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※パラレル地球の救い方※  作者: Negimono
第二章 中国・ロシア編
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第二章 幕間

~SIDE ジダオ~


 チャンクーが中国で大立ち回りをしている間、俺もアメリカでそこそこの活躍をしていた。ここ北アメリカ大陸に出現する、様々な眷属を撃破して回っていたのだ。


 アメリカで眷属たちと戦うというのは、困難を極めた。何せ、古い資料が何も残っていないのだ。最近の悪魔や妖怪の類なら事前に対処ができるが、古い者たちが復活する昨今、その対処は後手後手に回り、民衆への被害も拡大しやすい。こんな土地を今まで守り続けてきたこの国の兵士たちには、本当に称賛しかない。


 そんな中、やはり俺の力は期待された。このアメリカでは、より戦闘力の高いものほど優遇されるのだ。特に俺のように、足の速い者は重宝される。広いアメリカ大陸を瞬時に移動し、即刻敵を排除できるからだ。


 俺はチャンクーとは違い、スピード型の化生である。天の魔法を自在に操り、トップスピードは音速を遥かに超える。現行の戦闘機で、俺に追いつけるものはいない。空を縦横無尽に駆ける魔法『空歩』を用いれば、山脈の類もものともしなかった。


 しかし、結果はやはりそこそこである。俺は確かに多くの市民を救ったが、ひとつ大きな失敗をしてしまったのだ。

 アメリカで猛威を振るっていた古の魔王、洗脳魔王の残滓を一人、取り逃がしてしまった。


 洗脳魔王は、チャンクーの倒したバジリスク、俺の倒した翼竜、大西洋に居座る海龍に、現在中国で大戦争を引き起こしている大妖怪と同時期に復活した、太古の魔王が一人である。彼も長い年月によって大分弱体化していたが、それでも俺から逃げおおせて見せた。


 この事実に、アメリカ中に激震が走ったのだ。いや、アメリカ国民だけではない、俺自身にも、途轍もない衝撃が走っている。


 何せ、俺は索敵能力に最も特化した狼型の化生だ。獣型の中でも特に嗅覚と磁覚に優れ、天の魔法と組み合わされば如何な敵をも見逃さない絶対の索敵能力となる。

 それが、たった一人の、弱体化した魔王を取り逃がしてしまったのだ。


 俺への失望とともに、絶対の索敵能力を持つはずの俺を振り切った洗脳魔王への不安が、アメリカ国民全てを襲っているのだ。一般人にとって、戦闘メインでない魔王であっても脅威であることは変わらない。街中で遭遇すれば、まず間違いなく死ぬのだ。


 洗脳魔王の恐ろしいところは、その残虐性にある。一時、アメリカの約6割が彼に支配されたのだ。


 彼の能力は名前の通り、洗脳。それも、より広範囲の人間を洗脳するのに長けた魔王である。彼が地上波のテレビを利用して民衆を扇動し、ついには大統領まで上り詰めかけたとき、本当にこの国の終わりが見えたのだ。


 テレビで彼の顔を見て、ラジオで彼の声を聞けば、魔法に耐性のない一般人など彼の人形と化す。彼はその力を利用し、人類の間引きを試みた。


 つまり、各種メディアを利用して民衆を洗脳し、ほとんど洗脳の完了した地域から順番に暴動を起こしたのだ。それはとても凄惨な事件であった。様々な町、様々な州から、皆一斉に武器を取り戦い始める。そこに、友人や家族の別など存在しなかった。


 彼に洗脳された人々は、彼の洗脳を受けていない人間も無差別に殺す。アメリカ中全ての人間が被害を被った。一定の地域では人口が激減。小規模の町や村は生存者が誰もおらず、完全に壊滅してしまった場所もある。


 しかし、奴がやはり古い魔王であるのは、洗脳の脆弱さだった。確かに強力無比な魔法を操る危険な魔王ではあるが、それは魔法に対してある程度訓練を積んだものにはまったく通用しなかったのだ。軍に入って一年目の若輩にも、洗脳は掛からなかった。


 それどころか、独学で魔法を勉強している一般人や、生まれつき魔法に少し耐性があるような人にも、彼の洗脳は効かなかった。


 当然、そういった人たちは魔法装置を持っているわけではない。あれは、一般人が持つには少々危険な代物だから。ただ、ある程度魔法に関する知識を持っているだけのことだ。たったそれだけで、奴の魔法は掛からなくなる。


