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※パラレル地球の救い方※  作者: Negimono
第一章 アフリカ編
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第四十一話

 今回長すぎぃ! でも今日書ききっておきたかったんよな

~SIDE ジダオ~


 首が右半分なく、しかしその状態でも問題なく大剣を振るう(ジァン)。先ほどの攻防から既に何合か切り結んでいる。

 半分頭と身体が繋がっていないとは思えないほど機敏に動き、先ほどと同じ攻撃は通用しなくなっている。


 っていうか首から一滴も体液を流さず、しかし確実に傷口を開きながら高速で動き回る四本腕の異形というのは、はた目に見るとあまりにも恐ろしすぎる。


 先ほどから体内の循環系に魔力も集中力も奪われているはずなのに、それを全く感じさせない動き。

 あんな精密な体内操作、チャンクーにだってできない。蝗魔王ワンがチャンクーとの戦いの末に見せた大技。

 どうやらこいつは俺が思っていたよりも上位の変異種らしい。


 俺の右爪撃を大剣の腹で受け止めて軽々といなす。首を庇い、俺から見て左側に逸らされたことによって大きく隙を晒した右肩に向かって上段から突き刺すように大剣が放たれる。

 これを間一髪躱した俺はさらに大きく踏み込んで裏拳をかます。だがまたしても大剣で軽くいなして避けられてしまった。


 そこから追撃に出ることはできなかったようで距離をとられる。

 なるほど、最初に待ちの構えをしていただけあって、こちらから攻めるのは厳しいらしい。

 やはりカウンターを叩き込むのが良いんだろうが、それもだんだん通用しなくなってきているし、どうしたもんか……。


 とりあえず氷弾をばらまいて回避行動をとらせる。さっきから大きく動き続けてるのは向こうで、当然体力を消費するのも向こうだけ。ならば距離をとって休ませる暇など与えない。


 上位の人型種相手に単純な弾丸は意味がない。とにかく発射レートを高め、かつ弾丸を拡散させる必要がある。

 弾丸はいつもよりも軽く、だが回転数は遥かに高い。速さと生成速度に集中して奴を追い詰める。

 きっとこれが当たっても殺しきれないだろうが、とにかく奴に休む暇を与えなければいい。


 俺の氷弾速射に対して、中央の両手を器用に扱って蛇行し躱す(ジァン)。人型と言ってもチャンクーと同じではない。

 氷弾を避けられる人間の想定として俺が持っているはチャンクーの一人だけ。だがチャンクーはあんな動きをしない。

 本来の人間ではありえない角度で方向転換する(ジァン)に氷弾を当てるのは非常に難しい。とにかく弾をばらけさせて全ての範囲をカバーするしかない。


 俺の最高速の氷弾を次々と回避し、少しずつではあるが確かに近づいてくる(ジァン)

 一瞬氷弾がまだ遅いのではないかと思ったが、避けられた流れ弾が後方にいる人型種に当たって一撃で屠り続けている。軽いといっても、それは(ジァン)に使うなら、という意味であって、通常の人型種には十分な火力。


 弾丸など発射される前に避けていた上位人型種にも問題なく効いている。

 予備動作を一切見せず、感知した瞬間には相手を殺している氷弾は、確実に今までの速度を超えていた。


「チッ! このままだと埒が明かねぇ!」


 叫んだのち、(ジァン)が囁いた瞬間大剣から魔力が剣に流れ込んでいくのを感じた。

 あの大剣、やはり俺たちに傷を付けられる魔法のこもった武器のようだ。前回の魔法銃同様、あれを食らうのは最大限警戒すべき。


 魔力量が増大した(ジァン)は今までと比較にならないほどの速度で走りだす。

 低い姿勢の奴を狙った弾丸を超低空を跳んで避けるようになり、先ほどよりも格段に速く距離を詰めてきた。

 着地を予想してはなった氷弾も、地面を中央の手で弾くことでジャンプ回数を増やし回避している。完璧な体幹を持つ(ジァン)でなければ絶対にできない芸当だ。


 瞬く間に俺の眼前まで接近した剣は低い姿勢のまま横薙ぎに大剣を振るってきた。


「そんな単純な攻撃が通用すると、本気で思っているのか!」


 この攻撃をジャンプで躱す。バックステップしてしまっては、身体能力が大きく向上している(ジァン)に二撃目を放たれ後手に回るだけ。

 サイドステップではこの範囲の攻撃を躱しきるのに隙を晒してしまう。

 なら、回避しつつこちらから攻撃できる手段を選ぼう。体重差を生かした上段の攻撃を奴を沈める。


「そう来ると思ったぜ。そんな所に逃げ場なんかねぇぞ!」


 避けられたと悟った瞬間、大剣を振り切る前に方向を曲げこちらを追撃してきた。上からの攻撃は想定済みというわけか。

 だがな……!


「甘い! 空歩!」


 大気を踏みしめその場でワンステップ飛び上がる。

 奴の大剣は俺の目前を通過し、今度はしっかり振りぬかれる。こんな避け方をされるとは想定していなかっただろう。


 飛び上がった推進力をそのままに一回転し拳にパワーを乗せる。

 大剣を振りぬき無防備に腹を晒している奴に向けて、筋肉任せに渾身の一撃を振るう!


 ドゴォォォオオンン!!!


