表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※パラレル地球の救い方※  作者: Negimono
第一章 アフリカ編
58/126

第五十五話

 睨み合って仕切り直し。奴が何か動き出すのを警戒しながら、一呼吸おいて身体を休ませる。

 神虫は元々あった8本の足に対して後ろ足の二本を失い、強力な武器である前足の二本も大きく破損している。


 神虫は俺とこの武器を最大限警戒しているが、対して奴を持ち上げることのできるクラグの方は目線が向いていない。

 俺からすれば、クラグはどう考えても脅威である。俺のことをどれだけ警戒しようとも、背面から持ち上げられて大きな隙を作られる。そんな奴を野放しにしておけば、絶対にどこかで痛手を負う。

 ならばこそ、やはりこいつは神虫のまがい物であると言える。神獣クラスの存在ならば、その程度の判断ができないはずがない。


 しかし、やはりこちらから迂闊に攻め入ることはできない。ほぼ機能していないとはいえ、奴の前足はぶん回すだけでもかなりの威力を発揮できる。そのパワーは俺の鎧をも容易く粉砕し、場合によっては即死することもあり得るだろう。

 それにまだ足による攻撃以外見ていない。まがい物と言ってもパワーは間違いなく神獣のそれ。ペースを焦れば殺られるのは俺。


 狙うは一手。ジリジリと後退しつつ、奴が開いた距離を詰めてくるのをしっかり確認しておく。

 もう少し、もう少しで奴は爆雷あふれる危険地帯に足を踏み込む。爆雷の打ち上げ性能は問題なく奴の巨体に隙を作ることができる。

 一瞬でも奴が反撃できない安全な時間を作れれば、その隙に奴の武器を完全に破壊できるはず。


 絶対に焦ってはいけない。少しでもタイミングを間違えれば、その瞬間に奴の前足と、貫通性能の高い残る四本の足が俺を打ち抜く。

 俺が死ぬだけなら良いが、それでアフリカの運命も決してしまうのだ。死ぬわけにはいかない。


 奴にしてみれば半歩にも満たない足幅で少しずつ近づいてくる神虫。それだけ俺に対する警戒が読み取れる。

 そうだ、そのままゆっくり俺だけを見て近づいてこい。足元なんて気にせず、その場を踏み抜け! 


 瞬間、超大規模の爆発。特大の閃光と衝撃が奴を襲った。数にして30発分の爆雷。

 その炎熱は神獣であっても焼き尽くし、その衝撃はタングステンの塊をも簡単に粉砕する。


 煙が晴れていく。未だ炎がその場に残っている中、裂帛の気合をもって突撃した。この局面で奴を倒しきる!


「……お前の、大きな勘違いを正してやろう」


 ! 今の声はなんだ? 誰の声だ。この場には俺とクラグしかいないはず。通信機から聞こえた声ではない。そうだとしても、こんな挑発的な言い方をする必要はない。

 ならばこの声の主は……


「我に知能がないと思っているだろう。我のことを、ワンが再現したまがい物と思っているだろう。馬鹿め、それが勘違いだ。貴様を仕留めるため、そしてこいつを始末するために知能が低いフリをしていたに過ぎん!」


 神虫が爆雷を踏み抜いたであろう場所までたどり着きその姿を確認すると……。


 ……そこには、腹部を大きく貫かれたクラグがいた。

 クソッ! 奴は知能が低かったんじゃなかった。俺の爆雷に気づいて後ろに避けたんだ。

 先ほどから俺に合わせて完璧な援護をしてくれていたクラグ。今回も爆雷に紛れて神虫を拘束するつもりだったんだろう。それを先読みされて攻撃された。俺の判断ミス。


 大量の血が流れ出ている。人間の身体は俺たちほど頑丈ではない。まだ息はあるようだが、数分もすれば死に至る。

 そうでなくとも、ここの医療技術では貫かれた腹部を完全に復元することはできない。遠くない未来、彼は死ぬ。

 そう、自分でも理解していたのだろう。彼は死を目前にした人間にはありえない行動をとった!


