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※パラレル地球の救い方※  作者: Negimono
第一章 アフリカ編
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第五十二話

 槌で頭を砕かれ、腕と足を一本ずつ捥がれてもなお、そいつは立ち上がることを諦めない。人間であることの証明、痛覚が奴には存在しないからだ。

 どんな攻撃も、奴の戦闘能力を低下させることこそできるが、奴に恐怖や怯えといった感情を与えることはできない。人間相手なら四肢を捥げばそれ以上追撃する必要なんかないのにな。


「分かっていたさ、勝てないことくらい。だが俺が指示されたことは時間稼ぎ。この命を消費して全体の勝利を掴む。たとえ勝利のその先に俺の存在がなかったとしても」


 凄まじい覚悟と忠誠心だ。人間たちにここまでのことを要求するなら、相当優秀かつ慕われている指揮官がいなければ話にならない。

 自分の命を投げうってでも勝利を掴もうとするなんてのは、魔王と眷属という間柄だからこそ成り立つもの。きっと軍人たちの中にこいつと同じことができるのは数人もいないだろう。


「L'épée noire transperce l'ennemi et l'épée blanche le protège. Lorsque le duo se réunit, offrez-nous une victoire absolue!」


 なんだ一体? 何かの詠唱か? 奴の体内に双剣から魔力が流れ込んでいくのが分かる。

 身体強化か何かか? おぞましい気配だ。見るからに戦闘能力が上がっている。


「魔力の力場が狂うから本当は使いたくなかったが、このままだと時間稼ぎも中途半端に終わっちまいそうなんでなァ」


 白の剣が光を放ち、同質の光が砕けた四肢の付け根を包み込んでいく。

 まるでそこに足があるかのように自然に立ち上がり、奴は歩き出した。

 まるでそこに腕があるかのように拳を硬く握る。

 光は不可視の身体を作り出し、奴の肉体を補強していく。どうやら脳の方も体循環器系操作をしなくても良いらしい。


 奴は岩山の下から光の翼を広げ、大跳躍で一気に距離を詰めてきた。爆雷を一つも踏み抜くことなく、俺に攻撃を仕掛けてきた。

 一段目は黒の剣。先ほどよりもはるかに強力なそれは受け止めた水銀の盾をバターのように切り裂き二段目。続けざまに銀槍を叩ききってさらに追撃を仕掛けてくる。


 マズいな。銀槍は圧縮力を極限まで高めている。流体である水銀は圧力をかければかけるほど硬くなり、絶対の耐久性を持つ。タングステン鎧までとはいかないが、鉄なんかよりもはるかに硬い。

 それをバターのように切り裂くのだから、この鎧であっても奴の攻撃を防ぎ切れるとは思えない。


「一旦仕切り直しだ! 崩落!」


 崩落は設置型魔法を全て発動する魔法。周囲に立ち並ぶ岩山のすべてが一瞬にして崩壊し、俺を警戒して慎重に近づいてきていた人型種や、地面に潜伏していた大型種は一斉に巻き込まれて絶命していく。

 隆盛最大の手は最も敵が密集したタイミングで崩落を使うこと。爆雷と落石によって大量の死者を生み出せる。支出は大きいが十分な火力である。全体のことを考えれば範囲大火力魔法を放つよりも燃費は良いはず。


 今回は仕切り直すために放った故に敵の位置を把握できていなかったが、かなりの数巻き込めているようだ。

 地面は一瞬更地になったかと思うと、途端に岩山生成魔法が発動して先ほどと同じ山を作り出した。


 俺は地面に降り立ち、平らな地面から奴を迎え撃つ。

 銀槍を使えば足場の悪いところでも後れをとることはないが、奴の攻撃力を考えれば銀槍を無駄に使う余裕はない。


 奴は全身の腕や足を使って器用に着地しつつ、タイムロスを稼ぐことなく即座に接近してきた。やはりあの光によって疑似的な四肢を獲得したようだ。


 四足動物のような低い姿勢から黒の剣を振り上げ、俺の鎧を破壊しようと試みてくる。

 白い剣によって身体能力も強化されているのか、先ほどよりもはるかに速い。

 俺は咄嗟に半歩下がって銀槍の割り込みを間に合わせた。相変わらず簡単に切断されてしまうが、少しでも時間を稼げれば問題ない。


 剣を振り上げた姿勢でがら空きの腹に銀槍を突き刺す。乱魔拳を応用した突きは強化された肉体であっても問題なく貫くことができるが、奴は速攻で銀槍を切断して拘束から抜け出す選択をとった。

