第四十話
なんでこの戦いこんなに長引いてるんだ? もっとサクッと終わる予定だったんだけど
~SIDE ジダオ~
三体の破壊種が俺を囲み、次々に攻撃を叩き込んでくる。上段からの六連撃は重さ、速度ともに強烈で、戦車が一撃でも喰らえばひとたまりもない。まして人間など、生身でこいつと戦うのは不可能だ。
チャンクーの話では、こちらの身体強化を突破する術を持っているらしい。チャンクーの乱魔拳や俺の特殊攻撃のようなものだろう。
つまり、俺たちもこいつらの攻撃を警戒しないわけにはいかないということ。
なるほど、確かにチャンクーでは相性が悪いわけだ。受け切ってノーダメージのチャンクーには致命的に機動力が足りていない。
その点、避けきってノーダメージの俺には特殊攻撃なんて関係ない。
だがこいつら、虫頭にしては連携が取れているな。人型種の連携とは違い、自分の硬さを前面に出した戦い方。
その巨体で俺を囲い込み、常に全方位から俺を攻撃できるようにしている。
まったく面倒くさいことこの上ない。一直線に並んでくれたら雷氷砲で一撃なんだが。
この位置関係と奴らの体格から考えて、普通にジャンプして方位から逃れようとしても叩き落されるし、奴らが反応できない速度で飛んでも高くなりすぎて結局着地を狩られるのがオチ。
ならやっぱり一体ずつ撃破するしかないのか。
俺は氷弾を大量にまき散らして奴らを牽制する。レート重視の氷弾では奴らの外骨格を突破するのは難しいらしいが、攻撃を抑制することには成功している。こうすれば包囲を抜け出さなくとも一体ずつ相手にできそうだな。
にしても硬い外骨格だ。当然身体強化も乗せているはずだが、それでも俺の氷弾はこの発射レートでも固定式機関銃くらいの威力。装甲車や戦車でも数秒で突破できる威力なんだが。
とりあえず左右の破壊種に氷弾をたたきつけ、目の前の一体に集中する。
レート重視の氷弾ではこいつの外骨格を突破できない。だが近接の特殊攻撃なら十分通用することが前回の戦いでわかっている。
相性の悪いチャンクーに代わって追加の大型種と破壊種の相手を任されていたからな。
一先ず単純に拳でも叩き込んでみる。前回はこれで破壊種の防御を突破し完封できた。
破壊種に比べれば重みはないが、身体能力も特殊攻撃も俺の方が圧倒的に上。俺の拳は吸い付くように奴の低い頭を粉砕し、一撃で絶命させるはずだった。
拳は奴の腕を一対粉砕するだけに留まり、頭部も胸部も叩くことはできなかった。
こいつ、俺の攻撃の予備動作を見て反応したのか? やっぱ前回戦った破壊種は生まれたばかりで弱かったのか。あいつら、俺の攻撃に対してこんな反応をすることはなかった。
だがどうにも、まだバッタの域を出ていないという印象を受ける。俺の予備動作、つまり腕を振り上げる動作だが、これだけを見てはいないか?
軍人と格闘訓練を詰んだ俺には、こいつの反応がどうにも引っかかった。軍人、つまり人間は、相手の目を見て反応するものだ。動きに緩急やフェイントをかけられる人間は多いが、目線まで騙すのは訓練が必要だ。
人型種はその点理解していたが、こいつはどうやらそれが分かっていないらしい。攻撃に対して、純粋に反応速度と反射で対応しただけ。大きな動作にしか反応できないんじゃないか?
