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※パラレル地球の救い方※  作者: Negimono
第一章 アフリカ編
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第一話

~赤道ギニア 近海 新たな火山島~

 8月3日。暗い空と海の二つに輝く大きな大きな満月。雨季のこの時期にしては珍しく晴れていて、絶景の眺めだ。

 そんな美しい満月に二つの石像が照らされていた。


 一つは人型。未だ動けないにも関わらず、その瞳は確実に敵を理解し、その手は即座に敵を殴り殺さんと固く握られていた。

 一つは狼型。こちらも未だ動けないが、敵の位置をしっかりと捉え、不自然にもその方角を向いている。狼型の利点、超高度な索敵能力をすでに発揮している。


 二体は海神による改変の影響で、少なくとも蝗魔王だけは敵であることを理性ではなく本能で理解している。

 あの改変からすでに二週間。二体は石像の中にいても内部の肉体は完成し、皮膚以外の感覚器官もほぼできている。外殻である石像によって歩くだとか腕を振るだとか目に見えた動作はできないが、生成された筋肉を微細に振動させることくらいはできる。狼型のジダオに至っては風を器用に操り、体の向きを変えることができるほどには生物としての活動を可能にしている。とても岩からできているとは思えない。


 そしてついに、二体の石の皮膚にヒビが入る。だがそれは小さな卵から鶏のヒナが殻を破ってくるような優しく、弱々しいものではない。

 チャンクーはその身から火を噴きだし石の皮膚を溶かして誕生した。炎を連想させる赤黒い髪に、生まれた島と同じ漆黒の服。動きやすく、伸縮性の高いものだ。

 ジダオは雷をもって体にまとわりつく煩わしい石の悉くを粉砕し誕生した。全身は雷を思わせる青い色。人を乗せても全く問題ない大きさと力強さを持っている。


 体にたった一筋ヒビが入っただけでこれである。内部に溜め込んだエネルギーを放出し、体の調子を整えたのだ。

 ご飯は食べすぎれば体調が悪くなる。それと同じで、神々から受け取った力もその用量を誤れば体調を崩す。元々竜の巨体を持って生まれてくるはずだったため、地神も天神も多めに力を与えていたのだが、二体に分かれ、体も一回り以上小さくなり、過剰なエネルギーは誕生した直後から二体を苦しめていた。

 しかし、適切な力の量が変わっただけで、戦闘能力にさして影響はない。竜のポテンシャルは失われてはいない。戦闘は量より質だ。


「あーあー。ごほん。発声器官が安定してきたな。まだちょっとイガイガするけど。熱の余剰エネルギーが火山の化身である俺の喉を焦がすとは。テキトウな調整しやがって」


 アホな体の作りに悪態をつく。生まれたばかりであっても与えられた知識と元の人格のおかげである程度の思考能力がある。まあそれがなかったら人型として終わりなのだが。


「言っても仕方ないだろ。俺もすごく腹が痛い。余剰エネルギーで冷えた。それにまだまだアホみたいな量の余剰エネルギーがある。早めに消費しないと体がもたない」


 !!??

 なんだこいつ!? 犬? 狼? なぜ俺の隣に? 一体何が?


「おっ、おう。そうだな。つかお前、獣タイプなのに思考能力とか言語能力とか人間並みなのな。俺の立場が」


「そんなことはないさ。人型の利点は頭だけじゃないだろ。俺は道具を使う頭はあっても両手がこれだからな」


 そう言って狼は前足を見せる。ちなみに動物の前足を【手】と言う人がいるが、俺は断然足派だ。手とは、物を掴むことができて初めて手と言うのだ。だからサルは手だが狼は足なのだ。


「まあな。ところで、敵の存在を認識してはいるが、具体的のどの辺にいるかわかるか? 狼型の特権だろう」


「いや、方角くらいはわかるが、何処にいる、と断定はできないな。さすがに距離が遠すぎる。どんな奴かもわからん。あと、俺の名はジダオだ。狼型とかいう抽象的な表現はやめてくれ」


「ん。俺はチャンクー。ジダオはへんなこと気にするのな。思考レベル結構高いだろ」


「チャンクーよろしくな。お前は気にしなさすぎだ。固有名詞は非常に便利なものだぞ」


 なんだこいつ。元の人格はガリ勉君か? 俺も元の人格の記憶なんか覚えていないが、こんなガリ勉君みたいな感じじゃ無かったのは確かだ。


「ところで、そろそろここから動かないか? 敵の方角はわかってるんだろ。この余剰エネルギーもどうにかしないといけないしな」


「そうだな、とりあえず東に見えるあの島まで行こう。余剰エネルギーをうまく使えばここから向こうまで飛んでいけるだろう」


 うむ。俺の火山の力で爆発を起こし、ジダオが風で着地点をうまいこと調整してくれれば向こうの島まで行くことはできそうか。向こうには人もいるだろうし、ひとまずそこで敵の情報を集めるべきだ。


