第七十五話
おひさーでござる。復帰したてでかなり意味不明なこと書いてる自信ある
ズドォォォォンン!!
腹の奥底に響く爆発音。隆盛・金によって生成した鉄山に備えていた設置型魔法、爆雷が起動した音だ。
爆雷は触れるだけで発動し、周辺の敵を粉砕する。さらに今回は針山によって追撃もあり、敵の進行を大きく遅らせている。
隆盛・金は根元部分に設置型魔法が多く、隙間がかなり狭い。
大型種は上から登ってこなくてはいけないが、爆雷では奴らを足止めするのが難しい。
対して人型種は隙間を通り抜けてくるが、設置型魔法によって大きく足止めできる。
これによって飛行種以外の変異種がちょうど同じタイミングで俺に辿り着くよう設計しており、こいつらを一網打尽にする策を打てるようになった。
しかし、人型種や大型種は本当に脳が足りていなんだな。
ジダオも言っていた。あれらには多彩な思考が出来ないと。せっかく立派な羽を獲得したのだから、それを使ってパタパタ飛んでくればいいのに。
どうやら人型種に組み込まれている習性はかなり強力なものらしい。
奴らは今までの戦いでもそうであったように、強力な敵に対して一直線に最短距離を駆け抜けるという習性を持っている。
通常なら木々が生い茂っているはずのビクトリア湖沿岸の植物を食いつくし、かつ遠距離攻撃に対して絶対の回避性能を誇る人型種だからこそのものだろう。
対して大型種や破壊種はその巨体を最大限活かしてえっちらおっちら鉄山を登ってくる。それはそれで良いが、やはり羽を使う方が速いんじゃないかとも思う。
しかし、そもそも奴らが飛行能力を獲得してること自体がおかしいのだとジダオが言っていた。
普通、家ほどもある巨大な生物が、サイズだけそのまま大きくした程度の羽で飛行するのは不可能なのだ。
クマバチが理論上空中を飛行できないのと同じで、彼ら昆虫は小さいことによってその飛行能力が成り立っている。
人型種も飛行というよりは滑空に近い飛び方をしていた。ならば奴ら大型種が空を飛べるのは殊更おかしい。
まあ、今はそれが俺にとって有利に働いている。奴らが想定を超えた挙動をしないことで、隆盛・金はその効力を発揮している。
ただ、ここで俺も想定していなかった敵が数体存在した。まさかまだ新種がいるなんて思ってなかったぞ。
大型種並みの巨体を持ち、しかし悠々と宙を舞う新種。八本の足に六枚の羽、以前に倒した神虫に限りなく近い外見を持つそいつは、俺が用意した罠を一つも喰らわずに接近していた。
やっぱ空を飛んでくる方が強い。空中に設置型魔法を置くのも不可能ではないが、かなりの集中力と融合力を使う。
近接戦闘中の間合いなら利点もあるが、多対一かつこれだけ距離が離れていれば、消費に対してリターンが全く吊り合っていない。
ひとまず今警戒すべきはあの偽神虫だな。飛行種は俺の装甲を突破するほどの威力を持たないし、ここまで辿り着いたとしても俺にまとわりついてくるだけだ。俺の身体にちょうど合わさるよう設計したこの鎧に入り込めるほど奴らは小さくない。
偽神虫。一目で本物の神虫でないことは分かった。奴らには俺を見事に騙して見せた彼ほどの知性が感じられない。
しかしそうだとしても、あれは神虫を模して創られた生物なのだ。あの巨体で宙を飛べることからも、決して侮っていい相手ではない。
幸いにも奴らの数はそう多くない。蝗魔王の魔法次第では今後さらに増える可能性もあるが、しばらくの間はあいつらだけ相手していればいいだろう。
「火炎岩石砲!!」
宙を飛んでくる偽神虫に対して炎を纏った岩を放つ。奴らの飛行能力はあまり高くないようで、射撃能力の低い俺の岩石砲でも命中させることが出来た。
だがやはり神虫の模倣か、俺の攻撃一発程度では易く突破できない耐久性能を誇っている。
火炎岩石砲を数発当てたところで奴らは地上戦の方が有利と考えたのか、半ば落下するように地面へ降りた。
数は六体。隆盛・金の中心部はそれほど広くはなく、奴らの巨体もあいまってかなりの密度だ。俺は偽神虫に囲まれている形になる。
しかし、本当に神虫の見た目を模倣しただけなのだと確信した。この狭さで、家ほどもある生物が六体。俺は簡単に奴らの下に潜り込むことができ、向こうはそう安易に攻撃することができない。
本物の神虫ならば絶対にこのようなミスはしないだろう。
俺を囲みこんだことで状況有利を作り出したと考えた偽神虫たちは一斉にその鋭利な爪を振り上げる。
神虫の模倣とは言え、火炎岩石砲を耐えきる防御力は警戒すべきだ。そして恐らくその攻撃力も、神虫にかなり近いものになっているだろう。
