第二十一話
訓練開始から三日目。今日で約束の訓練最終日だ。鉄、水銀の生成に成功し、最後の段階。タングステンを個人で完成させなければならない。
一先ず今までの復習。鉄と水銀を別々に生成してみる。
昨日限界まで自然力を使い切ったことで増えた上限と、それに伴って制御能力が向上したことにより、鉄と水銀を同時に生成し、かつどちらかの性質に寄ってしまうこともない。
やっぱ力を上限まで使い切るのは大事なんだな。そのせいで軍の保管庫を埋め突くてしまったが、あれだけの資材なら迷惑なことはないだろ。……そう思いたい。
それに昨日の夜は最高に気持ちがよかった。ただ、ジダオと今後についていろいろ話し合っていたが、終盤はほぼジダオの言葉をそのまま飲み込んでいた。
だが覚えていることはある。簡単にまとめると、
1つ、固有名詞。
2つ、今後の活動について。
とりあえず人間に協力し国連軍にも所属する、ということになった。ただ、あくまで多くの生物を救うために人類の組織力を利用する、というだけで、良いように使われてやる気はない、という俺の意志だけは伝えた。特定の生物を贔屓目に守ることはないとも伝えてある。
その他、大型種の攻略や人型種の戦闘の特徴など戦闘で得た情報と推測を話し合った。こういうのジダオは得意だから、俺は人型との戦闘経験を伝えるだけだったんだが。
昨日の話し合いを振り返りつつ水銀を大量に生成し、そこから無数の槍を生成して、そこに鉄の膜をコーティングする形で追加していく。戦闘においてはマジで意味のない鉄と水銀のモダンアートのようなものが完成した。
水銀を自在に操る感覚を覚えたら、何故か鉄も流体みたいに扱えるようになった。流石に水銀ほど素早く自在にはいかないが、生成した鉄の形を変えるのに苦労しなくなったのはありがたい。
……この水銀、どうしよ。
宙に浮かぶ水銀と鉄の塊を眺める。そういえば昨日まで作り出した金属は軍に提供していたが、もう軍の倉庫に空きはない。
金属系の力の処理を考えてなかったな。水銀は当然だが、鉄を自然界にそのままにするのはどうなんだ?
タングステンの生成よりも先にこっちを優先すべきか。実はタングステン生成の目途は立っている。ちなみに最初に融合力で作ったタングステンは軍が回収している。融合力産の金属に特殊な魔力が宿っている可能性があるから、先進国に高く売りつけるそうだ。
まず膜状に生成した鉄を剥がして地面に落としていく。液体の水銀をそのまま落とすのはヤバいから、この鉄を器にして水銀を流し込んでいく。
宙に浮かしたままじゃ集中しづらいからな。
ふう、一先ずこれで生態系の破壊は避けられた。もし水銀の分解に失敗しても、この容器ごと軍に押し付ければいい。
具体的にどうやってこの水銀を分解するのかだが、まず思いつくのは、自然力に戻すことだよな。
化学みたいに水銀を無害な物質に変えるのはここの設備じゃ無理だ。
つってもどうやって水銀を自然力に戻すんだ?
とりあえず水銀の中に含まれている地の自然力をテキトウに動かしてみる。やはり流体の水銀は内部の自然力を動かしやすい。これができるから人類でも魔法を使えるんだろう。鉄の自然力も動かせないわけではないが、かなりの精度と集中力を要する。
う~ん。これマジどうすりゃいいんだ? そもそも自然力を水銀にするときの自然力の動きはどんなもんだったか。
わかんなくなってきたから容器に水銀を追加しつつ自然力の動きを確認してみる。
ほ~ん。こうやって自然力の動きに着目して考えてみると、なかなか興味深いな。
まず最初の状態においては自然力は地という属性を持っていない。形を変えたときにもまだ地の属性はもっていないが、電気を通す、熱をよく通す、密度が高いなどの性質を与えたときに地の属性が付与される。
ただしこの時点で地の自然力は水銀の中にあるよりも激しく運動を起こしている。最後に水銀が生成され始めると地の自然力が安定し始め、定着していく。
なるほどな。つまり俺が扱っているのは運動力の大きい地の自然力であり、運動力の小さい物体中の自然力は俺の体内では操作できないと。ジダオと固有名詞の決め事をしたから、より理性的に自分の力を分析できるな。固有名詞は便利ってこういうことか。
なら単純に水銀中の地の自然力の運動力を激しくしてみるか。
水銀中の自然力は操作が簡単だから、すぐに運動力を上げられる。
ん? でもこれは俺の体内にある自然力とは違っているな。定着した地の自然力は結合が強くなっているから俺の体内には入れられないのか。
結合を分断するにはどうするか。分子の運動で言うと、熱量を高めると熱運動が活性化し、結合が外れるよな。
水銀の運動力をさらに高めていく。今更だが、運動力を高めても熱を放ったりはしないんだな。感覚的にはまさに熱運動みたいに内部の力が激しく運動している。
活性化した自然力の運動は、熱も音も放たず、ただ内部で移動するだけ。明らかに運動力に対して放っているエネルギーが釣り合っていない。これは化学とは異なる自然力特有の性質か。
調子に乗ってどんどん運動力を上げていく。既に俺の体内にある自然力の運動も上回っているが、まだまだ運動を活性化させることができる。
いよいよ光でも放つかというほど大量のエネルギーをつぎ込んだ時、静止を決め込んでいた水銀がついに崩れ始めた。
どう考えてもはた目にはエネルギー保存の法則も質量保存の法則もガン無視し、水銀が減っていくように見える。だが当然そんな絶対的な法則を外れてはいない。崩壊した水銀は地の自然力に分解され、エネルギーとして変換されていく。
ここまで分解できれば、俺の体内に取り込むこともできそうだ。
変換した水銀を体内に収めていく。これはジダオから力の干渉を受けたときの感覚に似ているな。ただ操作は自分でしなくちゃいけないからそこは違うが。
ともあれ、制御能力向上のおかげもあって早々に水銀の分解を成功させることができた。正直もっと時間がかかるかと思ったが、この数日で俺の制御能力はだいぶ強化されているらしい。自然力の運動力を操作するとか、そんな細かいこと、少し前にはできなかった。
これは身体強化にも応用できそうだ。運動力を上げた自然力は通常よりも高い出力を出せそうである。
環境や生体への影響なんて気にしてたら戦闘に集中できないし、気づいたときに力の分解方法を知れてよかった。
次は鉄の分解だな。水銀よりも運動力を上げるのは難しいし、時間はかかるだろうが、午前中を使い切る前に成功できるだろう。
今回マジで物語が一ミリも進展してないんだけど、ナニコレ?魔法の理論とか詰めていくのは自分の作風ということで考えてますけど、さすがにこれはどうなんですかね?