第二十三話
「なあジダオ、訓練の時間も残り少ないし、昨日みたいに実戦形式の訓練をしないか? お互いの戦い方も分かるし」
「そうだな、俺もお前に見せたいものがある」
個人訓練も大切だし、基礎訓練は怠るべきではないが、実戦で使えるかどうか確かめることがもっとも重要なことだ。
以前のようにどちらともなく距離をとる。
今回は俺も遠距離攻撃があるが、ジダオの方が扱いが上手い。だから本当なら距離をとるべきではないが、それを防げなければ、格上の蝗魔王には勝てるはずがない。
それはジダオも同じだ。有利な状況で相手の接近を許してしまえば魃魔王には勝てない。俺に何もさせないまま完封できなければ奴の攻撃を捌ききって有効打を与えることは難しい。
「距離はこのくらいでいいか。ジダオ! 準備はできてるか!?」
大体100m程離れたあたりでジダオに声をかける。恐らく実際に戦うときも、このくらいの位置から勝負を仕掛けることになるだろう。
「問題ない! 開始の合図を頼む!」
「良し! では始めぇ!!」
デカい声を張り上げつつ気合を入れる。まずはジダオが放ってくるであろう氷弾か電光を確実に捌く!
ジダオの額に自然力が集まっていくのが見えた。その瞬間に俺は全身鎧を作り出す。材質は鉄ではなくタングステン。鉄よりもはるかに重いが今の俺の身体能力なら問題ない。
ジダオの額が一瞬光ったかと思うと、音よりも早く電光が駆け抜けた。
防御力自体はあの威力の攻撃を受けても問題ないが、金属の全身鎧では感電して動けなくなるのが目に見えている。だが、
「俺の答えはこれやぁぁぁ!」
即座に岩石の小盾を生成する。自然力の運動を抑制し結合を強める。さらに自然力を圧縮し直接強度も高める。
その盾でもって、動体視力と身体能力のみで受け止めて見せた。
身体強化に使う自然力は鎧とは違って運動を活性化させ今までの比にならない出力を出す。
「昨日よりも格段に身体能力が上がったみたいだな。俺の電光を腕で防ぐとは!」
「さっさと距離を詰めさせてもらうぞ!」
周囲に大量の水銀を生成し槍の形状を作る。身体強化によってタングステン鎧の重さを全く感じさせず距離を詰める。
ジダオからさらに連続で電光が放たれるが以前に使った無属性の波を放ち方向性を失わせ、水銀の槍の先端に吸い付かせる。水銀は俺とは触れてないから、感電の心配はない。
無属性の波に名前でも付けようか。『乱魔波』、今後はそう呼ぶことにしよう。
「なるほどな。電光には対策が万全のようだ! ならこれならどうだ!?」
ジダオは電光の連撃を中断し、氷弾の速射に切り替えた。
氷弾のレートはさらに向上しており、サブマシンガンどころかミニガン並みの発射レート。地道に精度と練度を鍛えていた成果か。
命中度も高い。的確に俺の頭を狙ってくる。
しかし氷弾を受けてもこのタングステン鎧があれば問題はない。それはジダオも分かっているだろう。だからこそ頭を狙ってきている。鎧越しに脳震盪を狙っているんだ。
水銀の先端に圧力をかけて硬くし、自然力の運動も抑制して結合を高める。対して先端以外は柔らかく、高速で動かせるようにしておいた。
氷弾の多くは水銀を鞭のように動かして破壊していく。氷弾は弾丸程度の大きさしかなく、それが超高速で飛来してくるもんで、とんでもなく集中力を要するが、十分に防ぎ切れているし歩みを止めることはない。
「余裕なさそうじゃないかチャンクー! 戦いってのは相手の嫌がることをこぞってやるんだぞ!」
ジダオは氷弾と同時に電光を放ってきた! 乱魔波は精度の上がったジダオの電光を乱すのにかなりの集中力を要する。かといって小盾で受け止めるのも体勢は崩れるし集中力もエグイ。
慌てて水銀の槍で受け止めるが、氷弾よりもはるかに強力な電光は俺の水銀の槍を押し返してくる。
俺の顔面を狙ってた電光を受け止めたんだから、当然槍は俺の顔面に向かってきた。
その瞬間俺は水銀との接続を切り離し即座に回収した。
あっぶねぇ! なんだあれ。あれ喰らったら感電と脳震盪のダブルパンチで一発アウトだ。
岩石を鉄みたいにコーティングできれば電光を気にせず突っ込めるんだが、あれは強い衝撃が加わると簡単に粉砕される。
合成樹脂みたいな絶縁体を生成できればいいんだが、地の属性にそれは含まれてないようだ。そりゃそうか。
仕方ない、ここは素直に突っ込む! 多少強引にでも距離を詰めて近距離戦に持ち込むべきだ。
鉄の弾丸を大量に発射し向こうの集中力を乱す。基本顔面を狙ってくる氷弾は水銀の動きをパターン化することで集中力の分配を減らし、何処に当たっても危険な電光をしっかりと乱魔波で防ぐ。
ジダオとの距離は約10m。ここまでくれば俺のターンだ!
走って更に距離を詰めつつ範囲を狭めた爆炎を放つ。視界を遮りすぎないようにジダオの額だけを狙った。
爆炎をもろに喰らったジダオは即座にバックステップで距離をとるが、見たところ特にダメージはなさそうだ。
流石、常に身体強化を使っていただけあって小規模の爆炎程度ではびくともしないか。
だが今の一瞬ジダオからの攻撃がやんだ。俺にはその一瞬だけで十分だ。
一気に速度を速めジダオの側面に回る。さっきまで固定砲台のように立ち止まって攻撃していたジダオは反応が遅れていた。
その隙を突いて攻撃を叩き込む!
右手に装着していた小盾を右手全体を覆うように変形させ、重量を高めた拳を上段から思いっきり振り下ろした。
しかし反応が遅れていたはずのジダオはほんの少し横にずれるだけで俺の攻撃を躱す。本来ならそのステップすら間に合わないはずだった。ジダオの身体能力と反応速度は俺が思っていたよりもかなり高くなっているようだ。
完璧に俺の攻撃を捌いたジダオから強烈なカウンターがくる。ジダオの近接戦の定石。最初に相手の攻撃を見てからそこに完璧なカウンターを繰り出す。
単調な噛みつきだが、あれを一度でも喰らえば逃れることはできない。
急接近してくるジダオの顔面に対し、降り下ろした右腕を起点に一回転し裏拳を放つ。狼の絶対的弱点。鼻先を思いっきりぶち抜き吹き飛ばす。
「のあッ! クソ、今のはなかなか効いたぞ!」
「まだまだ俺のターンだ!」
距離が空いたがこのまま離れてやるわけにはいかない。即座に距離を詰める。水銀の槍で四方を囲みつつ薙刀状にした鉄で切り付ける。
逃げ場はない。ジダオは常に顔を正面を向けて戦っている。弱点を常に晒してるようなもんだ。
「この槍で俺を追い詰めたつもりだろうが、動きが平面的だぞチャンクー!」
そう叫んで真上に跳躍するジダオ。頭上から大量の氷弾が撃ち込まれるがその悉くを水銀の槍で防ぐ。
「空中にだって逃げ場なんかねぇんだよ!」
薙刀のリーチを伸ばし切り付ける。先端の速度が一気に上昇しジダオに迫る。