俺は即座に正面にいる一体の下に入り込むことを選択した。
ここまでの近接戦闘、さすがに自分をこの場に固定したまま戦うのは無謀すぎる。俺は地面に突き刺していた脚部装甲を中ほどで外し、軽くなった足で走り出した。
体勢を大きくかがめ、白の剣で相手の攻撃をいなしつつ潜り込む。偽神虫の腹の下は天井が低いために低姿勢を強いられるが、攻撃するのならこれ以上適しているものはない。
偽神虫は俺が腹の下に潜り込んだことを察知した瞬間真ん中四本の足で追撃してくる。だがこれは以前に神虫と対峙したときに何度も見た。
自分から見て右側の足を黒の剣で弾き、左側を白の剣で受け止める。
右側だけ足を弾かれた偽神虫は若干体勢が崩れ不安定になった。しかし偽神虫の足はもう二本右側に付いている。すぐに姿勢を戻して腹下にいる俺へ反撃する準備を整えた。
だが俺にはその数瞬の隙だけで充分である。
黒の剣と白の剣に魔力を込め、その刃に宿る魔法を解放した。黒の剣は絶対的な攻撃力。白の剣は圧倒的な防御力と、部位欠損ダメージを一時的に補う。
俺が直接剣に干渉して魔法を発動させる場合、言葉によって簡略化された魔法を使うよりも遥かに高い性能を発揮することができる。
魔法を解放された黒の剣はまるでバターを裂くかのように偽神虫の後ろ右足を切断する。
俺は続けざまに左側の後ろ足を切断し偽神虫の腹の下から脱出した。
奴の腹下を走り抜けた俺は即座に振り返り、痛みを全く感じさせない追撃を白の剣で防ぐ。白の剣はやはり抜群の防御性能を持っており、偽神虫のメイン武器である前足の爪すら容易に防いでみせた。
これで俺は鉄山を背に、奴らを一方向に捉えた形になる。
「偽神虫ども、てめぇらの雑な戦いであの戦士を汚すなよ。炎砲!」
正面に立つ全ての偽神虫に向かって炎の塊を放つ。半径4m以上。それは黒の剣を経由することで奴らにも充分に通用する火力となっており、直撃した者はその圧力で押しつぶされ、直撃を免れた者もその熱量を耐えきることは出来ない。
酸素断絶結界にも劣らない熱量。本物の神虫であれば、この直撃を易々受け入れることはなかった。仮に直撃を喰らったとしても、その圧倒的な耐久力で生き残って見せる。
だが奴らの場合、直撃を喰らった二体は即死。残りの四体も大ダメージを受けている。
正直がっかりだ。神虫ほども強い敵が六体も現れたのかと、俺は恐れると同時に期待もしていたのだ。
だがその実、奴らの実力はただの模倣でしかなかった。それは戦闘の上では嬉しいことなのだが……。
奴らは俺の攻撃を警戒してすぐには動こうとしない。それすらも愚策であると気づいていないのだろう。もう一度さっきの魔法を使えば今度は全滅させられる。
取り敢えず奴らが仕掛けてこないうちに少し周りの状況を把握しておこう。
顔をあげて確認してみると、大型種と破壊種は順調に鉄山を越えてきている。人型種もボロボロになりながら走り続けていた。
もう30秒もすれば全ての変異種がこの場に集結するだろう。今のうちに、ある場所に報告を入れておく。
「さて、これからまたどの程度召喚されるのか分からないが、ひとまずお前たちは殺しておこう」
俺を警戒してその場に留まっている偽神虫四体に急接近し、黒の剣で雑に切り付ける。当然奴らも反撃してくるが、先程のダメージで動きが鈍くなっていた。この程度の攻撃、避けられないはずはない。
『……砲撃準備完了! 衝撃に備えてください!』
どうやら偽神虫を相手にしているうちに向こうの準備が出来たらしい。まだ倒しきれてはいないが、ここで無理に追撃を加える必要はない。どうせすぐに殺せるのだから。
タイミングはバッチリで、大型種・破壊種・人型種のほとんどが俺のところに集まってきていた。一見すれば絶望的な状況。しかしそれを覆す最強の一手を、俺たちは持っている。
遥か遠くから響く重厚な爆発音。それは、鉄山に設置した爆雷とは一線を画す威力を内包していた。
俺は静かに、何が起こるか理解していない偽神虫の目の前で白の剣を構える。
「ッ! ……まえたち! 今すぐ……から離れろ!」
何処からか蝗魔王の声が聞こえた。しかしその声は、飛来するそれによって掻き消されてしまう。
一瞬の轟音。続いて届くは、どのような生物であろうと一撃で絶命せしめる圧倒的な熱量と衝撃。
それは一点に密集した変異種たちをいとも容易く粉砕していく。
「知ってるか、ワン。今の時代、何十万と軍を揃えたところで、範囲大火力の前では無力なんだ。お前の時代なら、お前の軍は天下一だったかも知れねぇ。だがな、もう世代交代の時だぜ。蝗魔王ワン!」