第十五話
この前蝗害の動画を見ていたら、ロッキートビバッタとかいうやつの存在を知ってしまいました。詳しく解説している動画があるので気になった人は調べてみてほしいですが、先にこっちを知っていたらそっちを物語の舞台にしたのに!
負けた。完全に負けた。誰がどう見ても俺たちの完全敗北。
蝗魔王ワンには俺の攻撃が通らなかった。武器の数々は網膜以外を貫くことができず、爆炎や岩石砲も通用しない。身体強化の練度の差をこれでもかと見せつけられた。
それに、未だに身体強化とそれを扱った体術以外奴の攻撃を引き出せていない。億単位の軍勢を率いる蝗魔王の力が、その程度なはずがない。味方のバッタを使った何かがあるはずなのだ。
ジダオも魃魔王カンハンに大敗した。聞いた限りでは、カンハンは凄まじい力の制御能力を持っており、1000m離れた地点で雨雲を反発し、同時にジダオの氷弾を弾くほどのエネルギーを見せつけた。
直接近づいて首を噛み切ろうとしても歯が通らず、最後まで空中100m地点から動かなかった。
そして最後、奴らが俺たちにとどめを刺すために放った力は、この金属の壁がなければ防ぎ切ることはできなかった。それも、俺たちの生死が議論になっていなければ奴らは追撃してきただろう。
いくら金属の壁とは言え、あの攻撃を受け続けていればいずれ崩壊していた。魃魔王の熱風の力なら、金属を崩すくらい簡単のはずだ。金属を溶かせるだけの力が奴にはあった。
「ハッ! おい! 無事かお前ら!?」
自分の弱さを悔しがり敵を分析するのも大切だが、巻き込んでしまった軍人たちが心配だ。
俺は大きくへこんだトラックをたたいて声を掛ける。
辺りはトラックのヘッドライトが照らしていて、金属の壁の中でも光源が確保されている。
「気絶している者もいますが全員無事です! 外では何が起きていますか?」
中から声が聞こえてきた。全員無事か、良かった。
どうやら、俺がトラックに激突したときにドアがへこんで出れなくなっているみたいだ。ジダオがぶつかったところにも大きなへこみがある。
「待ってろ、すぐに出してやる!」
トラックのドアを破って軍人を救出する。気絶しているのは二人か。
トラックの中からは暖房の温もりを感じた。あたりに毛布が散乱している。ジダオの気温操作での寒さに耐えるため用意したものだ。
しかしカンハンの熱波でそれも必要なくなってしまった。どころか、そのせいで気絶している者もいる。
「ありがとうございます。すごい戦闘音が聞こえましたが、一体何があったのですか?」
俺は彼にすべてを話した。人型変異種を倒し群れを潰すだけのつもりが、総大将の蝗魔王が現れ敗北したこと。
現在アフリカを襲っているのが蝗魔王だけでなく魃魔王も参戦していること。
結果、人型種三体と飛行種数体を撃破したが群れを壊滅させるのは失敗し、多くを取り逃がしてしまったこと。
「そうですか、蝗魔王だけでなく魃魔王まで。化生様達でも奴らを撃破することはできなかったと。蝗魔王は北アフリカにいたはずなのに」
「俺たちは負けた、だが抵抗をやめるわけにはいかない。軍に帰ったらすぐに周辺の湖や川を回ってバッタの卵や幼虫を殺せ。抵抗することを諦めれば勝利はない。俺たちの敗北はすなわち、アフリカの崩壊を意味している」
ジダオ……。
俺がさっきまでの戦いを振り返っている間にも、こいつは勝つこと、抗うことを考えていた。そうだ、抗うことを止めてはいけない。
蝗魔王と対峙するまで、俺は本当にそいつが悪なのか判断しかねていた。だがあいつはダメだ。奴と拳を交わした瞬間にわかった。あいつは人間を殺すために行動している。奴の行動のすべてが人間を滅ぼすためのものであり、人類の敵だ。
「了解しました。魃魔王の出現と合わせて出撃を申請しておきます。政府とFAOにもすぐに報告がいくでしょう。ただ、殺虫剤散布の際、変異種が妨害してくる可能性が高いので、お二方にも出撃命令が出ると思います。我が国にも魔法兵が居ればいいのですが」
