第三十一話
「オラァッ!! これで四体目!」
順調に人型種を仕留めているが、そろそろこの戦術は効果が薄くなってきたな。足止めの溶岩からも距離を離されたし、そもそも相手が状況を理解してないうちしか通用しないのは分かっていた。
それにこいつらの連携能力はやはり凄まじいものがある。
言語を介し、情報を扱う力。人間の特権だったんだがなぁ。
俺の槍の位置を逐一報告し合い、目に見えていない死角に潜り込ませても意味がない。
ただ、まだこいつらの遠距離攻撃とやらを確認していない。二体目を囲んだ時点で使ってくるかと思ったが、出し惜しみしているのか。
だがまぁ、使ってこないんだったらこちらには好都合。もし使ってきたとしてもこの全身鎧が俺を守ってくれる。
破壊種は大型種同様動きが鈍いから俺の速度で動き回っていればまず攻撃されることはない。
「五体目もぶち殺してやるぞ!」
「気を付けてください! 20番! 後ろです! 12番! 5番のフォローを!」
クソが! 指揮官の指示が上手い。銀槍はもうダメか。
各個撃破の展開になるなら機動力と走力に優れたジダオに任せるべきだった。
ていうかジダオは範囲大火力の攻撃を持ってないし、飛行種の相手は俺がするべきだった。人型種との相手をしたいという気持ちが、気づかないうちに出てしまっていたようだ。
ジェリアスも忙しそうだし格分隊長がそれぞれ指示を出している状態だ。
「さっきから邪魔くさいな! 炎砲! それと、炎塊!」
あの指揮官向けて炎を纏った鉄の砲弾を放つ。とにかくあいつの目を潰さなければ囲みこむこともできない。
俺の砲弾を警戒して大きく飛びのいた指揮官は一瞬こちらから眼を逸らした! 今だ!
粘性の高い溶岩が少しの間人型種の足を止めた。一先ず一番近くにいる人型種を拘束し仕留める!
「7番! 掴まれ!」
「9番! 助かった!」
チッ! 指揮官の目をやっと逸らせたのに個々の情報能力も高い。
だがな! ここまで追い詰めたのに見逃すわけないだろ!
銀槍をさらに増やして無理やり奴をとらえる。水銀の先端が高速で振り回され9番とかいうやつを追い払った。
計28の銀槍が平均8mまで伸びて拘束。流石にこの攻撃は避けきれまい。
周囲にはフォローに回れる味方もいない。
「不味いです! 蝗魔王様から極力使わないよう言われていましたが、魔法銃を開放します。全員退避!」
俺が7番を仕留めようと拳を放った直後、その拳に凄まじい衝撃が走った。横に大きく逸らされた拳は7番の目の前を切り裂いて空ぶる。
暴力だけを警戒しているわけにもいかなくなったな、こいつは。
拳から流れ出る血をぼんやり眺めてから指揮官に視線を移す。
左腕に謎のチューブが二本とそれに接続されたハンドガン。最近すっかり聞きなれてしまった銃声。
あいつは、七発連射式か。
って、問題はそんなところじゃない。タングステンの鎧をぶち抜きさらに俺の肉体まで貫いてきたあの銃。
通常の重火器程度ではタングステン鎧どころかこの身体すらも傷つけることはできないはずだ。
さらに六発の銃声。俺の銀槍を弾いて砕いて。できた隙間からバッタが逃げ出す。まるで虫網で捕まえたトノサマバッタが跳ねて逃げ出してしまったかのような、そんな間抜けさがある。
「……ふざけるなよ。たかが銃弾ごときで気持ちよく俺の金属を!」
ジダオや攻撃力に全振りの破壊種が間接的に俺にダメージを与えられるのはまだわかる。
だがなんだあれは。たった一発の銃弾で最高硬度の鎧を粉砕し俺に血を流させた。
こうも短期間に何度も自信を砕かれるとはな。
「流石の火力です。やはりこの武器はあなたにも有効のようですね。暴力! あなたは私とともに奴の相手を! 無事な上位人型種は卵の加速を! 物量で押しつぶすのです!」
指揮官が何やら指示を出している。
卵の加速?……まさか! 変異種をこれ以上増やす気か! 魔王に近しい眷属が持つバッタの改変能力。それを用いて戦力の拡大を!?
卵の成長を早めれば生まれてくるバッタに悪影響が出るのは間違いないが、この地はそうまでして守るに足る価値がある。
もし大型種や破壊種がこれ以上増えれば疲れ始めている軍隊が対応しきれるかわからん。さっさとこいつをぶちのめして戦力の拡大を防がなければ!
湖に走り出したバッタどもに向かって炎砲を大量にな放ちつつ追いかける! 一匹たりとも行かせない!
「そうはさせませんよ! 暴力! 奴の足止めをしろ!」
「ギィィィァァアアアア!!!!」
破壊種暴力が俺の正面に立ち射線をふさぐ。
まずはこいつをどうにかしなきゃいけないか。
先ほどのように上段から強烈な拳が放たれる。だが力量を確認する必要はなくなった。さっきみたいに喰らってやる理由はどこにもない。
鎧の一部を分解して軽くし、動きを加速させる。足元だけに集中して小爆発を起こし以前よりも遥かに機動力を高めた。
暴力の攻撃は空ぶり地面に巨大な穴を開ける。
奴の側面に回り込んだ俺は拳を突き立て思いっきり引き絞る。こいつの防御力を突破するにはこちらも最大出力でなければならない。
「殺らせませんよ!」
まさに暴力に攻撃を叩き込もうとしていた俺の右腕を弾丸が貫く。
めっっっっちゃ痛い。思わず叫びだしそうなほどだ。身体強化で痛みは緩和できない。むしろ感覚神経を拡大させているから余計に痛い。
だがここで痛がるほど余裕はない。
痛む右手を無理やり動かして叩き込む。傷口がエライ痛むが、暴力を殺れるなら安いもんだ。
カナブンの頭部と胸部の間に風穴を空け、気色悪い色の血をまき散らす。
「ググィィィイイ!」
暴力が苦しむ声とともに側面中央の足を叩き込んでくる。
「グボァ!」
思わぬ攻撃に退くが、空中で鎧をフルプレートに戻して重量を増やし着地する。
着地したそばから傷口に向かって大量の炎砲を叩き込む。
さらにタングステン製の大型槌を生成しド頭をぶち抜く。
一瞬遅れて銃弾が浴びせられるが、そのすべてを銀槍で受け止める。あの弾丸一発を防ぐのに必要な銀槍は大体四本ってところか。
「次はてめぇだ!」
「……ギィガァァァアア!!!」
「何ッ!!??」
昆虫の生命力を侮っていた! 暴力は生きていた。背中に強烈な一撃をもらってしまった。
「いい加減くたばれや!」
さらに追加で炎砲を食らわせる。弾丸は奴の肉体を貫き絶命させる。
「ハァ、ハァ、手間取らせやがって」
やっとのことで破壊種を仕留め、今度は指揮官を殺る。
やべぇことになってやがる。
そこには、凄まじい数の飛行種と大型種が追加で12体。そして一番の問題は………。
「「「ピィギィィァァアアア!!!」」」
破壊種が三体、産声を上げていた。