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※パラレル地球の救い方※  作者: Negimono
第一章 アフリカ編
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第六十六話

~SIDE ジェリアス~


 三人一組のグループから先頭の一体を消したことで、奴らは大きく慌て始めた。

 彼らの連携能力は、三人一組だからこそ発揮されるものなのだ。二人一組では急所を完全に隠すことができない。

 しかも手数が減る。下位種の攻撃速度は実は大したことがなく、私が魔法銃を速射しリロードする方が速い。その点を彼らは手数の多さで補っていたが、今ではそれも出来なくなってしまっている。


 奴らの混乱が覚めないうちに攻撃を仕掛けた。近場の人型種に斬りかかり、今度は二体目もしっかり絶命させていく。

 間髪おかずに後方対角線上にいる人型種を魔法銃で打ち抜く。しっかり魔力量を制御し放った弾丸は、敵を二体倒したところで途端に勢いを失った。

 後方は自軍、先ほどのような高威力の魔法を使うわけにもいかないだろう。


 奴らには感情を制御するための脳細胞が致命的に足りていない。だからこの混乱のような反応はその実、混乱ではないのだ。

 故にこの状況には何か意図があるはず。向こうが仕掛けてくる前にとにかく数を減らしておくのがいいだろう。


 私がさらに三体の下位人型種を倒すうちに援軍が追いついてきた。かなり離れた位置に停車し、援護射撃を開始する。

 チャンクーさんが用意してくれた弾丸のおかげである程度戦えるとは言っても、彼らは魔法が使えるわけではないのだ。直接攻撃を喰らえば即死は免れない。


 私も化生様のように弾丸を受けて平気でいられるわけはない。だから支援攻撃は私から距離を取って機を窺っていた上位種や大型種に向けられた。

 援軍は全体的な人数こそ少ないが、今回は弾幕の密度も威力も違う。上位人型種であっても容易くは近づけない。


 仲間たちの支援を背にまずは近場の下位人型種を全て片付ける。

 大剣を力に任せて大きく横薙ぎに振るう。私に剣の心得はない。だが、この身体能力ならば下位人型種に致命打を与えるのはそう難しいことではないのだ。


 快調な戦いぶりだったが、やはり奴らは逆転の一手を仕掛けていた。

 私が孤立した人型種に大きく接近したとき、私の意識の外側から攻撃を受けた。


「迂闊ニ近ヅキ過ギナンジャナイカ? 貴様、我々ノ(ちから)ヲ少シ侮ッテイルダロウ」


 私が切り裂いた人型種はしかし魔法の力を受けても即死せず、四本の腕でがっしりとその大剣を抱き込んだ。

 チャンクーさんとは違って替えの武器を用意できない私はこの大剣を失うわけにはいかない。しかしこれが悪手だったのだ。


 奴から武器を取り返そうと自分側に引き寄せてしまったために、その一瞬の隙を突かれた。

 人間の視線はどれだけ強化されても所詮人間の域をでない。人間の姿を取っていても複眼によって広い視野を確保している奴らとはそこに決定的な差があった。


 私の視界の端にそれが移った瞬間、私はその身を大きく舞わせていた。

 何が起こったのかはすぐに分かった。グレネードだ。いつの間にか音もなく接近していた人型種が、私の死角から爆発物を投げ込んできた。


 奴らを侮っていたつもりはない。最大限警戒していたし、五感を強化して接近を逐一把握していたはずだった。

 だが奴らは私の予想を超えてきた。そうか、これが侮っていると言うのか。そのつもりはなかったが、無意識のうちに奴らの力を決めつけていたのだ。


 このグレネードはさっきの大型種の意趣返しのつもりなのだろう。

 しかし私も馬鹿ではない。奴らがグレネードを扱うだけの知能を持っていることも知っている。

 だから爆発は常に意識していた。爆弾をもろに受けるのは最近経験済み。冷静に身体強化を発動し難を逃れることに成功した。

 私程度の力であっても、瞬間的に魔力を振り絞れば爆発を耐えきることができる。


「少し驚きましたがこれで私を仕留め切れると思っていたのなら貴方達こそ私を侮っていましたね」


 直前に切断した人型種は傷口から爆発を受け既に絶命している。今度は私にグレネードを投げ込んだ人型種に急接近しこれを倒す。

 走った勢いはそのままに下段からの切り上げを敢えて避けさせ、その後の上段からの二手目で腕を切断する。

 この剣は私には若干大きいし取り回しづらい。一瞬だけ手を離し、魔法銃でトドメを刺す。


 この間にも接近してくる人型種がいたが、ある程度距離のある敵は魔法銃で対処できる。この銃には奴等の認識を阻害する魔法がかけられており、発射のタイミングを悟られることはない。下位人型種程度ではこれを避けきることはできないのだ。

