクトリア湖では異例の海戦も行う。
こちら、タンザニア・ウガンダ軍を指揮するのは、殉職したクラグ大隊長に代わってこのガイトル。
前回、前々回の戦いによってタンザニア軍は消耗が著しく、こちら側の軍はウガンダ兵の割合が多いため、今回はジェリアス殿には指揮を辞退してもらった。なによりジェリアス殿に対するウガンダ兵の信用のなさが怖い。
ジェリアス殿には前回と同じく少数精鋭の遊撃部隊を担当してもらう。彼らは全体の指揮とは別に、化生方が対応できない強力な敵を相手してもらう。
ジェリアス殿にもこれで納得してもらった。
彼は「自分には直接戦闘以外に才能がないから」などと言っていたが、あの年齢でタンザニアの全軍指揮権をもらっているということの功績が分かっていないらしい。
俺に言わせれば、彼のその頭脳、そして人格こそが最大の長所であるというのに。
場所を反対側に移して、ケニア軍を指揮するのは向こうの将軍格であるホゥェップ。戦車兵の指揮に長け、魔力式貫通火砲を応用した『魔力式長距離砲』という巨大な戦車に乗り込みこれを自在に操る。
ビクトリア湖に浮かぶ二隻の戦艦を動かすのは、同じくケニアのドゥェッド。彼はアメリカにて10年の海戦を勉強、訓練しており、彼以上に海戦ができる人間は今ここにいないそうだ。
時刻はいつも通り夜中。暗い時間になるとバッタたちの活動能力は大きく低下し、戦闘が格段に楽になる。あくまでもビクトリア湖周辺を守るために戦っている奴らは、戦う時間を選ぶことが出来ないのだ。
我々の目的はバッタを殲滅することであり、強力な敵を撃ち倒すことではない。そのため戦車は広範囲、等間隔に配置し、長距離射撃が得意な射手を乗せている。
そもそもこの程度の武装では魔王の相手はおろか、上位人型種や破壊種を倒すことすらかなり難しいのだ。
強力な変異種の相手は、魔法の武器がそろっているケニア軍や戦艦に任せることにして、我々は全体の数を減らすだけの仕事である。
本来ならば木々が青々と茂るビクトリア湖沿岸。しかしそれらは無残にもなぎ倒され、食いつくされている。
そんな、現地民からしてみれば悲しい平坦な土地に整然と並ぶ戦車。今だけはこの状況を「戦いやすくていい」と考えるべきか。
数分後、チャンクー殿からの通信ののち開戦の合図が鳴り響く。
それは化生お二方から放たれる極大魔法。隕石でも落ちたのかというほどの轟音は大気を振るわせ胸を撃つ。
訪れる衝撃は超重量の戦車を揺らし、目を焼くほどの閃光は圧力となって我々の脳を刺激する。
開戦を今か今かと待ち構えていたはずの全軍はしかし、想像以上の大魔法に慄き動き出せずにいた。例え味方の攻撃であっても、そのあまりの破壊力を目の当たりにして動けるものは少ない。現に俺もすぐには動き出せなかった。
しかしそんな中、いち早く走り出した者がいた。
最初は当然、魔法を放った本人であるジダオ殿。彼の走力に追いつける者はいない。時点でもう一人の化生チャンクー殿。
風よりも早く、銃弾のように走る化生たちはまことに勇猛果敢というほかない。
だが我々の中にも、人間の中にも勇猛果敢な男がいた。
ジェリアス。タンザニア最強の戦士。彼は我々の軍から最速で走り出した。走力こそ化生方には及ばないが、走り出したタイミングは同じであったに違いない。
彼は遠目からは、先程の攻撃に少しもひるむことなく動き出したように見えた。遊撃部隊の車両も走る彼に追随していく。
それを見て、俺もようやく動き出すことができた。
やはり彼の才能とは、人を動かす能力なのだ。言葉だけでなく、自らの行動でもって周囲の人間を動かすことができる。そういう人間こそが人の上に立つべきなのだと、今この瞬間に思った。
「全軍、進めぇーい!! 憎きバッタどもを蹴散らすのだ!!」
