第四十六話
~SIDE ジェリアス~
遊撃部隊の一人に車両を運転してもらい、ウガンダ軍の装甲車までたどり着く。
無線で声をかけ、速度を緩めてもらった。その間にも追っ手の人型種を打ち抜くのを欠かさない。
「こちらで引き付けていた変異種はだいぶ数が減ってきました! 私がこの魔法銃で人型種を撃破しつつ引き付けます。タンザニア遊撃部隊には本隊からの援護射撃を命じました。皆さんには悪いですが、もうしばらく私とともに人型種の相手をしてください」
私たちが相手をしていた変異種はもうほぼ片付けてしまった。大型種もかなり撃破したし、戦力を分けて誘導のための部隊を二つにしておくよりも一隊を本隊に戻し、もう片方の部隊に相手の意識のすべてを向けさせる。そのうえで本隊から一方的に攻撃するのが最善だ。
遊撃部隊として、車両からの銃撃を訓練してきたとはいえ、当然足場の良いところから銃を撃つ方がやりやすい。先ほどはリロード役がいたが、本隊からなら全員銃撃に参加できる。
私たち遊撃部隊は、私が魔法銃を所持していることも相まってかなりの数の変異種を相手していた。誇張なしで、ウガンダの誘導部隊の3倍は相手していただろう。
私はまだ戦える。遊撃部隊はある程度安全な後方に残し、まだ体力の残っているだろうウガンダ軍とともに引き続き誘導を行おうというわけだな。
「……、ひとまず車両に乗るといい。こちらの指揮官にも確認しよう」
良かった。誘導部隊の隊長は話が通じる人らしい。タンザニア人の話は聞くつもりなんてない、とか言い出す人だったらどうしようかと思っていた。
タンザニアが神の抵抗軍を残虐な方法で滅ぼしたのは僅か数年前。そういうことを言ってくる人もまあ居る。
タンザニアとウガンダの即席の連合は、即席だけあって連携がとり切れていない。こちらの全軍指揮権は、この戦場においては私が持っているが、ウガンダ側の指揮権は別の者が持っている。
部隊一つの変更であっても、誘導部隊は全部隊の中で最も重要な部隊。指揮官に確認をとらないわけにはいかない。
「よろしくお願いします。貴方は本体に合流し、そこから援護射撃をお願いします。見えてない位置かつ、避けきれないほどの弾幕ならば人型種にも当たります。機関銃レベルの威力なら当たりさえすれば通用しないことはありません」
ウガンダ人にさっとよろしく伝え、ここまで連れてきてくれた遊撃部隊の仲間に指示を出す。
人型種の対処についてはだいぶわかってきた。魔法銃でなくとも、私たちの経験があれば十分倒すことができる。
「チッ! タンザニア人と同車かよ。何されるかわかったもんじゃない。隙をついて後ろから刺されるかもしれんぞ」
ウガンダの兵が私を見るなり大声でそう言った。
やはりタンザニア人とともに戦うのは嫌か。声を上げた彼だけでなく、乗組員のほとんどが嫌そうな顔をしている。
緊急時だから連合を組んでいるが、彼らにとって一番ともに戦いたくないのが私たちなのだ。
「おい貴様! 失礼だぞ! この方はタンザニア屈指の実力者。お前たちなど足元にも及ばない方だ」
わぁお。私のことをこんなに持ち上げてくれる人がウガンダの軍にいるとは。
私はウガンダ人、特に軍人には酷く嫌われていると思っていたが。
歳は40過ぎくらい。全身いたるところに銃やナイフを装備し、歴戦漂わせる風格。私とは違う、本物の実力者だ。
「どうも初めまして。私の名前はガイトル。このウガンダ誘導部隊の隊長です。貴方は、タンザニア遊撃部隊隊長兼、有事全軍指揮官のジェリアス殿、ですよね。お噂はかねがね聞いております」
