第四話
そういえば外見に関する描写がなかったので第一話にちょっと追加しときました
「あ~違う違う。ジダオ、それじゃさっきと同じじゃないか。力の塊を切り離すんじゃなくて、体にくっつけたまま氷にするんだ」
食後の休憩中、早速俺はジダオに力の扱いを教えていた。予想していた通り、感覚の違いによって教えるのは困難を極めた。
ジダオは俺ほど力の形を具体的に捉えることができないらしい。
俺は力を使うときに、水のような無形の物体の形を変えて外見を作り、その形を作るのに使った量分のエネルギーを熱や投擲に使うことができる。もう少し頑張れば、小さい形に大量のエネルギーを突っ込めるはずなんだが。
ただまあ、そんなことしなくても体に力が繋がったままだから、そこから力を加え続ければ小さい形でも熱ぐらいは増幅できる。
しかし、ジダオは俺のように力を水のようだとは感じていないらしい。自分から力をごっそり切り取ってザックリ力に方向性を与えて、あとは力の塊が勝手に形を作る、というものだ。細かい調整が必要なく、瞬間的に大火力を出せる。
俺はこれをすぐに使えるようになった。単純なパワーでは俺の方法よりも明らかに強い。
爆発や突風といった、形を持たせる必要のない攻撃をノータイムで打てる利点は大きい。だがジダオは、この感覚に引っ張られすぎて、具体的な形を必要とする氷の生成に難儀している。
「難しいな。力に形がある、というのがまずわからない」
「力そのものに形はなくて、形はこっちで作るんだ。体にくっつけたまま現象を起こすのはできそうか?」
「ん~、意味が分からん。力をまとめる、形を構成する、その力に意味を与える。このとき、まとめた力は体から独立した性質を持つが体から切り離すと細かい調整や出力の途中コントロールができない」
なんかめっちゃ難しいこと言ってんな。確かに力の使い方を細かく言葉にするならそんな感じだが、実際に扱ってみればそんなに難しいことはしていない。
「お前、さっきは氷の塊を作れてただろ。あれはどうやってたんだ?」
「あれは大きめの力のプールを小さく圧縮して、強力な寒気の力を発生させて無理やり氷にしただけだ。ただそれだと燃費が悪すぎる」
「なるほど、力は無理やり圧縮すると形を与えていなくとも物体になる。だが切り取った力の大部分を使ってしまっていて、発射することができない。だからジダオが作った氷塊からは運動に関する力を感じなかったのか………。なら今度は俺がジダオの力に干渉して形を作ってみようか」
それに俺は、ジダオの力に干渉したことがない。そっちの検証もしてみないといけない。
「それがいいだろうな。このまま続けていても俺は力を体にくっつけたまま変形、変質させる感覚を掴めそうにない」
ジダオはそう言うと額の近くに力を集めていく。その力はまだジダオにくっついたままだ。まだ何の意味も形も持っていない、やはり水のようなもの。
これに力を加える。なるほど、確かに力に干渉できる。だがそれは自分の力ほど自由にできるわけではない。自分の力を直接手で扱っているとしたら、ジダオの力に干渉するのは箸や機械のアームで扱うようなものだ。
ジダオの不定形の力を氷の形に整えていく。このときジダオの身体から切り離さないよう慎重に操作する。人の力に干渉するのはめっちゃムズイ。
さらにジダオの身体から追加で力を引き出す。できるか怪しかったが割と簡単だった。
「おお! これが自分の身体から力を引き出して行く感覚か! 力をくっついたまま変形させるのもどうにかできそうだ」
「良かった。よし、ここで俺の干渉を切るぞ。力に氷の性質を与えて、さらに発射できるように力を追加してくれ」
ジダオの力から干渉を絶つ。なんかこれ子どもに自転車の乗り方を教えるお父さんみたいな感覚だな。
ジダオはすぐに氷の形をした力に性質を与えていく。さらに氷に力を加えていく。どうやら体内から力を引き出すのも問題なさそうだ。
「よし、その氷を俺に向けて発射してくれ。俺も自分の耐久力をテストしておきたい」
「いいだろう! さあ受け止めてみろ!」
ジダオから氷の弾丸が発射される。形は俺が作った。風の抵抗によって自然に回転し、先端は鋭く、物体をたやすく貫く破壊力を持っている。速度は俺がライオンに使った岩石砲よりも速く、一瞬で俺に到達した。
流石ジダオだ、単純なパワーは俺を上回る。
