第三十話
さっきからめちゃめちゃ攻撃を受けているが……。
……うん、全然効かないな。そりゃそうだ。タングステンの全身鎧は、ほんの数俊といえどジダオの雷氷砲を防ぎ、それを凌ぎ切るだけの余裕と時間を与えてくれた。
この程度の攻撃で突破されるはずがない。
「なあ、そろそろこっちからも攻めてもいいか?」
「……ずいぶん余裕じゃないですか! ですが、こいつの攻撃も耐えることができるんですか!?」
今更どんな奴が出てくるというのか。人型程度の破壊力ではこの鎧を破壊することはできない。
たださっきから奴らの攻撃を眺めているが、流石というべきか。凄まじい連携だ。
25という数を生かし切った連携は俺が攻撃しようとしてもそれを許してくれない。上位種ということもあり、少なくとも遠距離攻撃は当たる気がしない。
「こいつはあなたの防御力を突破するためだけに、魔王様に無理を言ってこちらに回してもらったんですよ!」
俺に攻撃していた人型が叫ぶと、その瞬間に地面が激しく揺れ始めた。
大きい。揺れもそうだが、それを起こしている存在がだ。どうやら人型ではないらしい。
大型種のさらに上位種か?
俺の真下が大きく割れて砂埃を上げながらそいつは現れた。
大型種よりもさらに巨大な姿。特有の光沢が弾丸の光を反射し緑色に輝いている。
腕は昆虫というには太すぎ、引き締まった肉体はその質量を感じさせる。
全体的に細いカナブンといった姿。やはりバッタには見えない。それにこいつらは群生相。黒や黄色が主流だ。
緑色というのは孤独相の色であり、こいつは相変異をしていないか、そもそも別の虫であることが分かる。
「どうですかこいつは! 大型種をさらに改良した破壊種です。固有名は暴力! さあ、我々とともにこいつを殺すのです!」
なるほどな、確かに脅威だ。地面を潜航する移動能力にこの体重。明らかに硬いことも分かっている。
こいつ単体でも強いが、それを援護するのは連携のスペシャリスト25体。容易に攻撃を当てさせてはくれないし、少しでも鎧を傷つけられれば連撃でアウト。
「ならまずはそいつの攻撃力の確認か。そいつが俺の鎧を砕けるのか。それを確かめるのが最優先だな」
「まだ余裕のつもりですか。良いでしょう! 一撃でその鎧を粉砕して我々の連撃でチェックメイトです!」
暴力から放たれる二つの拳。四本の足でしっかりと大地をつかみ、体重をフルに乗せた攻撃は素人の俺から見ても完成されている。
人間で言えば、両手を組んで上段から放つハンマーのようなものか。
ジダオの雷氷砲や直接攻撃を防げるこの鎧を信頼しているが、なにせ体重が違う。少なく見積もってもジダオの十倍はある。
それに破壊種とかいういかにもな名前の種族が単なる筋肉達磨とは思えない。
手をクロスさせ奴の拳をまっすぐにとらえる。地面との踏ん張りをつけ、耐えきるためだ。ここの地面がこんだけの攻撃を受けて無事なわけがないが。
腕から入った衝撃は俺の体内を留まることなく突き抜け地面をたたく。
タングステンの鎧は一ミリも傷つくことなく、重量も推進力も押し負けてはいない。
……だが、受けた衝撃は本物だった。タングステンの鎧などそこに無いかのように俺の肉体にダメージを与えた。
あっぶねぇ、地戴を発動してなかったら今ので潰れていたかもしれない。
この感じ、俺は味わったことがある。ジダオの特殊攻撃だ。
あいつの攻撃のからくりはただの力の移動だった。戦闘中俺に嘘をついていたんだ。俺の動揺と、対策の空回りを狙うために。
