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※パラレル地球の救い方※  作者: Negimono
第一章 アフリカ編
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第五十八話

 炎の中で、アッサムが戦っていた。血まみれになりながら。バッタどもの血は赤くない。つまりあれはアッサムか、軍人たちのもの。よく見てみると、アッサムの拳は砕けて、どくどく血があふれだしていた。


 あんなにも必死になって、後ろにいる自分の部下を守ろうとしている。やはり俺の目は正しかった。アッサムは俺たちの敵では無い。

 しかし、さっきの発言はいったい……? いや、今はそんなことを考えている場合ではない。すぐに助けに入ってやらないと!


 ここに向かってきたとき同様、烈火のごとき走りでアッサムの戦っている人型種までたどり着き拳を食らわせる。俺の拳は魔法銃から学んだ貫通魔法が施されており、奴の硬い外骨格を易々と突破して見せた。


「! チャンクーさん! 助かりました! 俺のパワーだとどうも力不足だったようで、こいつらに十分なダメージを与えられなかったんです」


「いや、それは分かるが、お前は何故魔法が使えるんだ? お前に水銀は渡していないし、そもそも身体強化を含む魔法銃をお前は持っていないだろう」


「それが、俺にもよくわからないんです。さっき急に身体の底が熱くなって、気が付いたら魔法が使えるようになっていたんです。何体かはそれで倒せたんですが、どうにもこいつはしぶとくて」


 う~む。すっとぼけているのか? クラグの言葉を信じるのならば、こいつは魃魔王カンハンの眷属の可能性が高い。先ほどの言葉を考えるのならばそういう結論に至るだろう。

 しかし嘘をついているようには見えない。それに魃魔王の力は確かに俺と似た性質を持っているが、この炎は完全に俺のもの。魃魔王の凶器のような暖かさは感じない。


 今は考えていても仕方ないか。この状況をさっさと打破して、あとで事情を聞くとしよう。

 残る人型種は三体。周りには頭部を破壊された人型種が転がっている。恐らく下位種だろう。あれはアッサムでも倒せたらしい。

 だが逆に、今倒したもの含め四体の上位種にはパワー不足のようだ。

 ここは俺が戦うべきだろう。何、今更上位人型種数体程度、神虫の強さを考えれば何ということはない。


 まずは一体。深く踏み込んで鳩尾を狙った突きを放つ。人間ではないこいつらであっても、鳩尾は身体の中心であり、内臓をつなぎとめる重要な部分。十分な威力をもってそこを攻撃してやれば、割と簡単に絶命させることができる。


 内側に抱き込むように腕の関節が作られている人型種は、俺の高速の突きに反応しきれなかったようで、もろに拳を叩き込むことができた。

 しかし俺の攻勢はここまでではない。鳩尾をわざと浅く殴っておいて弾みを付け、さらに踏み込んだところから深く拳を突きつける。


 すると、先ほどまでの位置からでは不可能だった、【身体を貫通して後ろにいるもう一体を攻撃する】ことに成功した。

 馬鹿どもめ。お前たちのやろうとしていることぐらい流石にもう分かっている。


 側面から俺に攻撃しようとしている一体と、味方の死体を盾に拘束しようと試みている正面の敵。

 正面にいたこいつを仕留めることができれば、拘束される心配はなくなる。あとは優雅に側面のこいつの拳を身体で受け止めて、タングステンで重量を強化した拳を叩き込んでやればいいだけ。


 見事な連携だったが残念。俺はお前たちとの戦闘経験は豊富でな。お前たちが不利だと感じれば仲間を囮にしてでも勝利を掴もうとすることも知っている。相手が悪かったと思え。

 奴らの連携能力は凄まじい。以前の俺がどれほどそれに苦戦したことか。しかし既にこの程度の相手、俺の敵ではなくなっている。


 当然こいつらの拳一撃程度で俺の装甲を破ることもできず、逆に俺の拳はタングステンの重量も相まって易々とその頭部を砕いた。

 あっけない。神虫はもっとしぶとかったし、魔法の剣を持っていた名もなき人型種は頭を潰された程度では引き下がらなかった。

 いくら飛蝗たちの王と言えど、あのレベルの戦士を大量に生み出すことはできないらしい。


「これで一息吐けるな。さて、事情を離してもらおうか、アッサ……!?」


 俺がアッサムから情報を聞き出そうとしていたら、突如彼の肉体が人体からは考えられない熱を放ち始めた。人間の体温は上がっても40数度まで。しかしこの熱量はその範囲に収まってはいない。間違いなく何らかの魔法の影響だ。


「ど、どうしたアッサム!? まさか、魔力暴走か!?」


 魔力暴走。魔王に勝てないと判断した昔の化生が、最終手段として用いた最強の攻撃魔法。体内の魔力を無理やり暴走させ大爆発を起こす。

 どういうわけか人の身で魔法が使えてしまったがために、その魔力を制御しきれず崩壊しようとしているのか!?


