第七十八話
今回理系さん方にめちゃめちゃ怒られそうなガバガバ理論が出てきますが、素人の創作ということで多めに見て欲しいなぁ。でも解釈違いの指摘は嬉しいのでぜひお願いします。
ワイに理系の正しい知識をくれぇ!
走る、走る、とにかく走る。壁を蹴り、数本の銀槍で宙を舞い、その空間を立体的に動き回る。
たった一瞬でも止まれば、その瞬間に視認できない速度の弾丸が俺を打ち抜くだろう。
それは、対象に触れた瞬間、絶命しながらも確実に敵を屠る超高速の上位飛行種。まさに蝗魔王の眷属といえる生物だ。
奴らの命中精度はそれほど高くないらしく、走り続けていれば撃たれることはない。これがもしも直線的に走っていたのならすぐにでも命中していただろうが、鉄山を立体的に走っているために向こうも狙いが付けづらいらしい。
しかしこちらからも上位飛行種の突進の予備動作が全く視認できないため、運よく避けられていると言うほかない。
さらに言うと、上位飛行種の突撃が来るたびに鉄山の一部が崩壊している。その分俺の逃げられる範囲も狭いくなっていくのだ。
いずれ隆盛・銀の限界が来るだろう。しかもそれは上部が限界になるだけで、下部の設置型魔法が大量にある部分はこれまで通り大型種に消費され続けてしまう。
「さぁて、そろそろ俺も参戦しよーかな」
俺が必死に動いて上位飛行種の攻撃を避け続けていると、不意にそんな声が聞こえてきた。
ここにきて蝗魔王本人が動き出すらしい。よく考えれば、上位飛行種が攻撃を開始してから小型人型種も攻撃がかなり薄い。
まずはやはり上位飛行種が攻撃を仕掛けてくる。これを運よくすんでのところで躱すと、今度は小型人型種が五体、俺を囲むようにして拳を叩きつけてくる。
この攻撃を喰らうわけにはいかない。奴らの攻撃は俺の鎧を簡単に突破してくる可能性が高いのだ。
姿勢を大きく崩すことになるが、ここは数本しかない銀槍を用いて奴らを蹴散らす。
小型人型種は確かに移動速度に優れ、かつ圧倒的な防御突破能力を持っているが、その小ささゆえに弾き飛ばすのは簡単である。
しかしここで銀槍を使ってしまったことで俺の機動力は若干下がった。その隙を見逃してくれるような相手ではない。
ほんの少し俺の移動速度が下がったその瞬間、その場に上位飛行種の弾丸が飛来した。
だがこの程度を予想できない俺ではない。今度はわざと銀槍を下に伸ばす。地面に鉄壁はないが、銀槍の先端を突き刺すことで急降下することは可能だ。
今回は運ではなく完璧な読みによって上位人型種の攻撃を回避することができた。
だが俺が狙っているのはその程度のことではない。
先程参戦する宣言した蝗魔王を迎撃するために地上に降りたのだ。
バッタであるこいつらは当然鉄の壁に張り付いて移動できる。蝗魔王ほどの実力ならば、空中戦は俺の方が不利だろう。
落下とともにそこにいた大型種を拳で叩き潰す。タングステンで武装した拳は、生物には絶対にありえない硬さと重さを持っている。その一撃は装甲車並みの強度を持つ大型種の外骨格を容易に粉砕した。
さらにある程度の広さを確保するため黒の剣を用いて何体かの首を切断しておく。
既に鉄山の内側は地面の土色が見えないほど大型種に埋め尽くされており、これだけの数を一度に相手するのは俺でも厳しいところがある。
しかし奴らのメイン武器はその太い足。銀槍で自分の身体を持ち上げ常に真上を取り続けることができれば、そうそう喰らうような攻撃ではないのだ。
と、四体目の大型種を切り付けようとしたとき、視界の端に何かが映った。
それは明らかに小型人型種よりも速い。上位飛行種の突進にも近いだろうその速度、どうして目で捉えることが出来たのか俺にも分からない。
とにかく俺は咄嗟に白の剣を振り上げた。本能がそうしろと命令したのだろう。剣を当てる位置、タイミング、強さ、そのすべてを無意識のうちに決定し実行していた。それが最善であると、俺の脳のどこかで感じた。