 白の光は腹に空いた穴を修復し体液をこぼさない。


 これでも奴の戦闘能力を低下させることはできないか。奴を殺すには頭部を切断する必要があるようだ。脳を削る程度ではすぐに補強されて絶命には至らないらしい。


 先ほどの連撃主体の姿勢からは打って変わって、黒の剣を前に突き出し、白の剣は自分の身に押し付けるように短く握っている。

 黒の剣は攻撃用、白の剣は防御用か。


 上の手で黒の剣を振り下ろしたかと思うと、一瞬だけ手放して下の手で受け取り、突きを放ってくる。

 これを銀槍で受け止め、反撃を叩き込む。頭部を狙った斬撃。銀槍の形状はタングステンの先端を分離させることで簡単に変えることができる。


 しかし頭部は流石に警戒心が強い。白の剣はどの方位からでも俺の攻撃を防ぎ切ってしまった。

 ここまで強力になるとは。一手ずつ詰めていくしかないようだな。いきなり首を飛ばすのは不可能と言える。


 まずは足元から。自然力を銀槍の先端に集中させ、大地に突き刺す。

 銀槍が突いた位置には爆雷が展開され、超至近距離から奴に爆撃を食らわせた。

 奴の足はもう一本も吹き飛び、しかしなおも奴はそこに立っている。

 また白い光だ。だがあれにも限界はあるはず。無限に疑似的肉体を作り続けられるはずがない。


 一瞬だけ体幹を崩した奴にさらに接近し、懐に潜り込む。

 白い光によって生成された肉体を小爆発で粉砕し、手数を減らす。不可視の攻撃ほど恐ろしいものはない。だが小爆発なら多少ズレていようとも問題なく攻撃を当てることができる。

 そして一気に腕を伸ばし……。


「掴んだぞ、白の剣!」


 奴の武器の中で脅威と言えるのは、この鎧をバターのように切り裂く黒の剣ではなく、いくら攻撃しても活動能力を失わせない白の剣である。

 これを奪いさえすれば、こいつを殺すチャンスはいくらでもある。


「確か、L'épée noire transperce l'ennemi et l'épée blanche le protège. Lorsque le duo se réunit, offrez-nous une victoire absolue だったか?」


「なッ! キサマ何故それを!?」


 俺が先ほどの詠唱を復唱した途端、白の剣が作り出していた奴の疑似的肉体は崩壊を始めた。

 両足の存在しない奴はその場に崩れ落ち、あまりの衝撃に動揺が隠せていない様子だ。


「お前は知らないようだが、俺はあらゆる言葉を扱えるぞ。さっきのはフランス語だろう? お前の弱い脳みそでは理解できないだろうが、あの程度の詠唱であれば暗唱するなど簡単なこと」


 フランス語で、『黒の剣は敵を穿ち、白の剣はこの身を護る。一対が合わさるとき、我らに絶対の勝利を』という内容だ。

 俺は白の剣にしか触れていないから黒の剣の効力は今だ失われてはいないが、それだけでも後半部分は効力を打ち消されているはず。


 恐らくこの詠唱は、前半部分が武器そのものの力を発揮するためのもの。後半部分が身体強化に関するもの。

 黒の剣と白の剣は最初同じ程度の武器だった。だがあの詠唱の直後からはっきりとその役割が変わった。

 後半部分を詠唱した際、双剣から魔力が奴の体内に流れ込んだ。


 ここまで分かりやすければ対策はたやすい。

 どちらか片方の剣に触れ、先ほどの詠唱を俺が唱えればいい。俺の自然力にひかれて術が搔き消されるか、力の優先度が変更され俺に術が移るかの二択しかなかった。


「さて、そろそろトドメを刺すとするか。その状態では反撃もできないだろう」


「……フハハ! フハハハ! 俺はやり遂げた、もう悔いはない。キサマはここで死ぬのだ! ああ、蝗魔王クンチョン様! 俺の忠誠をどうかお受け取りください!」


 突然奴が叫びをあげた。何だ? 最期に言葉を残そうとしたのか? バッタごときにそんな感情が?

 ……。待て、クンチョンって誰だ?奴は蝗魔王といった。だがあれのフルネームはスーファイ・ワンではなかったか?


「大規模術式、起動! 这里有灾难! 我们的盟友神虫! 什么都吃!」


 し、神虫だと!? 本当に神虫なのか!? マズい! そんなの相手してられん! 天刑星や毘沙門天と肩を並べるような奴だぞ!

 神虫は八つの足を持つ蛾。空を飛び、百の鬼も千の(つわもの)も全く歯が立たない相手である。

 こいつはちと厳しいな。

 中国語部分の原文は『この地に災害を! 我らの盟友神虫よ! すべてを食らえ!』です。

 フランス語部分含め、どちらもグーグル翻訳を使っています。フランス語や中国語など面白そうな言語を学ぼうとしているのですが、まだ文章を書けるレベルではありません。外国語に明るい方にはあまりうまい表現ではないかもしれませんが、ご容赦ください。

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