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※パラレル地球の救い方※  作者: Negimono
第二章 中国・ロシア編
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第百九話

「ソンダビット、お前は俺が言うまで待機してろ。ラズルシェーニェならば奴の肉体も切断できるだろうが、逆に、奴の攻撃は何が当たっても致命傷になりえる。人間がまともに戦えるような相手ではないんだ。分かっているな」


「もちろんっス。巨人族との戦いには慣れているつもりですが、武器を抜いた奴からはただならぬ気配を感じるっスね。自分じゃ、少々力不足みたいです」


 そう言って、ソンダビットは俺の背後に隠れる。

 良い判断だ。人間よりも遥かにリーチが長い蚩尤レプリカは、恐らく一歩踏み込むだけで充分である。ならば、距離を取ることに意味はない。俺の真後ろが一番安全と言えるだろう。ソンダビットの巨人慣れには、俺も目を見張るものがある。


 ソンダビットを庇うように意識しつつ、奴がどのように出てくるか観察する。

 定石通り、攻撃用の黒の剣は右手前方に構え、防御用の白の剣は左手、心臓から頭を覆うように構える。アララーの双剣を最も効率よく扱える構えだ。


 俺の戦闘スタイルは、基本待ちからの反撃。人知を逸脱した五感を持つ相棒、ジダオから着想を得たものだ。機動力の低い俺に良く適している。

 ジダオのように超反応は出来ないが、俺はこの構えが気に入っていた。


 それに対し、蚩尤レプリカは八つの腕を乱雑に構え、手に持つ武器も方向性がハッキリとしない。先端がこちらを向いているものもあれば、明後日の方向を向いていて、どのタイミングで攻撃に用いるのかまったく予想の付かないものもある。


「しかし、本当にまがい物と呼ぶ外ないな。刀と槍はともかく、方天戟に偃月刀か。貴様、いったい何時代の妖怪のつもりなんだ? 蚩尤が活躍した時代、方天戟も偃月刀も中国には存在しなかったはずだ」


 方天戟は槍のような形状をしていて、先端横に別の刃が付いている。切る、突く、薙ぐ、払う、叩くと、あらゆる用途を想定して作られた武器だ。

 これが活躍するのは三国志の時代。呂布の武器だ。蚩尤が活躍した夏王朝以前の中国には存在しない。


 そして偃月刀は、薙刀のような武器だ。通常よりも刃が大きく、馬上での取り回しを想定して柄は短い。その重量から、ある程度の筋力を持つ戦士でなければ扱えない武器。

 これもまた三国志の時代、関羽を代表する武器である。当然、蚩尤が扱ったはずはない。


「それに関しては、申し開きもありません。ただ愚直に、強さを求めた結果ですよ。何せ、あの時代の武器は多様性に欠ける。それでは、当代の化生を相手に出来ない。心配なさらずとも、武芸の魔王である蚩尤の影響を色濃く受けておりますから、方天戟も偃月刀も、扱いには自信がございます。このように!」


 そういいながら、蚩尤レプリカは方天戟を放った。

 巨人である彼を考えて作られたそれは、人間用の方天戟よりも遥かに重く、長く、そして鋭い。放たれる突きは、まるで大砲のごとき威力であった。


「地戴! 鎧!」


 後ろにいるソンダビットのことを思えば、攻撃を後方に流すことはできない。

 であれば、俺の重量を増やし防ぎ切るしかないだろう。心配せずとも、アララー白の剣はあらゆる攻撃を防ぐ。俺が吹き飛びさえしなければ、受け切るのは容易いのだ。


 白の剣を用いて、俺はその攻撃を真正面から受け止める。狙い通り、俺が飛ばされることはなかった。

 そしてすぐさま、黒の剣で方天戟の先端を貫く。あらゆる物体を貫ける黒の剣は、分厚い金属の塊に容易く大穴を空けた。


 しかし、向こうがそのまま追撃を許してくれるはずがない。

 蚩尤レプリカは潔く方天戟を放棄し、短く持った偃月刀を薙ぐ。前方からならば防ぎようがあるが、横から迫るそれは、少し間違えればソンダビットに当たってしまう。


 俺は素早く横を向き、これを白の剣で防いだ。即座に黒の剣を手放し、流体の金属である『銀槍』でこれをキャッチ。偃月刀の腹を貫き地面に固定した。瞬時に銀槍をタングステンでコーティングすれば、もう偃月刀を動かせまい。