「お前が何者だろうと関係ない。我々は祖国を守る。生まれた恩を返すため、育ててくれた恩を返すため。人生を祖国から受け取ったのだから、俺の命は祖国のためにこそ使われるのだ!」


 決意、忠誠。そのような言葉では決して表現できない思い。彼の国に対する思いは、常人のそれを逸している。

 彼は今まででもありえない速度で自然力を消費していたが、そんなの比較にならないほど一気に力を消費し始めた。


 俺の自然力の属性によって身体から炎を吹き出し、およそ人類では不可能なパワーを発揮する。

 あの魔法銃は身体強化の魔法もあるそうだが、人類の技術では属性を伴う魔法は扱えない。だから膨張したエネルギーが彼の身体を突き出し破壊してしまったのだ。


 だが彼の狙いは自爆攻撃ではない。自分のことを突き刺している神虫の足を鷲掴み、その圧倒的なパワーでそれを圧し折った。

 そしてあろうことか、圧し折った足の先端を砕けた足に突き刺し、さらに足を爆破してもっと深くまでねじ込んだ!

 その足は神虫の硬い肉体を貫通し反対側から射出される!


「ハハ、やり返してやったぜクソ野郎。俺の……勝ち、だ」


 クラグは己の力の反動で後ろに吹き飛び地面を転がった。

 地面に落下した衝撃で彼はうめき声をあげ、その場にうずくまる。少しでも痛みを和らげようとしているのだろう。だが彼の死の運命はもう免れない。


 彼が命を懸けて作った特大の隙、これを逃すわけにはいかない。

 ここまでならば武器を落とす必要はない、直接肉体を破壊する!


 姿勢を低くし奴の真下に入り込んだ。爆雷の影響でズタボロになった腹部目掛けて黒の剣を振るう。

 黒の剣の長さに対してこいつの体格。簡単に急所を貫けるものではない。

 だから傷口にさらに黒の剣を差し込んで腕ごと突っ込む。腕から小爆発を起こしまくって奴の身体を内側からバラバラに粉砕してやる。


「ぬ、ぐぉぉおお!! 貴様、クソがぁ! だがこの程度ではやられんぞ! 貴様を殺すまではな!」


 奴はその肉体を爆破し続けている俺を残る三本の足で抱きかかえ、そのまま大きく跳躍した。

 そして今まで一切使うそぶりを見せなかった羽を広げ、さらに高みへと登って行く。


 クソ、上空から落下して地面に俺を叩きつけるつもりか!

 昔ジダオが下位人型種に同じ手を喰らっていたが、あの時とは相手が違いすぎる。百の鬼を同時に相手しても平気でいられるような神獣相手に俺は無事でいられるか?


 奴の攻撃は単に威力が高いだけではない。不思議なことに、どれだけ威力が高くとも、魔力の宿っていない攻撃は俺たちを害することはできない。

 つまり奴の攻撃には間違いなく魔力が宿っている。それも、魔力で強化したタングステン鎧を突破するほどの力。

 今この身体に穴を開けられれば自然力が抜け出し、落下の衝撃に耐えきることはできないだろう。


「死にぞこないの虫がァ! いくら神獣だろうともこの攻撃は耐えられまい!」


 黒の剣から魔力を大量に引き出し、その絶対的な攻撃力を俺の体内に引き出す。

 この剣の威力は現状俺よりも強い。その秘密は魔力を束ねる能力にある。ウガンダやタンザニアが所持している魔法銃よりも遥かに高密度の魔力を束ね、最も最適な形でそれを放つことができるのだ。

 だからこの剣を仲介すれば俺の攻撃力はさらに上がる。


 黒の剣より引き出された高密度の自然力を俺の体内でさらに循環させ、俺自身の肉体からこの力を引き出せるように慣れさせる。

 それは以前ジダオと融合力を生成したときのように、俺の身体から剣へ、剣から俺へ。

 どんどん純度を高めていく自然力。この力なら……


「さっきから何をコソコソやっている! 死の運命を受け入れろ! 貴様の爆破魔法では私を殺すことはできない!」


「L'épée noire transperce l'ennemi. 黒の剣は敵を穿つ。ようやくわかったぞ、この剣の力が! 言葉によって術式を開放していたようだな。だがそれはこの剣をもっとも簡単に扱うためのもの。この剣の魔力を完全に理解した俺ならばもっと強力な力を扱える! そしてこの剣ならば、隆盛!」


 地面が無いところから岩の山を生成し、神虫の身体を引き裂いた。


「この剣の力ならば、何もないところから隆盛を発動するのも容易くなる! 爆発では倒せないだァ!? ならこれには耐えきれるかよ!」


 突如として現れた岩の山は内側から奴の肉体を引き裂き、その質量を持って内臓を破壊しつくした。

 当然俺のことを掴んでいた腕も離し、力を宿さなくなった。


「全く、死ぬときはいつもあっという間だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