 そこに私の射撃能力が合わされば、接近戦以外で私が倒される要素はない。


「お主を侮っていたわけではないさ、儂が指示した。お主の力を見誤らないようにな」


 先ほどの人型種からさらに五体ほど倒したとき、そいつはようやく私の目の前に歩み出てきた。

 人間で言うと60歳くらいの、老けたしわ面。声も若干ハリを失っており、その容姿からは他の変異種が持っている力強さを感じない。


 身長は低く、しかし眼光は鋭い。いや、しっかりと立てば身長は私よりも高いだろう。

 だが彼は常に腰を落とし、即座に踏み込める姿勢を崩さない。まだ5,6mほど離れているが、この距離でも攻撃できる手があるのだろうか。


「お主、先ほどから見ておったが、迷いがないな。全力で突っ込んで無理な体勢から攻撃を仕掛け、しかしその体幹で下位種どもの反撃を許していない。先ほどの不意打ちは流石に入るかと思ったが、これも上手く避けられてしまった。まったく、手下に突撃を命じて正解じゃった。危うく儂がお主に一杯食わされるところだったわい」


 なるほど、戦力的に重要でない下位人型種を用いてこちらの戦いを観察していたのか。確かにさっきの一手、下位種が考えたにしては出来過ぎていた。

 もしグレネードを投げたのがこいつなら、逆に私が不意を突いて絶命させることができていただろう。慎重かつ残酷な奴である。


「迷いがない、ですか。確かにそうでしょうね。私に死に対する恐怖はありません。友のために戦って死ぬのなら、私にとってはそれで十分ですよ。それに、あなた方程度に負ける気はしません」


 嘘である。死ぬのは怖い。いや、何もせずに、何も残せずに死ぬのが怖い。アッサムを守りたい。立派な功績を残して、仲間たちに栄誉の戦死であると納得してもらいたい。だから今ここで死ぬことはたまらなく恐ろしい。


 しかし私は嘘を吐いた。こいつらと戦うとき、良く嘘を吐くのだ。頭が弱いわりに人型種は良く考える。だから細かい嘘に騙されやすいのだ。

 言葉で騙せる人型種は、意外にも戦闘面で騙すことが可能だ。この人型種にはフェイクが通用する可能性が高い。


「……なるほど死ぬのは怖くないか。確かにお主、人間と言うよりもむしろこちら側に近い目をしておる。死ねと命令されれば喜んで死ぬ目じゃ、気持ちが悪い。儂には到底理解できんな。だから蝗魔王様にはこんな端っこの守備を任されたわけじゃが」


 どうやらしっかり騙されてくれたらしい。

 ただ、私の目が人型種に近いというのは間違いではないだろう。何しろ私の最終目的は死ぬことなのだ。人間ではないとはいえ、アッサムの人生を奪ってしまった私には、罰が必要なのだ。


 自分でもおかしいとは思っている。あれは事故であったと理解している。誰のせいでもないのだ。だが、あの時から私の心には死んで償う以外の選択が現れない。

 アッサムがそれを望んでいないことも分かっているつもりだ。だけど私は死にたい。この命、胸を張って誰かのために使ったと、そう言いたいのだ。


 きっとまたガイトル殿に叱られてしまうな。

 それは死に場所を求めているだけの愚か者で、誰かを守りたいという本来の目的を忘れているぞ、と。


 しかし今この瞬間だけはそんなことを言わせない。こいつを殺すまでは、私は生きることを誰よりも強く望む。

 この戦いで死ぬ身だからこそ、自分の目的を果たすまでは絶対に死ぬわけにはいかないのだ。


 死ぬのは怖い。だけど、だからこそ何も成さずに死ぬのがたまらなく恐ろしい。

 私が望むはただ一つ。私に近しい人たちが幸せであれと。

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