「ジダオ、あの島までの距離がどのくらいかわかるか? 俺が爆発を起こして向こうまでかっ飛ぶぞ」


「だいたい20キロくらいかな。飛んでいくのは良いが、それは朝になってからな。こんな時間に大爆発起こしたら人間たちに迷惑だ」


「むぅ。それもそうか。じゃあ朝までここでゆっくり寝ているか。さっさと余剰エネルギーをぶっぱなしてぇ」


「それは同意見だが、人間を守れと認識を与えられている俺たちが、人間たちの生活を脅かすわけにもいかんだろ」


 はあ、そもそもなんで人間を守らなきゃいけないんだ。与えられた知識が少なすぎる。人間は守れ、敵は倒せ、隣にいる奴は味方だから安心しろ。あとは、基本的な常識とか言葉とか。


 多分俺の中にある人格がこんがらがっているんだろう。自分の身体が改変を受けたことくらいわかる。人格ごと入れ替えたのだろうが、その時に元の人格と潰しあって記憶の一部をなくしたのだろう。


 知識はあるが、それぞれに理由を追求しようとすると思い出せない。確かにそれを知っていたことは覚えているのだが。


「俺は朝になるまで寝る。お前はどうする?」


「そうだな。俺も寝るとするか。起きたときにこの腹が少しでも良くなっているといいが」


 余剰エネルギーを使わないと体調は良くならないと思うが。睡眠が俺たちにどの程度効果があるのかわからない。


 それから俺たちは横になり、眠りについた。起きてすぐに寝る。二度寝というやつだ。黒く硬い床が心地いい。ぐっすり眠れそうだ。





 朝だ。とてもいい朝だ。空には程よく白い雲が並び、朝日がそれらを下から照らしている。


「おはようジダオ。気持ちのいい朝だな。二度寝はどうだった?」


「おはようチャンクー。地面が硬くて最高に最悪だったよ。寝るごとに余計に疲れる」


 そうなのか? 俺は最高に気持ちいい眠りだったが。元が岩でもジダオの本質は風や雷だからな。きっと体に合わなかったのだろう。


「そろそろ海を渡ろう。朝食の必要は?」


「ないな。あってもこのあたりの魚は噴火の影響でビビッてどっか行っちまってるだろ」


 それもそうか。魚たちは敏感だからな。


「問題ない。今すぐにでも行けるぞ」


「よし、では行くぞ! こっちに近寄ってくれ」


 俺は足元に硬く分厚い板を作り出す。重量が増えるがこの程度なら問題ない。着地の時には粉に変えて落下の被害を抑えることにしよう。

 ここの地面はなかなかに硬いから補強の必要はない。


 板の上に俺とジダオが乗り込む。板に傾斜をかけ斜めに飛ぶように調整した。そして板の下に力を込める。一瞬にして熱が膨れ上がり、衝撃と轟音。火山の噴火と同じ質の爆発は二人の身体を空へと持ち上げる。

 

「あっやべ」


 余剰エネルギーを用いた大爆発は想像以上の威力を見せた。二人が生まれた若い火山島はたやすく粉砕され、海の藻屑と化す。持ち上がった二人は音速にも届こうかという勢いで飛んでいく。


「ジダオ、予定変更だ。あの島に着陸するのは諦めて直でアフリカ大陸に行くぞ」


「おう、だが大丈夫なのかこれ。人がいるところに着けるのか」


 いや、それはお前の風でどうにかしてくれよ。空中に出たら俺に機動力なんかないから。


「しかし、俺も余剰エネルギーを使いたいな。もう少しくらい勢いがついても問題ないか。人間は数が多いからテキトウに着陸しても誰かに会えるか」


 えっ。こいつ何言ってんの? ガリ勉君みたいな感じなのに馬鹿なの?


 そのとき、さらに空に向かってとんでもない風が吹く。俺と同じ余剰エネルギーを使っているのだから俺の爆発と同等の勢いがぶつかった。


「のああああ!!! 何やってんのお前!? 沿岸に街が見えてるじゃん! なんでさらに加速させたんだよ!?」


「す、すまない。少し勢いをつけるつもりが。あっあっあっ」


 こいつ、やっぱり狼だ。知能が残念なのか!?

 沿岸がさっき見えたと思ったらもう超えている。内陸部には人里っぽいところは少なそうだ。あそこに着陸して沿岸まで歩くか!?


「と、とりあえず内陸に着地しよう! 風で勢いを抑えてくれぇ!!」


「さ、さっきからやってる! 全然勢いが弱まらねぇ」


 やっべぇ! 激突する!!


「「のああああああああああああ!!!!!」」


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