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※パラレル地球の救い方※  作者: Negimono
第二章 中国・ロシア編
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第百十五話

 本当にすいません。パラちき、七月の間だけ各週土曜日ということにさせていただきます。


 まあ、待ってる人なんていないから大丈夫とは思うけど。

~SIDE ソンダビット~


 またも、奴の口から霧が吹き出し視界を塗りつぶされる。こうされては、俺から攻撃を仕掛けることはできない。何せ、奴がどのように反撃してくるのか見当も付かないのだから。力量で大きく劣る俺は、視覚情報に頼らなければ戦えない。


 この霧は粘性の強いものだが、ラズルシェーニェと俺のパワーが合わされば吹き飛ばすことは可能だ。しかし、安易にそれを選択していいものだろうか。この大剣を振り回すことは、それだけで大きな隙となる。


「……アララーさん、また質問です。アララーさんの生み出す肉体は人間の能力を遥かに超えたモノでしょう。なら、眼球とか耳とか、そういうのも強くできますか? 具体的に、霧の中でも目が見えるようになるとベストなんスけど」


『……不可能ではない。我の力ならば霧の向こうどころか、奴の魔力の流れまで見通せるようになる。しかし、わかっているな? やるのならば覚悟を決めろ。コイツを倒すことに、お前はそれだけの代償を払わなければならないのだぞ』


 迷いは、なかった。

 俺は素早く腰のナイフを引き抜き、自らの右目に突き刺す。激しい痛みで意識が飛びそうになるが、それをこらえてナイフを回した。一回転でナイフを抜くと、そこには血まみれの眼球も一緒にくっついている。


「言ったじゃないスか、アララーさん。そういうのも作戦の候補として考えるって。俺の身体なんて、ここに暮らす人々の命を考えれば安いもんですよ。コイツを倒せるのなら、死なない程度に踏ん張れます」


 即座に修復されていく右目。アララーの魔法によって生成されたそれは、今までの常識を一変させた。


 全てが見通せるのだ。霧も見える。しかし、霧の向こうも見える。全体像の見えなかった蚩尤レプリカが、今は筋肉の筋に至るまで見通せるのだ。


 どころか、俺の横で戦うロシア兵の姿も見えた。視野が果てしなく広がり、視線を動かすことなく全ての光景を鮮明に受け取る。この目は、およそ人類のそれとはまったく異なる、まさに神やその眷属の持つ目だった。


 そして同時に、恐ろしいほどの喪失感を覚えた。現実味のなさが、かえって右目の喪失という現実を突きつけてきたのだ。

 俺はもう、この場で右目すらも失ってしまった。これから先、人間の目を取り戻すことは叶わない。そう思うと、若干の後悔すらもやってくる。


 本当なら、霧の対策を考えた装備を持ってくるべきだったのだ。相手が霧で視界を遮るという情報も事前に把握していたのだから、霧の中でも戦える装備を用意することは可能だった。それを怠り早期出陣を望んだのは、俺の判断ミスだったのだ。


 きっと、俺よりも思慮深いドラコイェストはそういった装備を持ってきている。

 なんて情けないことだ。人類最高峰の戦士と謳われるものが、この体たらく。蚩尤レプリカを倒せぬまま帰っては、ただの恥さらしだ。


「さあ行くぞ、蚩尤レプリカッ! 全人類80億人のために、死んでもらう! お前のような古い存在は、大人しく墓場で眠っているがいい!」


 駆けだす。ラズルシェーニェを左肩に担ぎ、先程と同様右手を盾に走る。

 しかし今度は、身体を守るのではなく、この右目を守るのだ。アララーの脅威は、彼も良くわかっている。ならば、右目を狙ってきて当然だろう。


 対する蚩尤レプリカは、またも後ろ足から踏み込み一瞬で距離をゼロにし、今度は右手のストレートを放ってきた。

 と言っても、奴の右手は二本ある。俺の右手一本で受け切ることはできない。なら……。


「避けきるしかねぇッ!」


 人間の拳なら半歩。いや、数センチ。それだけ身をずらせばもう当たらない。

 しかし、奴の拳は俺の上半身ほどもある。小さな足の動き程度では、到底避けきることなど出来はしない。ならば、全身を使って躱すまで。


 右目の動体視力が飛躍的に向上したことで、俺の反応速度は劇的に変化していた。

 右手を奴の拳より左に突き出し、それを追うように身体を動かす。最悪右脚が遅れても、ここは奴の拳が当たらない安全圏だ。


 俺の右側スレスレを通り抜ける巨大な拳。その威力は、魔法で強化された俺の肉体を消滅させるほどである。これを利用しない手はないだろう。何せ、そのまま俺の攻撃力に転換できるのだから。


 先行させた右手を奴の腕に添わせる。それだけで、あまりの威力に俺の身体が引っ張られ半回転した。その勢いを殺さず、アララーが作り出した魔法の左手でラズルシェーニェを降り下ろす。