「! やはり強い。大地の力を持つ化生というのは、これほどまでに厄介なものなのですか! いや、私よりも遥かに強い蝗魔王を打倒するほどですから、当然なのでしょう。ですが、簡単にやられたりはしませんよ!」


 本当に判断の早い妖怪だ。奴は驚くべきことに、偃月刀の柄を圧し折り、棍としてこれを用いた。これほどの重量を持つ偃月刀。当然、遠心力に負けないよう、内部には鉄の芯が入っている。これだけでも、武器としては充分な威力だ。


 相変わらず巨人のスケール。俺が近づけるようなリーチではない。そも、奴の腕が長すぎるのだ。この体格差では、致命傷を与えるのも一苦労である。

 この棍を防ぎ切ったとしても、残る槍と刀、そして四の拳に阻まれてしまう。


「本気で掛からなければ、ソンダビットの命が危ういな。本当は、これでもかというほど圧勝して、蝗魔王がどれほど強い魔王だったのか見せつけようと思っていたのだが」


 性格が悪いのは自覚している。しかし、それほどまでに、俺はあの決闘を神聖視していた。誰にも、汚すことは許さない。俺にとって蝗魔王は、そのくらい絶対的強者だったのだ。


「……銀槍!」


 タングステンの鎧に接合するように、背中から十の銀槍を展開する。うち一本には白の剣を、うち一本には黒の剣を構える。空いた両手は、ひとまず何の武器も装備しない。次に撃つ一手には、両手が空いていることが必要不可欠なのだ。


 俺の腕なんかよりも、銀槍の方がずっと反応速度が早い。有効射程も10mほどで、奴のリーチを掻い潜って攻撃できる。

 しかし、敢えて難点を言うのならば、重量がない。確かに、水銀とタングステンで構成された槍と考えれば重い武器だが、地戴を発動した俺の体重ほどではないのだ。


「分かっているなソンダビット。この銀槍は奴の攻撃を突破できても、致命傷を与えるには不十分だ。黒の剣では、攻撃面積が小さすぎる。巨人である奴を殺すには、お前の攻撃力とラズルシェーニェが必要だ」


「……理解しています。タイミングを見計らって、奴の懐に飛び込み両断する。リスクは高いですが、自分がやらなければならないことでしょう。覚悟は出来ています」


 本来なら、銀槍でラズルシェーニェを扱えれば一番いい。

 しかし、この武器はソンダビット用に作られたものだ。彼の体内に埋め込まれた魔法装置と直結している。それを、今ここで取り出すことは出来ない。


 それに、最大射程まで引き延ばした銀槍だと、あそこまで巨大な武器を取りまわすのは非常に難しい。不可能ではないが、銀槍は銀槍として扱う方が効率的だろう。


 俺の目的は、とにかくソンダビットを連れて奴の懐まで入り込むこと。銀槍で牽制し合っていては、いつまで経っても奴を打倒できない。ここは、ソンダビットのパワーに賭けるしかないのだ。


「行くぞソンダビット! 突貫戦車ッ!」


 生み出すのは、全体をタングステンで構成された金属の戦車。俺の馬力を持ってすれば、手押しで通常の戦車よりも素早く移動できる。

 前面は三角錐の盾が付いており、奴の攻撃を悉く弾き飛ばせる。元々は大群をかき分けて進むためのものだが、奴の無数の攻撃は、まさに大群と同じことだ。


 取っ手を力強く握り、万力を込めて押し進める。タングステンの車輪が大地に沈み込むよりも先に、突貫戦車は猛々しく走り出した。


 トップスピードはさほど速くない。普通の乗用車と同程度だ。しかし、この重量を考えれば、その威力は計り知れない。如何に奴の攻撃が重くとも、この突撃を止めることは叶わないのだ。


 地面をひっくり返しながら進む戦車は、棍の一撃を弾き返し、槍の突きを捻じ曲げ、刀を圧し折る。幾百と続く拳の連撃も、露ほどの意味も持たない。


 そして、鉄壁の盾から一人、如何な悪魔妖怪をも打倒する最強の戦士が飛び立った。

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