第二十五話
超至近距離かつ水銀の槍で完全にジダオを包囲している。この距離では重量があり、絶対の防御力で相手を攻め続けられる俺が圧倒的に有利。
ここからいったいどう攻めてくるつもりなんだ?
そう、思っていたんだが。
奴は構わず先ほどのように右腕を振り上げ叩きつけてきた。
「それは通用しないぞ! ジダオ!」
俺はこの攻撃を無視して受け止める。大ぶりの攻撃で隙を晒したジダオに反撃を叩き込むためだ。
俺の全身鎧ならジダオの攻撃だろうと防ぎ切れる。先ほどこれを証明して見せた。
迫るジダオの攻撃。身体強化の練度は俺よりもはるかに高く、ついさっき新たな身体強化の方法を手に入れたために更なる攻撃力がある。
鎧なしにこれを受ければ一撃でノックダウンだろうな。重量はないが勢いは果てしない。
鎧に凄まじい衝撃が走る。金属特有の高い音が響き鎧を震わせた。
なん、だと?
その時、俺は一瞬何が起きたかわからなかった。だがそんな思考は、俺の腹に訪れたすさまじい痛みにかき消された。
「アガッ」
一体どういうことだ? 俺は確かに凄まじく硬いタングステンの全身鎧を着てる。タングステンが突破されたのかと思ったが、腹部に穴らしいものはない。
この鎧の厚さは車両のパーツづくりを元に構成してある。もちろん外部からの力が内部に伝わるようにはできていない。
「何が起きたか理解できていないようだな。鎧越しでも動揺が伝わってくるぞ」
「なんだ今のは。俺の鎧には不備も隙も無い。そのはずだ」
「そりゃそうだ。お前の鎧は重量、硬度ともに一級品。通常の攻撃程度ではびくともしない。俺の見立てでは、戦車の砲撃でも傷一つつかない」
その通りだ。地属性の自然力で無理やり硬度を上げたタングステン鎧は何をしようとも砕けない。たとえジダオの攻撃だろうと全くと言っていいほど通用しないはずだった。
「何、難しいことではない。力の発生点をずらしたのさ」
……、何言ってんだ?こいつ。
力の発生点をずらした?それは、運動エネルギーの場所をずらしたってことか?
つまりは、どういうことだ? 頭の処理が追い付かん。運動エネルギーをずらす、本当にそんなことが可能なのか?
さらに動揺した俺を見てジダオはにやりと笑う。
クソ、まだ何か隠してやがるなこいつ。
っと、そんなこと考えてるうちにジダオは二撃目を放ってきた。
ッ! どういう理屈かわからんが、あの攻撃を食らうのはまずい。
腹に喰らった衝撃。本来のジダオの攻撃力から考えれば微々たるものだが、あれを食らい続ければ負けるのは俺だ。
少なくとも今までみたいに受け切って反撃喰らわせるのは無理だ。
出していた水銀の鎧を即座に回収し今度は盾状に再生成する。
一先ず手数は置いといてあれを防ぐ、または躱しきる手段を探るべきだ。
ジダオの二撃目が水銀の盾にぶち当たりデカい音を立てる。
今度は身体にも接触していない。なのに俺の腹に衝撃が走る。さっきに比べれば大したことはない。身体強化で受け切れるレベルだ。
だがやはり奴の攻撃は俺の防御のどこに当たっても俺まで届く。
とにかく今は距離をとることが優先だ。どうやらあの攻撃は距離が離れるほどに威力が減衰するらしい。
ならば、水銀の槍が最も力を発揮する中距離を維持して戦うんだ。
水銀の槍はしっかり集中力し精度を高めれば、俺の拳と似たような威力は出せる。弾丸と合わせればその二つだけでもジダオを完封できるはずだ。
ジダオに向かって水銀の槍で牽制しつつバックステップで距離をとる。ジダオはさっきの攻撃で水銀の槍を弾くが、流石にこの程度では俺の肉体をどうこうすることはできない。
それと一つ分かったこともある。地戴を使えばあの攻撃をある程度抑制することができるのだ。
どうやら金属は突破できても、地戴で地属性を手に入れた俺には通用しないらしい。
ただそれも、水銀の槍越しだからというだけで、鎧越しに受けるのは危険であることに変わりはない。
水銀の槍をさらに大量に生成し、密度を高める。ジダオの突破力はよく知っている。少しでも守りの手を緩めればすぐに近づかれてさっきの攻撃を叩き込まれてしまうだろう。
さらに弾丸を大量に撃ちだし奴を近づけさせない。
「フハハ、チャンクー。そんなに焦って防御してどうしたんだ?」
そりゃ焦りもする。絶対の信頼と自信を持っていた防御を、正攻法でないにしろ突破されたんだ。俺の素の耐久力はジダオにも劣る。
っていうか、ジダオが攻勢に出る前に言っていた軍人との体術訓練とか一ミリも役に立ってないだろ。
「お前は気づいていないかもしれないがなチャンクー、俺はお前がそうやって距離をとってくれるのを待っていたんだぞ!」
ジダオから凄まじい量のエネルギーを感じる。
膨大な量の自然力はまず突風になり、次に大量の稲妻を生成した。稲妻は一点に集約されていき、何故か超高密度の氷弾を生成する。
「この魔法はある程度距離が離れてないと使えないんでな」
雷が宿った氷弾はその場で高速回転を始め、その出力を増していく。生成された突風はこれを待ち構える俺に圧を与え、雷はその力強さを見せつける。
「俺はな、チャンクー、お前の防御力を正攻法で突破するつもりでいるんだぞ。それができなけりゃカンハンの防御力を突破できないだろうからな」
「そうか、そうだったのか。なら受けてたとう! 俺の絶対の防御力を突破して見せろ!」
異世界物が書きたくなってきました。パラちきが終わるまでは別シリーズは書かないつもりでしたが、第一章が終わったら別の作品を書き始めるかもしれないです。