 瞬間、辺りに舞うのは鮮血の赤。ついに俺は、蚩尤レプリカの強靭な腕を一本切り飛ばすことに成功した。それは、本来人類には不可能なことだ。今までの歴史上、これほど強力な眷属・魔王に一矢報いた人間は一人としていない。それは、化生にのみ可能な偉業であったからだ。それを、この俺が為した。


 しかし、喜んでばかりもいられない。何せ、奴の右拳はひとつではないのだ。

 俺はその攻撃を認識するよりも速く、身体の回転を利用して奴の懐に潜り込む。


 次の瞬間、先程まで俺がいた場所には奴の鉄槌が降り下ろされていた。

 右腕を切断された痛みなど毛ほども感じさせないその威力は、地面を易々と砕き、自信の右腕をも巻き込んで粉砕せしめた。あれを喰らっては、まず間違いなく死ぬ。


 追撃を避けたのも束の間。今度は近づいた右脚からストレートキックが放たれた。

 この距離間では、左右に避けることは不可能である。達人である蚩尤レプリカなら、その反応速度で追えるはずだ。かと言って、後ろに避けるのは愚策中の愚策。


 判断した瞬間、ここで俺は一世一代の賭けに出た。

 なんと、ラズルシェーニェを放棄して上に飛び上がったのだ。あの重たく取り回しの鈍重な大剣を抱えたままでは、奴の攻撃を避けきることはできない。


 先程のように下側に避けなかったのは、速度の問題だ。物体の落下は、重力によって速度が決まっている。それでは、この近距離で躱すことは出来ない。ならば、自分の身体能力次第で何処までも速くなれる上方の方が明らかに可能性がある。


「一動作も無駄にはしないぞ! 火山の種ッ!」


 この局面の中、ただ避けるためだけの動作は必要ない。それはあまりにも隙が多すぎる。

 ならば、移動したのならその最中にも攻撃を挟むべきだ。たとえ奴にそれが通用しなくとも、攻撃の択が失われていないことを見せつける必要がある。


 俺は炎を纏った掌底を奴の顎に叩き込み、その勢いを利用して急降下する。

 相変わらず素手の攻撃も炎の追撃もまるで通用していないが、それでも奴の顔面に一撃叩き込むことが出来た。今まではその懐にすら届きもしなかったのに。


 そして、俺が落下した先には、先程手放したラズルシェーニェがある。これを素早く拾い上げた。ここまできたらもう、強欲になる他ない。最後一撃顔面にぶち込んで、俺の勝利にさせてもらう!


 身体強化もフルに活用し、重たい体重と刀身を最大限に活かせるよう最速・最大を狙う。

 突き立てるは奴の喉元。どんな生物であっても、首を切断されては絶命する。それが如何に生命力の高い巨人族であろうとも。


 ……手ごたえはあった。威力も充分。奴の右腕を切断したよりも遥かに高い殺傷性だったはずだ。狙いも正確で、ラズルシェーニェは間違いなくその刀身を奴の首に突き立てていた。しかし……。


「残念です、本当に。あくまでも人間である貴方には、この太陽の鎧を貫くことは出来ないのです。羲和(ぎか)の太陽は十。長い年月を経て劣化しているとは言え、大地の化生チャンクーでもなければ、これは破れないでしょう」


 俺は無力にも、追撃の左拳で吹き飛ばされた。自分の力量不足に、そして人間という種族の弱さに、もはや抵抗も諦めてしまっていた。


 今度は、右半身に強烈な痛みが走る。それは、左腕や右目を失うよりも決定的に、俺へ敗北を知らしめた。アララーの魔法で修復されるも、もうぐったりとして力が入らない。


『……諦めるな、ソンダビット! 己が名を叫べ。お前の名は、【ソンダビット】だろう! 奴の不可視の鎧が太陽の力だというのなら、お前に砕けないはずはない。我の異能と合わされば、お前の真名魔法は太陽すらも打ち砕けるのだ!』


「俺の、名前? ソンダビット、ソンダビット。ソン、ダビット。……Солнце Раздавить!?」


『その通りだ。過去、【太陽を砕く】という名を冠するものは幾百と生まれている。当代では、それがお前なのだ。お前ならば、太陽の鎧など打ち砕いて余りある! 何せ、お前は近代において人類最高峰の戦士なのだから! さあ名を叫べ、ソンダビット!』


 アララーに背中を押され、俺はラズルシェーニェを握りしめる。もうすでに、俺の両腕はアララーの魔法になっていた。ならばこそ、今まででも最強の一撃が繰り出せる。


「……打ち砕け。真名魔法【Солнце Раздавить】ッ!」


 首を一閃。蚩尤レプリカの身体からは、十の太陽が生む輝きとともに、その巨体を支え続けた血液と魔力の限りが溢れだした。

 どうしても今回で終わらせたかったから、ちょっと急ピッチになっちゃった

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