第三十七話
ここはウガンダ軍の緊急駐屯地。二日間の休暇を楽しんだ俺たちは食料と弾薬を受け取り、ウガンダに到着していた。
ウガンダに軍を連れて侵入する手はずはすべてジェリアスが行ってくれた。あいつは休みというものを取れない性質なのかもしれない。
「敵の軍勢は?」
「数自体はそう多くありません。大型種が18に人型種が170、飛行種は1000ですね。通常種は大体10万といったところです」
前回よりも数が少ない。それに今回はウガンダ軍も一緒なのだ。こちらの戦力は倍近い。
ウガンダとタンザニアの即席の連合。ちょっと前まで内戦してたウガンダの軍は戦闘経験豊富な連中ばかり。
今回の戦いはもっと楽なものになるだろう。
「ただ一つ問題が。群れの全長が恐ろしく長いのです。今日中に全て片付けるには隊を二つに分ける必要があります」
「なら、二日間に分けますか? 我々も破壊種という思わぬ伏兵に襲われ、危うく隊が壊滅するところでした。最悪の事態を想定して全軍で殲滅を行うべきです」
「いや、それはちと不味いな」
ウガンダの代表とジェリアスが今後について話していたところに、ジダオが声をかけた。
「人質がいる」
「は? 今なんと? バッタが人質を取ったと言いましたか?」
「ああ、その通りだ。数は22人。ろくに食事もとっていない。すぐに救助しなければ死ぬぞ。奴らにとって人質なんてのはあってもなくてもどっちでもいいんだ。ただ今回はそっちの方が有利だと判断したんだろう」
最悪が過ぎる。奴ら人の命なんて何とも思っていない集団だ。いざとなれば簡単に人質を殺す。
慎重にことを進め、かつ速攻で人質を救出しなければいけない。
「ならばやはり隊を二つに分けるべきです。ウガンダ軍が持っている魔力式貫通火砲をもってきました。化生様を二分してしまうのは危険ですが、そこは数の差と魔法で埋めましょう」
「そうですね。なんとしても今日中に殲滅を終わらせましょう。日が落ちたら即座に行動を開始します」
「「「了解!」」」
夜。バッタたちの活動能力が大きく低下し、通常種はほぼ活動できていない。飛行種も装甲車を粉砕できるほどのパワーは出せない。今は休眠中。
大型種も数体は休眠状態で、人型種も交代制で、起きているのは全体の3分の1。
向こうさんの状況は前回と似たようなもん。ただ数は半分くらい。
対してこちらの戦力は前回よりも多い。全体の戦車の数は37。こっち側に来てるのは18。大型種に対して必要な戦車の主砲はニ三発。大型種相手にするなら十分すぎる戦力だ。
魔力式貫通火砲は1丁だけ。ウガンダにあったものの一つ。ジェリアスはジダオ側にいる。ジダオは範囲殲滅魔法を持ってないからな。
ライフルも機関銃も多いし、全体の人数も増えている。戦力差を分析するだけなら負ける要素は一ミリもない。
そう、戦力差だけを見れば奴らを倒すのは簡単だ。だが、
「人質、確認しました。全部で10人。向こうの報告で12人確認しているので、数に間違いはなさそうです」
さぁて、人質をどうやって助けるか。ジダオがいる向こうは楽だよな。氷域でバッタどもの活動能力を低下させれば人質の回収くらいは簡単だ。彼らが凍傷になることも考えられるが、ジダオはそんなへまをやらかすような奴じゃない。
対してこっちは……。はぁ。
「おい、この中に測量の得意なものはいるか?」
「私が測量できます。でもなぜそんな必要が?」
先ほど人質の報告をしてくれたウガンダの兵が挙手をした。
「人質全員の正確な位置と距離を教えろ。俺がどうにかする」
「りょ、了解!」
よくわかっていない様子だが、説明するより実行する方が分かりやすい。
軍人が慎重に向こうまでの距離を測り、人質10人分の情報を俺に伝えてくれる。
人型種に気づかれないようにかなり距離をとっているが、正確な測量をしてくれている。優秀な人材がいて助かるな。
「おまえら、俺から距離をとれ。それと、人質を受け入れる準備」
全員が了解を示し、俺から距離をとる。
それでいい。人質の正確な位置は把握した。眠たい目を無理やり叩き起こしている奴らの索敵能力程度なら、隙をついて人質を助けるくらいなら簡単なはず。
そうやって自分を鼓舞し、気合を入れる。
大きく息をついて集中する。
地面に手を触れ、自然力を大量に流しこむ。人質の位置はバラバラ。そのすべての真下、正確な位置に起点を作った。
「人質を救出する。準備はできているな。人質を救出した直後に作戦を開始する」
今一度全体に確認をとる。全員準備はできているようだな。
地面に流しこんだ魔法を開放。10本の水銀の鞭が人質に絡みついてはるか上に持ち上げる。
クソ! この距離で魔法の操作がむずすぎる。俺の銀槍の有効射程は10m前後だっての。
俺は小爆発を起こして急速に接近した。起きていた人型種が俺に攻撃を仕掛けてくるも、大量の爆炎をまき散らしてこれを退ける。
轟音によって眠っていた奴らが起きちまうが、ここまで来たら問題ない。本当は眠ってる奴らを一方的に銃撃できればよかったんだが、人質の救助が最優先だ。
銀の鞭を俺の周囲に近づけ途中で切断。改めて俺の背中にくっつけなおす。人質10人、全員回収完了。
あとはこの人たちを軍人がいるところまで連れて行くだけ。
あんな残酷な奴らが人質を取ったって言ったから、彼らを活用するまで絶対に手放さないと思っていたが、流石よわよわ脳みその甲殻類だ。警備がカス過ぎる。
「お前ら! 反撃開始だ! 火砲を浴びせてやれ!」
俺が人質を連れて戻った瞬間、戦車が大量の火を噴いた。まだ距離のある大型種にそれが着弾し、すぐさま3体撃破した。集中的に火砲を浴びせ、確実に一体ずつ。前回の戦いで学んだ方法だ。
それと同時に2台の装甲車が走り出した。どちらも走行スピードに優れ、敵を引き付けるのに適している。
「人質は任せたぞ。俺は人型種の相手をする。ヤバくなったらすぐに報告しろ。どこからでもフォローに回る」
まだ何が起きたか理解できていない人質を遠距離の部隊に任せ俺も走り出す。ヘイト稼ぎの部隊の危険を少しでも減らすために俺が目立たなければならない。
大型種にもテキトウにちょっかいかけつつ飛行種に爆炎を浴びせる。人型種がすぐに邪魔してきたが、多分こいつは上位種じゃない。俺の爆炎ですぐに力尽きた。
「はん! 前回に比べれば全然弱いな! カスども、全員まとめて俺にかかってこい!」