 ならば! 俺がアッサムの体内にある魔力を落ち着かせてやれば良い! 彼が使っていたのは間違いなく俺の魔法。俺に操作できない道理はない!


 急いで彼に駆け寄り、その身に手を触れる。

 何処だ? 何処の魔力が暴走しているんだ? 魔力暴走とは言え、全身の魔力が圧力を放ち始めたら人間の肉体など一瞬で粉みじんになる。どこかの魔力が部分的に制御を離れてしまっているだけのはず。


 彼の体内をくまなく調べる。やはり彼の魔力の性質は俺と同じもののようで、すんなりと俺の自然力を受け入れてくれた。筋肉や内臓、神経系や細胞レベルまで、ありとあらゆる体内組織を完全に調べつくした。


 ……何処にも、異常が見当たらない。彼の魔力は非常に安定している。それはもう、森の中の安らかな小池くらい静まり返った魔力をしている。

 しかし何故だ。魔法が原因でないとすれば、一体なぜ急に彼の身体は熱を放ち始めた?その熱は、もはや炎と言ってもいいほどのものになっている。


 そこで気づいた。この熱の感じ、火薬ではないか? 液体火薬か何かが燃えているような熱だ。それに爆薬も。衝撃は来ていないが、間違いなく爆弾の熱を感じる。いったいアッサムの身に何が起こっているというんだ。


「ハハハ、こいつぁ今までで一番強烈だぜ。足を吹っ飛ばされた時以上だ。本当に死ぬかもしれないなぁ。まぁこの身体はそう簡単にはくたばってはくれないが。口封じをしたいのか」


「おいアッサム、あまり喋るな! 痛みで感覚がマヒしているのか? 何故こんな状態で流暢に喋れる! 黙って俺に身体を預けろ。今すぐ楽にしてやる」


「大丈夫ですよチャンクーさん。俺の身体は人より頑丈なんです。このくらいじゃ死にません。ま、数日は起きれないと思いますが。……まったく、俺はただの駒ですか。魔王様」


 アッサムが何やら訳の分からないことを言っている。最後の方はよく聞き取れなかったが、彼はやはりおかしい。敵ではないようだが、味方でもないのかもしれない。


 とにかく俺は最後まで魔法が使われている線でアッサムの身体を分析していたが、全く何も分からなかった。

 いったい何故突如アッサムの身体が熱を放ち始めたのか。アッサムの言葉の真意は何か?全てが分からないうちに、アッサムは気を失ってしまった。


 しかし分かったこともある。

 やはり当初の予想通り、彼は人間ではない。爆薬の温度は約2000度。人間の身体は当然それに耐えられるようにはできていない。彼の肉体は間違いなく魔王の眷属。


 しかし蝗魔王はこのような完璧な人間の眷属を作り出すのは不可能のはず。奴は数こそ大量に揃えることができるが、その性能は人間とは大きく異なる。

 決定的なのはやはり脳の作り。もしも人型種の知能が人間並みだったならば、俺はもっと苦戦を強いられていた。もしかしたら最初に出会った下位人型種にさえ敗北していたかもしれない。


 ならば考えられるのは二択。魃魔王カンハンか、もしくは第三の魔王。個人的には魃魔王説を推したい。奴はこれまで一度も眷属を見せていない。

 魃、という女神が眷属を作り出すという逸話はあまり聞かないが、蝗魔王と組んでさらに強力になっているはず。アッサムのような人型の眷属がいても不思議ではない。


 しかしここで一つ疑問が出てくる。アッサムとジェリアスが知り合ったのは10年ほど前だという。ならば、魃魔王は10年前に既にこの地にいたことになってしまう。

 10年前は特に旱魃の被害が例年より拡大しているという話はない。それにその時は病魔王がいた。奴がその時アフリカにいた可能性は極めて低い。


 いったい何者なんだ、アッサム。

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