俺の指示に従って美しく並んだ戦車が一斉に動き出す。士気は高い。遊撃部隊の果敢な突撃と俺の指示によって、全員が今の状況を理解したのだ。
先程の攻撃は敵を殲滅するためのもの。自分たちに向けられることは絶対にない。そして今から、その攻撃があのバッタどもの大将を滅ぼすのだと、自分たちはその補佐が出来るのだと息まいている。
開戦の一撃でこちら側の敵軍は少ない。魔法の武器が不足していることを考慮してのことだ。さらに言うと、こちら側を警戒した敵軍が向こうに背を向けて攻撃を開始すれば、魔法の武器が充実したケニア軍が砲撃にて殲滅してくれるのだ。
我々タンザニア・ウガンダ軍はひとまず生き残ったバッタを殲滅する。
ジダオ殿とチャンクー殿が突撃した地点に生き残りが集結し始めている。円状に生き残った者たちを我々が叩くのだ。
我々から見て左側にはジェリアス殿が走っている。あそこに強力な敵がいるのだろう。そこにも多くのバッタが集まってきている。
ジダオ殿やチャンクー殿よりもジェリアス殿の方が心配だ。
俺は戦車どうしの間隔を少し開き、ジェリアス殿の方を集中的に放火できるよう調整した。
一斉に放たれた砲弾は集結し始めていたバッタを容易に滅ぼし、群れを分断させた。
こうして遠くから群れの動きを監視しつつなるべく分断することで直接戦闘をする者たちのリスクを減らす。
今の俺たちに出来るのは彼らのような派手な仕事ではないが、これをしなければ彼等の負担は激増してしまうのだ。
全軍の動きを見つつどこに攻撃するのか指示を出すのは俺の仕事。そして弾を命中させるのはこのために育ててきた部下たちの仕事。
一番死ぬ危険性は低いが、精神的苦労は凄まじい。俺の采配一つで、誰かが死ぬかもしれないのだ。もしかしたら、この戦いの勝敗を決してしまうかもしれない。そんな気苦労は、何度戦場を経験しても慣れはしない。むしろ慣れてはいけないものとも思っている。
だがまぁ、流石にこの歳にもなると指示の出し方は慣れたものだ。バッタの群れとはかなり距離が離れているし、俺の指揮は飛行種すらも寄せ付けない自信がある。今回は銃の扱いに長けた歩兵も多く連れてきている。
と、順調に戦場を掌握していると、チャンクー殿の戦闘に動きがあった。
戦艦用の作戦にあった隆盛・金という魔法だ。戦車の砲撃がギリギリ届くほどの距離。そのレベルであっても容易に目視できる大きさの鉄山。あれを今から戦艦の主砲で破壊するのだという。俺には到底理解できない作戦だが、意外にも成功予測をしっかり立ててきている。
戦艦は予定通り戦場からかなり離れた位置に到着している。バッタどもは長距離飛行能力を獲得しているが、あそこまで辿り着く前に同乗している射手に打ち抜かれてビクトリア湖の藻屑となるだろう。
だがまあ、そもそも戦艦まで向かわせないよう群れをコントロールするのも俺の仕事なのだが。
次の瞬間、開戦の大魔法に勝らずとも劣らない轟音が響き渡る。この距離でもありありと分かる金属音。そして超特大の爆発。
チャンクー殿が巧みに操り一点に集中させた変異種を一瞬にして消滅させた。
我が軍からも、完璧な作戦と砲撃の威力を称賛する声がそこかしこから聞こえてくる。
これでまた士気が向上した。このままの勢いならば今回も勝利できるだろうと確信できる。
そう、思っていた。
向こうでどんな会話が繰り広げられているのか俺には分からない。
しかし事態は急変した。蝗魔王が本気になったのか、それとも今の攻撃が何かの引き金になったのか。
チャンクー殿が追えない距離に大量のバッタが召喚された。
それは俺たち魔法の武器を持たない兵が相手するのを避けてきた上位種ばかり。だが今この瞬間、俺たちが戦わなければならないと直感した。
戦艦の攻撃に喝采していた雰囲気が一気に引き締まる。ここからが正念場だ。
次回もSIDEガイトル続きます。てかしばらくチャンクー君はお預けかな。