「魔法兵とはなんだ?」
「はい、魔法兵とは……」
軍人が説明してくれたことを要約すると、
まず魔法とは、俺たち化生や魔王が使った力が分解され、魔力粒子という物体に変化したものを使って起こす超常能力のことらしい。
最近になって魔力粒子の量が増え、軍事利用できる程度になったらしい。先進国がこぞって研究に乗り出しているそうだ。
魔力粒子を用いた武装は、人類でも魔王やその眷属に有効打を与えることができ、今後の魔王災害対策に注目されている。現在各地で昔の魔王が生み出した眷属が復活し始め、アフリカ以外の地もかなり危機的状況らしい。
ただ、この魔力粒子を用いた兵器は最新技術の粋を集められた物のため、非常に高価でアフリカ諸国ではなかなか導入できていないそうだ。
「ところで、この金属は?」
軍人は俺とジダオの力が融合して作り出された金属を叩く。甲高い音を響かせている。その音が、金属特有の硬度と密度を示していた。
「これは最後の最後、俺とジダオの力が融合し生み出したものだ。本当は奴らに反撃するために最強の鉾、雷を作り出すつもりだったんだが、力が俺側の性質によってしまって盾ができた」
俺は金属の壁に触れ力を流し込む。こいつを操作して壁に出口を作り出すためだ。
「ん? 俺の力だけじゃ動かないか。予想はしていたが、簡単に操作できるものではないようだな。ジダオ、氷域で気温を下げてくれ。こいつを加熱して溶かす。それに、もしかしたらこの金属が何なのか判明するかもしれない」
俺の言葉を受け、ジダオが辺りの温度を下げる。これで、溶岩並みの火力を出しても問題はない。
手の中に熱を生み出した。まずは500℃程度。氷域で下がっていた気温がグンと上がり、軍人がうめいた。だがすぐに気温が調整され快適になる。
ふむ、500℃程度では変化なしか。鉛や亜鉛ではない。鉛の融点は330℃、亜鉛は420℃だ。
次はさらに温度を上げて1000℃。金や銀、ウランはこの辺りで溶ける。しかし金属に変化はなく、溶けだす様子はない。まだまだか。
もっと温度を上げて1500℃。鉄やニッケルかとも思ったがどうやら違うらしい。これは、嬉しい結果になるかもしれない。
調子に乗って2000℃。この温度で溶けない金属はほとんどない。これはもうほぼ確定だろう。
一気に温度を引き上げて3500℃。ついに金属の壁が溶けだした。強烈な熱波が外へ飛び出し周囲が灼熱の地になる。
一応確認のために温度を下げて3300℃。金属の壁は熱を放って固体に戻り始める。
「こ、これはいったい?」
軍人が大穴の開いた壁を眺めている。少しふらついているな。ジダオの気温操作があるとはいえ、予告なしに3500℃は調子に乗りすぎた。
「喜べお前たち」
気温操作で周囲の温度を把握していたジダオ以外、ポカンとしている。
「もしかして、その金属、鉛や鉄ではないのですか?」
「融点3422℃、沸点5555℃。この金属はタングステンだ。靭性は弱いが耐久力、硬度に優れ、戦車の装甲、対戦車用の徹甲弾にも使われる金属。重量が凄まじく、俺が扱う分には鎧や盾に適している」
この金属を自由に扱えるようになれば、大幅な戦力の増強になるだろう。軍に提供すればさっき言っていた魔法兵の編成や武器の製造にも一役買うはずだ。
「それだけじゃない。なぜ俺がタングステンを生成できたのか。答えは簡単だ。俺の力はただの火山に収まってはいなかった。もっと奥深く、地球の中心に近い力を扱える可能性が高い。タングステンは重く、地球が溶岩に覆われていた時代に地中に沈んでいった。それを取り出せるのだから、俺の力は火山よりも奥深くのものを扱えるかもしれない」
これは良い発見だ。蝗魔王ワンに負け、対してバッタも倒せず悔しさを感じていたが、希望が見えた。
それに、俺の力がそれだけ強い物なら、ジダオもとんでもない力を持っている可能性が高い。すぐに雷を完成させるだろう。
速攻で力をつけて蝗魔王ワンと魃魔王カンハンにリベンジだ!