 さらに、テレビやラジオに俺が出演すると、不思議と奴の洗脳が緩くなるのだ。

 恐らく、化生のパッシブスキルのようなものだろう。魔王が放つ負の魔法を、間接的ながら打ち消しているのだ。メディア越しでこれなのだから、洗脳を受け暴徒と化した民衆も、俺が出向くと目を覚ます。


 しかし、その場にあるのは近しい人々の死体と、恐らくそれを手がけたであろう得物だ。手に持つそれを見た瞬間、崩れてしまう者が後を絶たない。当然と言えば当然なのだろうが、人間のこういう感覚は、狼である俺には少し理解しがたいものだった。


「ジダオ殿! お待たせいたしました、奴の居場所を特定しましたよ! ジダオ殿の魔法追跡も感覚器官も振り切れるということで、別のアプローチをした甲斐がありました!」


 彼女はリグルマージュ。身長は低くアメリカ人にしては童顔が過ぎるが、これでも立派な兵士である。それも、ただの兵士ではない。この国で最も戦車の扱いに長けた、勲章持ちの兵士である。


 彼女は、ケニアで大活躍したホゥェップと共通する部分が非常に多い。どこか達観的で、自分ではなく、周囲からの目を通して自分を見ている。操縦技術も凄まじく、やはりホゥェップを彷彿とさせる戦士であった。


「よくやったなリグルマージュ。やはり奴は、自身の魔力を完全に隠すすべを持っていたのだ。蝗魔王が得意な技であったが、奴よりもずっと強固だ……。それでリグルマージュ、洗脳魔王は今どこに?」


「はい、このリグルマージュ、ジダオ殿のために血眼になって探し回ったのですよ! 奴は今、北アメリカから脱出しカナダへ。それも、永久凍土の方へ向かっているのですよ。あっちはまだ洗脳魔王への対策が進んでいないですから、早急に対処しないと!」


「なるほど、助かった。おいそこのお前! 上層部に俺の飛行許可を申請しておいてくれ。俺は今からちょっと行くところがある」


「ちょ、ジダオ様!? もしや、今からカナダに飛ぶつもりですか? 飛行許可はまだ降りていませんよ!?」


「何言ってやがる。絶対に飛行許可を取れ。これは最優先事項だ。人の命がかかっている。今すぐ俺が奴を殺さなければ、カナダで再びあのような事件が起こるぞ。お前まさか、それを容認するというのか?」


 とんでもない、といった様子で、男は駆けて行った。彼ならば絶対に飛行許可を取ってくれるだろう。何せ、俺の命令だ。この国で俺以上の実力者がいないゆえ、俺の意見が最も尊重される。ここは実力主義だからな。

 名も覚えていない青年よ、よろしくたのんだ。


 俺が窓をぶち破り外へ出る準備をしていると、もじもじリグルマージュが近づいてい来る気配がする。コイツは、本当に隠れて近づくということを知らないな。それでは、戦車から引きずり降ろされたときどうやって戦うのか。


「あ、あの、ジダオ殿? もう行ってしまうのですか? ……その、約束のモフモフを……。いえ! 人命救助が最優先です。私のことなど……」


「何をバカなことを言っているのだ。モフモフならばさせてやろう。しかし、厚着をすると良いぞ。俺の背は、実はとても冷たいのだ。天の化生であるからな。ホラ、着こんだから俺の背にまたがると良い」


「ほ、本当ですか! 実はもう、準備をしているのです。ジダオ殿は氷のように冷たいですから、私も覚悟してきたのですよ。では、いざや!」


 楽しそうに俺にまたがるリグルマージュ。全身を使って俺の毛をわしゃわしゃしている。

 彼女は動物が好きなのだ。とくに、大きくてモフモフな奴。なんとも女児らしい。


 さて、腰に魔法銃を確認。身体強化用のデバイスも常に携帯しているな。

 戦車は……流石に持っていけない。しかし、彼女ほどの腕があれば、狙撃もお手の物だろう。近距離は俺がどうにかすればいい。


「リグルマージュ、もっと俺の毛を強く掴むんだな。そう、身体強化魔法を使って」


「ほへ? ……ほへええええええええ!!??」


 ぶち破った窓から、俺とリグルマージュは射出された。

 空を踏みしめ、一歩ごとに加速する。四歩踏みしめるころには、音速域を突破しソニックブームを放っていた。


 目的地は、当然カナダ。洗脳魔王を、今度こそぶっ殺す。奴は俺の獲物だ。絶対に逃がしはしない。

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