第二十二話
あの後問題なく鉄の分解をし、タングステンの生成も予想通りに成功させた俺は、新しい技術と発見を共有するためにジダオを大声で呼ぶ。
自然力の運動力を活性化させることで、身体強化をさらに強力なものにすることができる。攻撃力に悩みを持っていた俺たちにとってはこれほど嬉しい発見はない。
「また新しい自然力の使い方を見つけたのか。流石だな。俺は地道に練度と精度を高めていたぞ」
常にプレーンな状態の自然力で身体能力を強化しているジダオがそう言いながら近づいてきた。
ジダオはこういうのホントに真面目だよな。俺みたいにドカンと一発強くなろうとか思わないのか? 正直俺は多少危険な賭けでも今回はそれを成せなければ蝗魔王には勝てないと思っている。
だが理論的なことにおいては俺より賢いジダオが何も考えずに基礎能力を強化してきたとは思えないな。基礎訓練をすることで魃魔王に勝てる算段があったのか。
「おう! 新技術の発見は人型の得意なところだ。今回のはさらにすごいぞ。今までの身体強化や攻撃系の出力をさらに強くできる!」
「なるほど、確かにそれはありがたい。正直今の時点でも破壊力には自信あるが、それは強いに越したことはないからな。で、具体的にどうやるんだ?」
「ああ、それはだな……」
俺はジダオに発見した技術を教えた。
体内の自然力は外に放出している時よりも運動力が大きい。そこで、放出した自然力の運動力をこちらで大きくすることで、動かせるエネルギーがはるかに大きくなり、出力が上がる。
さらに岩石や金属など物体として生成した場合、その物体内の運動力を大きくすると体内に戻すことができる。
「う~ん? つまりどういうことなんだ?」
「体内で力が運動してるのはわかるか? それかその生成した氷の中の自然力が動き回ってるとか」
どうやらジダオは良くわかってないらしい。やっぱ制御能力の差とかが関係あるのか?
ジダオが作り出した氷塊を指さして説明するが、どうにもうまく伝わっていない。
「熱運動は知ってるだろ? イメージとしてはあれに近いんだが」
「ふむ、熱運動か。大量の粒子が動き回っているような感じだよな」
「そうだ。体内にある方が液体の熱運動で、放出した方は固体の熱運動に近いな」
ジダオはう~んと唸ってよくわかっていない様子だ。制御能力に違いがあると自然力を捉える感覚にも差があるのか? そういえば俺が流体と捉えてる自然力も、ジダオはもっとあやふやなエネルギーの塊と捉えてるようだしな。
「なら自然力を注ぎ込んで運動力を大きくするのはできそうか?」
「ちょっとやってみる。……! もしかしてこれのことか!? 分子の運動が激しくなって熱量が上がってきたぞ!」
は? 熱量が上がってきた? 自然力の運動は確かに分子の熱運動に近いが、熱や音、光といったエネルギーは発しないはず。あくまでも自然力と魔法の中で完結するはずだ。
もしかして天の自然力を経由すると性質が変わるのか?
「へえ、俺がやった時とはちょっと反応が違うみたいだけど、しばらくエネルギーを上昇させ続けてくれ」
「わかった。この運動が大きくなると体内に戻せるようになるんだよな」
ジダオの氷塊はとっくに気体になっている。固体から一気に気体に昇華したおかげでジダオの制御権を離れなかったようだ。ジダオの天の権利に含まれている水の力はあんまり自由が利かないらしい。
「おお! これはすごいエネルギーだ。今までこんな自然力の使い方はしてなかったが、小さい物体にこんなにエネルギーを詰め込めるのか!」
ジダオが珍しく大声出して喜んでる。いや、珍しくもないか。こいつの真面目君みたいなイメージが未だに大きいだけだ。
ちなみに今までこんな自然力の使い方をしなかったのは、単純にできなかったからだろ。制御能力が向上するまでは、体から離れた魔法は追加で力を加えることができなかった。
だから今までは自然力の線を体にくっつけたままで魔法を使ってたんだ。
「すごいな、自然力の運動を熱量に換算するとこんな感じなのか。ただ熱量にエネルギーを使っちまってる分、体内に戻せる自然力の量は少なくなるだろうな」
自然力もエネルギーに関する法則を完全に無視できるわけではない。氷塊を作った時のエネルギーが熱と自然力の二つに分かれるのだから、当然取り戻せる量は減る。
ただエネルギー体の自然力を物体に変換できる時点で、魔法は物理法則を無視してるようなもんだが。
ジダオは俺に言われた通りどんどん氷塊(気体)の熱量を上げていく。1600倍に体積が増え、その熱量によってすぐにでも拡散してしまいそうな水蒸気はしかし、確かにそこに存在することが分かる。
これが天の自然力か。
「……? なぁジダオ。これホントに自然力の運動力を上げてるか? 物体の熱量を上げてないか?」
「? どういうことだ? これで成功じゃないのか?」
ジダオの水蒸気はついに火を噴く。可燃性が無いはずの水が発火するとかマジでどういうことだ?水素や酸素じゃないんだぞ。
「これもしかして、天の力固有の反応か? お前の制御能力が俺よりも低いからお前と同じ反応は起こらなかったが、無理やり運動量を増やしたことで天の属性の反応を引き出してしまった……とか?」
「な、なるほど? 天の属性固有の力。分子の動きを操る力が天の属性に含まれているのか」
すげえ簡単に言ってるが、それって極めれば最強じゃね? もし分子を個別に操作できれば、今みたいに無理やり発火させることもできれば、そもそも体を構成する分子を崩壊させて直接相手を殺すこともできるんじゃないか?
「ジダオ、その力、もしかしたら今後出現するであろうあらゆる敵に対する切り札になるかもしれんぞ」
「どうした急に。何を期待してるのか知らんが、分子を直接操作して人体を破壊したりするのは、今の俺の制御能力じゃ無理だぞ。それに蝗魔王が言ってただろ。体内の循環系は身体強化の応用で操ることができる。お前たちは体内の自然力の運動を操作できるんだろ? なら分子の運動を活性化したところで決定打にはなり辛いだろ」
ぐぬぬ確かに。初見ならまだしも、一回見せちまえばすぐに対策できそうだ。自然力は自分の体内で操作できるし、循環系を操作できるなら身体の構造に自然力を使って結合を高め、運動の活性化を妨害できる。
ん? てかその方法で肉体の強度を高められそうだ。
そもそも今回は自分の力である氷塊だったから分子を操作できただけで、他人の分子は操作できない可能性もある。
「絶対強い力だと思ったんだけどな。なんかもっと応用が利きそうな予感がする」
「まあ俺もそんな気はしている。時間があるときに研究しよう。ただ今優先するのは、お前に後れを取ってる制御能力だな。攻撃力を優先していたが、制御能力が低いとできることの範囲が狭い」
そうだな、これからも俺が新しい技術を見つけることはあるだろうし、それはジダオも使えた方がいい。
だが、地と天で属性的な違いが増えたことは素直に喜ばしい。早い段階でそれに気づけなかったら、俺たちの力の研究が停滞するだろうからな。