実はあいつは身体強化以外に攻撃力を高める術を持っていた。身体ではなく拳という物体に推進力を乗せるのだ。
これには拳に天の力を乗せる必要がある。ジダオが扱える力はあくまで己自信と大気に限られるから。だから身体に天の属性が必要なのだ。
つまりジダオは俺の地戴に近い魔法を既に持っていたわけだ。
この魔法を利用し、持ち前の索敵能力で俺の力をたどり、自然力を鎧の中に貫通させ俺の肉体に”推進力を”叩き込む。
鎧の内側に空気が存在し、俺の自然力をたどれる限りあの特殊攻撃は何処にいても俺に刺さる。
だから鎧ではなく俺の肉体が金属並みの硬度ならこれを耐えきれるわけだ。
暴力の攻撃も似たようなものだろう。ジダオほどの威力はないにしろ、俺にダメージを与えられるのだ。
今までのような余裕は見せていられない。
さてどうしたもんか。まずは動きの鈍い破壊種から殺っておくべきか? だがこの人型種共がそれを簡単に許してくれるとも思えんしなぁ。
ジダオも飛行種の駆除に忙しいし、機関銃は破壊種どころか上位人型種にも当たっていないし、当たったとしても通用しない。
気が乗らんが、身体強化で速度を引き上げ破壊種の攻撃を避けつつ人型種を一体一体確実に潰していくのが良いか。
「つっても、さっきから攻撃が当てられる気がしねぇんだよな。取り合えず、銀槍! 炎塊!」
いつもの水銀の槍を生成して手数を増やしつつ、溶岩を伴う炎の塊を生成し周りを巻き込む。
こいつで破壊種も殺れれば良いんだが、無理だろうな。
この攻撃は奴らの視界と移動能力を奪うためのもの。
独自の身体強化で、溶岩に足を突っ込んでいるのに、それを滑らせるだけで灰にならない、という異様な現象に向かって走り出す。
だよなぁ。ただの雑魚でも昔の俺の爆炎を耐えきれたんだから、上位種のあいつらに通用しないのは分かっていたさ。
だから俺は、奴らがまだ状況を理解できないうちに攻撃を仕掛けた。
俺の身体強化は以前とは比べ物にならず、体内でその運動をどんどん高め、敵を砕く刃となる。
その走力はジダオほどはなくとも弾丸よりは早く、俺の拳は音よりも早く振るわれる。
こいつらを各個撃破するには、連携を絶つのが最も有効。
目の前の一体をとらえて銀槍で囲む。即座に拳を叩きつけるもこれは避けられた。弾丸を避けるのと同じ。どんな速い攻撃も、予備動作と打点が感づかれればこいつらには通用しない。
だが二撃目はそうはいかないぞ!
銀槍で背を軽くついてやればもうこいつの逃げる隙はない。
少しでも俺に傷を付けようと四つの手すべてで攻撃を仕掛けてくるが、そんなもの俺の鎧が防ぐ。
四つの攻撃などガン無視して左拳をバッタの頭に叩き込む!
俺の鎧をたたく音が聞こえるが、タングステンに比べれば軽すぎる。
対して俺の拳は、奴の硬い頭部をあっさり叩き壊して弱い脳をまき散らした。
「これで一体。さあ掛かってこい雑魚ども。一斉にはやり切れないから四天王制みてぇに一体ずつな!」
「全員、あの槍を最大限警戒しろ! 流体のあれは容易に我々を分断することができ、そうされれば我々が不利だ。各自槍の位置を報告し合い、もし囲まれたら遠距離攻撃で奴の気を反らすんだ! 暴力は隙を伺って奴に重い攻撃を叩き込め!」
「「「おお!」」」
「ピギィィァアアア!!」
なんだよこれ。俺が悪みたいじゃねぇか。まぁあいつらから見たら悪そのものなんだが。
ってかあいつら遠距離持ちかよ! めんどくせぇ。ジダオが飛行種と大型種を片付けるのが早いかもな。