そう考え、再度拳を放つ動作を見せる。予想通りこいつは振り上げた左腕に対して防御の構えをとった。
だが本命は別。正面に対して防御を固めた時点でこいつは俺の次の攻撃に対応できない。
サイドステップで奴の側面に回り込み、さっき吹き飛ばした腕の付け根にかみつく。奴は自分の正面に残り二対のうち一対を構えており、それを巻き込むように身体で抑え込む。付け根の部分を抑えたことでこいつは反撃することができず、俺の攻撃を受けることしかできない。
腕のうちもう一対は身体の構造上こちらに向けることはできない。
視線を意識せず、動きだけに集中すればよかったから簡単だったぞ。
「こうなってしまえばお前の装甲も意味を成さないな。まずは一体」
噛みついた腕の残骸に雷撃を放つ。こいつの生命力を考慮して徹底的に。体感的には即死しているであろう雷撃を連続で放ちつ続ける。
球状に雷撃が広がり、破壊種の身体を覆いつくして絶命させた。
俺がいる部分だけが明るく光り、視力の低下している昆虫にはさぞ目立っていることだろう。
これで包囲を突破出来たか。こうなってしまえば遠距離攻撃だけでもどうにかなる。
ただ今ので別の問題が出てきてしまった。そう思って周囲を探る。もう磁覚は信じていない。この場では、一番信用できない感覚だからだ。
振り返るとそこには、巨大な剣を持った人型種と、その周囲に大量の人型種がいた。
やはりか。今まで様子見をしていた連中がさっきのでこっちに注目してきた。
よく見ると、さっき倒した奴らよりも遥かに顔つきが人間らしい。相当上位種なのか。武器持ちの人型種は初めて見た。
「やっぱオメェ強えよな。まさか破壊種の攻撃を一発も受けないなんて。しかもあいつらの名前は鋼ナンバー。鋼のような肉体を持つ、防御特化の固体だったはず。それを完封した。そんなの、こいつを持った俺にも難しい話だぜ」
そう言って。奴は手に持った巨大な剣を振るう。身の丈ほどの長さがあり、容易には砕けない厚さを持つそれをまるで木の棒でも振るかのように軽々と扱っている。
あいつが今回の大将か。
チャンクーが戦った前回の大将とは違って近接タイプ。見るからに機動力の高そうな細い体をしている。
「名乗りを上げよう! 俺の名は剣! この部隊の隊長であり、貴様を殺す者! 俺とこの剣の前に敵はない! お前に、正々堂々と一騎打ちを申し込む! こいつらには手出しをさせない。俺を殺してからこいつらの相手をしな!」
……敵だが、俺はこいつが嫌いではないかもしれない。いや、多くの人を殺したのは知っているんだが、今この瞬間、こいつに親近感を抱いてしまった。
「フン! ならこちらも名乗り返そう! 俺はジダオ! 人類を導き、貴様らを殲滅する者! この牙は決してお前を離さず、この爪は容易くお前を切り裂く。俺の六感からは決して逃れることはできない。その勝負、受けてたとう!」
俺が勝負を受ける宣言をした瞬間に、俺と剣を囲むように人型種が円を作った。剣の奥には残りの破壊種と大型種がずらりと並ぶ。
軍というよりはギャングとかヤクザみたいだ。
剣と目を合わせ、いつ仕掛けてくるのか慎重に見極める。俺の基本戦術、カウンター狙いだ。人型と戦うときの初手はいつもこうしている。
今度はさっきと違ってしっかりと目を見る。こいつの相手をするのに、視線の管理をしないわけにはいかないからだ。
数秒の静寂ののち、奴は走り出した。持ち前の健脚で一瞬にして距離を詰めてくる。
どうやら向こうも待ちの姿勢だったようだが、耐えきれなくなったようだ。まあ短気っぽいしそりゃそうか。
速度はそのままに、上段から思いっきり切り付けてくる。しっかりと身長差を生かし、腰から身体を大きく曲げて勢いを乗せている。
上段からの攻撃において最も理論的なその一撃を、俺は半身分ずらすだけで回避した。これだけ予備動作が見えていれば回避するのなんてさほど難しくはない。
問題はここから。大型種や破壊種なら隙を晒している前側の腕を抱え込みつつ真ん中の腕を潰せば簡単に完封できる。
だが奴の腕は大型種よりも遥かに小回りがきくし、根元をピンポイントで破壊するのが難しい。一体どこに噛みつけばいいのやら。
単純に側面から噛みつけば裏拳を食らわされるだけ。ならここは敢えての遠距離攻撃を選択するべきだな。
奴の側面左腕に一撃重視の氷弾を放つ。左腕だけでも潰せれば、さっきの破壊種と同じ戦術で完封できる。
そう思っての攻撃だったんだが、流石上位人型種、剣の方に倒れこむようにして俺の氷弾を避けた。
剣はそのまま身体をひねって一回転し、再び上段から大剣を叩き込んでくる。すごい体幹だ。そんな姿勢で巨大な剣を振るえるとはな。
これに対してさらに氷弾を放ち対応する。軌道を反らされた大剣はその重量を感じさせる重々しい音を立てて地面を砕いた。
ちょうどいい、側面からの攻撃はできないと思っていたところだ。今奴の頭は俺の目の前!やり切るならここしかない!
低い姿勢から急接近し首を狩る。奴の喉元をかみ切って絶対に離さない。オオカミとしての最大の攻撃。さらに雷撃を放ち首を落とす。
「やらせねぇぞ!」
そう吠えて奴は渾身の力を振り絞り、首半分を引き換えに俺を弾き飛ばした。
「はぁ、はぁ。あぶねぇ。だが魔力で体内の循環系を操作すれば、首半分なくなったくらいで俺は死なねぇ」
凄まじい生命力と根性だな。だが逆を言えば、循環系の操作に魔力を使っている分、奴の身体強化は甘くなる。
剣筋は大ぶりで読みやすく、速さと威力こそ脅威ではあるが今まで一度も喰らう気配はない。
「たかがバッタごときが、俺に一騎打ちで勝てると思うなよ」