俺はこれを真正面から拳で受け止める。俺の身体能力でも、拳を間に合わせるのでギリギリだった。踏ん張りだとか腰を入れるだとか、全身を使った構えは間に合わない。
だが俺の拳は氷の破壊力をもってしても砕けず、逆に氷は自身の勢いも相まって粉々に砕け散る。
恐らく発射の速度に対して氷そのものの耐久力が追い付いていなかったからだ。
にしてもこの体、人型にしてはだいぶ頑丈だな。流石に皮が剥がれたり、先端が刺さったりするかと思っていたが。
だが全くのノーダメージというわけではない。氷は砕けたが威力は岩石すら粉砕して余りあるほどだった。俺の骨に響いて数秒の間、骨と筋肉が分離しているかのような感覚があった。
とは言え、やはり人型とは思えない身体機能だ。この至近距離であの速度の氷に反応できたことも、この体のおかしさを示している。
「なかなか良い氷弾だったぞ。強度はともかく、俺の内部にまで浸透する威力。目指している敵にも十分通用するはずだ」
「それは嫌味か何かか? 俺はお前の手を吹き飛ばすつもりで撃ったんだが。もっと反復練習して氷の結合を強くしないといけないな」
正直な感想のつもりだったんだが、確かに今のだと嫌味に聞こえるな。俺は人型なのに会話が下手だ。
てか俺の手を吹き飛ばすつもりで撃ったって、本当に俺の手が吹き飛んでいたらどうするつもりだったんだ。確かに氷に強度があれば俺の手の方が砕けていてもおかしくはなかったが。
これは、何か対策する必要がありそうだ。俺の耐久力がこのレベルなら、ジダオはもっと頑丈だろう。
「ま、まあ今日はもう暗くなり始めたし、ジダオは氷弾の反復練習をしていてくれ。俺も自分でやってみたいことがある」
「それはいいが、やってみたいこと?」
「ああ、火山の力を使った鎧の作成だ。人型は皮膚が薄いしお前みたいな体毛もない。お前の熟練度が上がったら、俺の脆さが目立ってくるだろう」
俺の地の力は天の力よりも硬く、重い物体を作るのに向いている。それに、人型の身は鎧や武器の装着にも適している。
本来の人型の戦いは、鎧を纏い、様々な武器を扱うものだ。拳だけで戦うだけでは人型の真の力を引き出すことはできない。
挑戦の開始だ。
俺はまず、力を全身に纏わせる。関節の部分は鎧を作らず、簡単な形をとる。力を追加し、圧縮。これを繰り返し、強度を増していく。
足の部分から慎重に力を物質化していく。俺が生まれた火山島のように黒く、圧縮された力は鎧を強化していく。重く、硬く、どんな攻撃も通さないように。
「よし、試作型の完成だ。だがこれ、結構動き辛いな。重量は問題ないが関節以外もある程度動かせるような設計をしないといけない」
試作型をさらに改良すべく、次の鎧を作り始める。
横目で反復練習中のジダオを見ると、見る見るうちに氷の硬度が上がっていくのが分かる。だが、発射する標的が無くて作った氷をそのままにしていた。
「そうだ、ジダオ! 俺の試作型鎧を的にするか?」
「良いのか? それは助かる!」
「ちょっと待ってろ、中身を岩で埋めて重くする。ついでに地面に縫い付けて動かなくしておこう」
中身を埋めた鎧をジダオに渡す。ジダオは鎧から距離をとってすぐに氷弾を打ち始めた。速度もどんどん早くなっている。すでに俺に撃ったものは大したことがなくなっていた
。
ジダオは成長が早い。力の扱いも一度感覚をつかんだだけですぐに覚えた。感覚的な部分で理解できることが多いのだろう。俺も頑張らなくては。
早速新しい鎧を作っていく。さっきよりも硬く、重く。関節以外の部分も動かせるよう新しく設計していく。
さらに武器も作っていく。剣、刀、槍、薙刀、長棒その他もろもろ。金属ではないが重量があるから十分使い物になるはずだ。
それから大量に鎧と武器を作っていく。何度も作っては肌に合う物に近づけていく。精度もだいぶ上がってきた。
そしてついに、楽に動かすことができ、自分の身を任せることのできる鎧を作ることができた。ついでに武器の扱いを知ることもできた。
「ジダオ! 見ろこの鎧。お前の氷弾も絶対に通さない自信がある!」
「フン、そうか。俺の氷弾もだいぶ強くなってきたぞ。その鎧で本当に防ぎきれるのか?」
見ると、ジダオの足元には粉々に粉砕された試作型たちが転がっていた。それなりに自身のあったやつも粉砕されている。
「やってみるか?」
「俺の方が強いことを示してやろう!」