第四十四話
~SIDE ジェリアス~
装甲車の中、慎重に狙いを定めて引き金を引く。地の自然力を用いた魔力式貫通火砲は通常よりも遥かに高い威力を発揮し、特大の火を噴きながら突き進む。
放たれた弾丸は正確に人型種の頭を貫き、さらに後方にいた者までその熱で容易く絶命させた。
この魔法銃の装弾数は7発。ハンドガンとは言え、揺れる装甲車の中でリロードするのは少し難儀だ。
一発も外すわけにはいかない。アッサムの才能をもってすれば、足元の悪いこの場からでも問題なく当てることができる。
大きく息を吐き、慎重に狙いを定めて5射目を放つ。
魔力式貫通火砲は魔法によって弾丸に直接推進力を与えている。その為反動は一切なく、戦車の主砲以上の威力を出していても腕が吹き飛んでしまうことはない。
残りは2発。本隊まではあと200m程度。打ち切って追っ手をすべて倒してしまうのが良いか。
本隊からも機関銃で援護射撃が放たれている。
人型種はあくまでも身体強化が得意なだけであり、魔力式貫通火砲でなければ傷つけられないわけではない。かなりの弾薬を消費してしまうが、数体なら時間をかけて倒せる。
「ジェリアスさん! 前方に大型種です!」
「了解です!」
人型種に2発叩き込むつもりだったけれど、ここは大型種に弾を使うべきだ。本隊まで着けばすぐにリロードできるし、この距離間なら援護射撃に頼って車内でもリロードが可能。
地面から装甲車を突き上げようと、少し前から飛び出してきた大型種の頭部に弾丸を叩き込む。一先ず一発だけ。大量の火を噴く魔法銃なら一撃でも十分殺れるはず。
炎を纏った弾丸は大型種の頭部を粉砕し、その胴体を持ち上げた。
流石の威力である。大型種であっても人型種と同じく絶命できる。
最後の一発は後方の追っ手に叩きつける。散開して追ってきていた奴らは本隊が足止めしてくれている。
そうしているうちに200m走り切り、本隊に到着した。
「人質を全員下ろし、身体検査をしてください。私は変異種の相手をします。身体検査が終わり次第あなたも遊撃部隊のヘイト稼ぎに加わって下さい」
「承知しました」
部下の了承する声をしっかりと聞いてから走り出す。私がヘイトを稼げば稼ぐほど、私が変異種を倒せば倒すほど、皆が楽になるのだ。
今回は広範囲高火力のチャンクーさんがいない。その分変異種を簡単に倒せる私が頑張らなければ、大型種はともかく飛行種や人型種を倒すのが追いつかなくなってしまう。
即座に銃をリロードし、二発速射する。追ってきていた人型種を撃破し、大型種にも一発叩き込んでおく。
すぐさま遊撃部隊の装甲車を呼びつけこれに乗車。車内から人型種と飛行種を引き付ける。
ジェリアス隊長から人質の身体検査を任された俺はかなり後方、研究チームがいるテントまで後退していた。
ここならバッタたちが襲ってくる心配はほぼない。
だが……。
人質の状態がかなり悪い。当然衰弱しているし、空腹と睡眠不足で動くのもしんどそうだ。
それだけでなく、どうやら軽い薬物中毒のようだ。焦点のあっていない人が多いし、戦場関係なく錯乱しているものがほとんどだ。
バッタたちの情報をこちらに教えないためか。軍人を人質にとるのなら薬物で頭を潰すのは不利益しかない。敵の情報を喋ってもらうために軍人を人質にとるのだ。
だが今回は別。人質はただの一般人で、彼らは軍に関する情報なんて大したものはもっていない。情報能力に長けた人型種なら、むしろ一般人以上にこちらの内情に詳しいはず。
つまり今回の人質、戦闘においてさっきのような使い方をして有利に立ち回れるようにするためという以外に目的はなく、ただそれだけのために薬物中毒にされたのだ。
薬物を投与されてからそう時間は経っていないだろうし、投与された回数自体もそう多くないのなら、適切な処置をすれば完治できるだろうが、そこはウガンダ次第か。
全くひどい連中だ。たとえ戦争中であっても、俺たちは人質を薬物まみれになんてしない。
そう思いながら人質の身体検査をする。奴らの人質になっていたのだ。身体に爆発物が仕掛けられていても不思議ではない。
その時。
「貴様! こんな後方で何をしている!」
ウガンダの軍人が高圧的に話しかけてきた。
クソ、最悪なところを見られてしまった。ここは一番の安全地帯。ここでもたもたしているとでも思われたのだろう。
彼らはタンザニア人のことを快く思っていない人が多い。かく言うタンザニア人もウガンダ人のことをよく思っていない人もいるが。
「人質を救出したので後方の安全地帯に送り、ここで身体検査をしていたところですよ。先ほどジェリアスから通信があったと思います」
ここは下手に出ておく。話しが長くなると、戦闘に参加できないかもしれない。
戦力差的に敗北することはないだろうが、何が起きるかはわからない。全体でまけていなくとも、遊撃部隊の仲間が死んでしまったら、それは俺にとっての敗北でしかない。
「身体検査だと? 必要ない。我らウガンダの民は奴らバッタ風情に不覚をとるほどヤワではない。さっさと前線に行ってくるといい」
ウガンダ人が不覚を取ったから人質なんて取られたんだろ。こいつの言う通りなら、そもそも人質なんて取られていない。薬物まで仕込まれて。お前がちゃんと国民を守っていればよかった話だろ。
この野郎。俺に難癖付けるためにわざとこんなこと言ってきやがったな。こいつも軍人。人質の身体検査くらいする。
「なら、彼らは貴方に任せます。空腹と睡眠不足でかなり衰弱しているようです。薬物も投与されているようですから、戦いが終わり次第専門の医者に見せてください」
「フン! 味方殺しのタンザニア人が、私に指図するな。彼らはウガンダ軍が丁重に保護し、社会復帰させて見せる」
任せましたよ、と一言言ってテントを出た。彼とこれ以上話をしたくはない。
タンザニアとウガンダの関係は正直あまりよくない。神の抵抗軍を本格的に制圧する任務に参加したとき、彼らにとってはあまり印象の良くない戦いになってしまったのだ。
当時連合を組んだ味方からも、あまり良い戦いではなかったと聞く。
まぁそんなことはもういいのだ。俺も早く参戦しよう。俺が乗ってきたこの車両は、本来遊撃部隊が所有している装甲車。
皆が今乗っているのはウガンダの装甲車だ。まぁほぼ同じなんだが、やはり乗りなれたものがある。
装甲車に乗り込み、エンジンをかける。彼、しっかり身体検査をしただろうか。あんなことを言っていたし、少し心配ではある。もし人質の中に時限爆弾なんて持っている人がいたら、あそこにいる研究者たちは簡単にやられてしまう。
彼らは戦闘に参加するためではなく、変異種を研究し、その結果を戦闘に役立てるために参加しているのだ。
変異種は固体によってかなり性能にばらつきがあり、逐一調べることで戦闘に役立つ情報もかなり変わってくるのだ。
そんな彼らは、当然時限爆弾を発見したときの対処法なんて訓練しているわけがない。彼らは元々ただの研究者で、今は緊急時だから軍属扱いになっているだけだ。
本当に、ちゃんと身体検査をしていてくれよ。
この作品のウガンダの人たちの扱いがひどすぎるんだが