「いえいえ。私も貴方のこと、知っておりますよ。誘導部隊隊長ガイトル殿。貴方がこの部隊の隊長になってから、全員がメキメキと強くなり、他と比べても目に見えて強力な隊だとか」
ウガンダのガイトル。彼の名は近隣国の軍人には有名だ。
実年齢は知らないが、もう引退も近い年齢だというのに、それを感じさせない見事な肉体と、他の追随を許さない戦闘スキル。今だ一分隊の隊長に収まっているのが不思議なくらいの男。
噂によると、彼の戦闘スキルが開花したのはかなり最近のことで、引退も近いことから重役につけないとか。
彼ほどの経験があればむしろ軍の重役において安全な位置から全体に指示をさせるのが良いと思うんだが。
「まったく、すみませんね私の仲間が。でも、彼らは知らないんです。許してやってください。貴方、あの戦いには参加していなかったそうですね。それに貴方は、あんな残虐な人間ではない。私にはわかりますよ」
「え、ええ。まぁ少し事情があって。私が軍の業務に復帰したのも、ちょうど例の戦いが終わった数か月後なんです」
事情というのは、まぁアッサムのことなんだが。あの出来事から数年間、私の精神状態はかなり不安定だった。
決意や覚悟を決めて心を落ち着かせたつもりだったのに、日が経つと心が揺らいで戦えなくなっていた。
あの頃の私が神の抵抗軍との戦いに参加していたら、アッサムの才能をもってしても確実に死んでいた。
「騒がしいですが、よろしくやってください。我々も足を引っ張るつもりはありません」
ガイトル殿のおかげで少し周りがしおらしくなった。タンザニア人と思って突っかかってきただけか。良くいる奴らだ。タンザニア人なら取り合えず貶してみるのが最初の流れみたいな。
まぁ彼らが悪いわけではない。私もあの戦いの話を聞いたが、タンザニア人がそんなことをしたなんて信じたくなかった。
今でも何かの間違いではないかと思っている。
「ご期待に応えられるよう努めましょう。人型種は私に任せてください。皆さんは飛行種の相手をしつつ大型種の注意も引き付けてください。戦力差的にもう勝てそうな感じですが、ここで油断して気を緩めたときに盤面をひっくり返されてはおしまいです」
今私たちの軍はどう見ても優勢。ここから負けることの方が考えにくい。きっと今全軍が勝利ムードで浮いてきているだろう。
だが、前回もこんなような状況だった。全体が勝利ムード。あの時はチャンクーさんとジダオさんがいたからこそ問題なく勝てたが、今あの破壊種のような敵が本隊に現れたら、確実に大きな被害が出る。
破壊種相手に人類の重火器はほぼ通用しない。あれが本腰入れて戦列に加われば私たちはジダオさんが駆けつけてくれるのを死にながら待つしかない。
そうなってしまう前に、大型種を片付けて置く。私たちが大型種の注意もひきつければ、それだけ本隊の彼らが楽になる。
大型種だけでも倒してしまえば、固定式の機関銃や動きの遅い戦車は必要なくなる。仮に破壊種が現れたとしても、全員で逃げることができる。
車両から身体を出し、追いかけてきている人型種を良く狙って弾丸を叩き込む。
やはり、さっきよりも全然人型種が少ないな。かなり遠くでジダオさんの雷撃が見えた。あそこに人型種が集結しているのか。
それに私が倒した人型種も多い。先に弾が尽きてしまうかとも思ったが、問題なさそうだな。
ウガンダ軍の誘導部隊も、さっきまであまりいい雰囲気とは言えなかったが、自分多たちの仕事はきっちりこなしてくれている。
足手まといどころか、私の遊撃部隊にも劣らない。彼らはタンザニア軍の中でも選りすぐりの人材だ。やはりウガンダ、戦争を身近に経験していただけあって、実戦能力が高い。
私も負けてはいられないな。少しでも早く連中を片付けて皆を安心させるのだ。