次の瞬間に到来したのは今までにないほどの衝撃。タングステンの全身鎧によって車以上に体重がある俺の身体を容易に吹き飛ばす威力。
構えていた白の剣によってそう大きなダメージは受けていないが、これによって力関係が分かってしまった。俺は奴に対して重量が足りな過ぎるようだ。
「ったく、軽ぃ~なァ。拳の一発でそんなに吹き飛んじまうとは。今の一撃、お前の拳と何が違うのかお前に分かるか?」
……やはりこいつか、蝗魔王ワン。こいつの攻撃だけは防ぎ切れない。上位飛行種の攻撃はワンよりも強いものかと思っていたが、どうやら思い違いだったようだ。
間違いなく、こいつは今まで遊んでいた。今までの攻撃はどう考えても先程のものより弱かった。
クソッたれ。
天井がほぼ解放された鉄山。背には鉄の壁がある。目の前には大量の大型種。飛び交う小型人型種。そして今にも俺を打ち抜こうとどこかに潜んでいる上位飛行種。その先には蝗魔王がいる。
本当にクソみたいな状況だな。大型種の壁が厚すぎる。こいつらを相手にするのはあまりにも時間が掛かるし、蝗魔王はこれを制限なく召喚できる。
それを考えれば、本来なら大型種など無視して蝗魔王本人を直接叩くのが良いだろう。
しかし小型人型種と上位飛行種の突撃によって奴のもとに近づくのは困難を極める。
蝗魔王は眷属を無尽蔵に召喚できる。ならば奴からしてみれば、小型人型種や上位飛行種などは遠距離攻撃の弾とほぼ変わらないだろう。奴の眷属は死をなんとも思わないのだから。
ならばこちらも遠距離攻撃で対抗するのが得策か。
「とにかくまずは蝗魔王までの道を切り開く。火炎岩石砲・連弾!!」
周囲を埋め尽くす大型種の群れに炎を纏った岩の弾を大量に撃ちだす。火炎岩石砲の消費は他の攻撃魔法に比べて少なく、弾幕を張るのに向いている。
俺が撃ちだした弾幕の厚さを見誤ったのか、上位飛行種が突っ込んでくるも俺にたどり着くよりも先に弾丸に接触。その場で砕け散った。
小型人型種もなかなか俺のもとに辿り着くことができない。
火炎岩石砲・連弾は多くの眷属を相手せずに蝗魔王の元まで走るのに最適の魔法といえる。
「あとは体積のデカい大型種だけだな。武装変更、磁力式破砕鎚!」
取り出したるは、とある仕掛けを組み込んだ超巨大ハンマー。持ち手の部分が長く、遠心力によって通常よりも遥かに強いパワーを引き出すことができる。材質は当然タングステンであり、その重さと硬さを限界まで活用できる武器である。
俺の攻撃の要である双剣は、持ち手の部分に埋め込む形で収まっていた。
これを肩に担いで走り出す。全方向に火炎岩石砲を放ち小型の眷属の攻撃を抑制しつつ、大型種の眼前にまで肉薄した。
少々モーションは大きくなってしまうが、鈍重な大型種よりも一瞬早く攻撃を叩き込む。
超巨大ハンマーは敵の顔面にぶち当たりその外骨格を破壊した。さらに追撃。ハンマーを再度振り上げることなく接着したその場から二撃目を叩き込み大型種を絶命させた。
「……装填」
超巨大ハンマーから『ガゴン』という重たい音が響く。
超巨大ハンマー、正式名称『磁力式破砕鎚』は、その名の通り内部に超強力な磁石が入っている。これも融合力によって生成できるようになったものだ。
複数の磁石がくっついた状態で、勢いの乗った磁石をくっつく面にして叩きつけると、逆端の磁石が叩きつけられた勢いよりもさらに強く飛び出すという性質がある。
これはあまりに重く、摩擦の大きい物体だと実用できないものだが、ハンマーを叩きつけた瞬間、その内部の短い距離だけで作用させることで無理やり実用化しているのだ。
この磁力式破砕槌はリーチも長く、たった二撃加えるだけで硬い大型種や破壊種すらも撃破できる。
武器をその場その場で変更できるという俺の強味を最大まで活かした魔法といえる。