 と、あの大きさの生物の殴ったとは思えないほどの轟音を立てて……


 ……俺は空を見上げていた。

 なぜ、俺は空なんか見てるんだ? いや、仰向けに倒れているのか。なぜ、仰向けに倒れているんだ?意味が、分からない。


「……馬鹿野郎が、俺がお前の空歩を知らないと思っていたか? 俺たちは情報を操る人型種。当然お前のことも、魃魔王様から聞いているとも。見くびってもらっては困る」


 のそりと起き上がってそちらを見ていると、足を大きく振りぬいた姿勢の(ジァン)と、地面に突き刺された大剣があった。


 ……ようやく理解できた。

 奴は最初から、俺が空中でワンステップ踏んでディレイを掛けるのを分かっていたんだ。だから俺の攻撃をしっかりと見て大剣を起点に蹴りを入れたと。

 俺の空歩は実は半分以上理論が分かっておらず、今のところ空中で立ち止まることはできない。地上よりも身体の自由が利かず、大きく隙を晒してしまったのか。


 戦闘に集中しすぎて、こいつが幹部クラスの敵だということなど完全に忘れていた。俺の頭の弱さがこんなところでも出てしまうなんて。

 それ以前に、こいつが特殊攻撃を使うなんて一ミリも考えていないかった。大剣以外を警戒しなさ過ぎていた。


「俺がお前を見くびっていたというよりは、完全に頭が悪かっただけだな」


 ならば逆に、ここからはオオカミとしての戦いに全力を尽くそう。

 戦闘を理論的に思い描き、全ての手に合理性を持たせるのは好きだが、好きなことと得意なことは違う。

 馬鹿正直に相手のすべての動きを感知し、馬鹿正直に全ての攻撃を狩る。それが俺に合っているのだろう。無駄な思考を持ち込んだから手痛い反撃を喰らったのだ。


 大きく息をついて集中力を高める。今から奴を殺すまで、奴の一挙手一投足全てを見逃さない。

 向こうも再度待ちの姿勢をとり、こちらを迎え撃つ準備は万全といった様子。


 大剣で頭から胸にかけてを庇うように構えている奴に向かって氷弾を放つ。

 妥協はなし。絶対に反応できない速度の弾丸をお見舞いする。最も理論的な形状のそれは内部に果てしない質量を有しており、回転は全くと言っていいほど空気抵抗を感じさせない。


 音がどうのという次元を遥かに超えた氷弾が、本来絶対に持たないはずの光と熱を放出し奴の大剣にぶち当たる。

 ……驚いたな。現状俺が出せる最高速の氷弾にも辛うじて反応できるとは。今までなら当たることもなかったが、避けられるほど反応できているわけではないことが分かっただけでも十分だ。


 俺の自然力の量はこいつをはるかに上回っている。当然、さっきの氷弾もあれで打ち止めというわけではない。

 なら、あれよりも威力の高い雷氷砲ならどうだ?


 その思考に至った瞬間、奴は大剣で急所を庇いつつ接近してきた。

 俺に対して距離をとるのは悪手だと悟ったらしい。さっきの接近とも異なる足運びで急接近してきた。


 受けてたとうじゃないか。

 雷氷砲のために集めた自然力を腕に込め、迎え撃つ!


 戦いも終盤になって、行きつく先は泥臭いインファイト。

 奴が放ってきた上段の一撃は避けず、逆に拳を叩きつけて弾く。叩いた右拳はそのままに、左拳で顔面をどつく。


 奴はそれを避けようともせずに受けとめ、しかしそのままの姿勢から大剣の柄でこちらをどついてくる。

 やはりこの大剣は俺たちを傷つけることのできる魔法がかかっているようで、右わき腹に痛みが走るが、そんなのは関係ない。


 お互い全力の攻撃を避けもせず受け止め、全力の攻撃を叩き込むだけ。

 奴よりも攻撃力の高い俺。

 俺よりも遥かに手数が多い(ジァン)

 先に沈むのはどちらか。


 戦いの均衡は以外にもすぐに崩れた。

 身体能力にブーストがかかっていた(ジァン)の肉体が、俺が攻撃していない場所すら崩壊し始めたのだ。

 泥臭いインファイトは一方的な攻撃に変わり、最後には俺が殴っているだけだった。


「チッ、もっと早く決着を付けたかったぜ」


 さっきの大剣から魔力を引き出していた技。あれは肉体に大きな代償があるのだろう。目に見えて身体能力が低下した(ジァン)は、仰向けになってそう呟いた。

 最初からあの身体能力で来られていたら虚を突かれた俺が痛手を負っていただろうが、こいつもできれば使いたくなかったのだ。


 最後に今までで一番強烈な技で締める。弱った敵にも妥協はしない。それが今の俺の戦い方だ。


「轟雷拳!!」


 夜のビクトリア湖を青に染める閃光が、周囲を焦がしながら稲妻の拳を創る。

 拳は容易に(ジァン)を焦がしつくし絶命させた。


 ……最後まで抵抗を諦めない。やはり嫌いではない敵だった。この稲妻の拳を見たあとですら、俺の胸に拳を叩きつけてくるなんて。


 これで大将戦は終わり。あとは雑魚を片付けるだけだ。その雑魚も、戦いの余波と流れ弾で大きく数を減らしている。

 もう、時間は掛けない。これ以上被害なんて出させはしない。




 夜のビクトリア湖。それは普段なら静かで、たくさんの生き物も眠りにつく時間。

 だがその日はいつもと異なっていた。何処にいても砲撃の音が聞こえ、雷撃が落ちる。

 ジダオは気づかなかった。それは、きっと目の前の敵に集中していたことも原因の一つだろう。

 一際大きい爆煙が、本隊の方から立ち上っていることに……。

 やっとSIDEジダオが終わった。なんでこんな長引いたんやろ。

 次回はSIDEジェリアスです。そんなに長くならない予定。

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