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※パラレル地球の救い方※  作者: Negimono
第二章 中国・ロシア編
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第百四話

 場所は再び変わって、ここはロシアの樹海。レーシーが次々と復活しているというポイントだ。以前に、ソンダビットとドラコイェストが一掃作戦をした場所でもある。彼らにとっては勝手知ったる戦場というわけだ。


 上層部の連中も、やっと考え直してくれたらしい。

 そうだ、このように木々が密集していて、戦闘車両の類が立ち入れない場所においてこそ、俺たちを動かす価値があるというもの。


 現在中国の原野では、最新式の戦車を始めとした戦闘車両の部隊が向かっているそうだ。兵士の安全管理もしっかりと成されていて、部隊には妖怪対峙の大ベテランもついているそうだ。向こうは安心だと思っていい。


 そしてこちらも、安全確保を怠ってはいない。二人はこの戦場を経験済みだ。何より、両者とも以前まではレーシーを中心に任務を行っていた。当然奴らの性質や戦い方を熟知している、エキスパートと言っていい。


「いや~、俺の新しい剣を早速試す機会が来て嬉しい限りっスよ。ラズルシェーニェ、コイツがどれほどのパワーを発揮するのか、今から楽しみで仕方がない!」


 珍しく、ソンダビットが声を上げて興奮している。彼は普段無口で、表情を変えることすら少ないのだ。たまに声を荒げたりもするが、こういう側面を見せるのは非常に珍しい。それほど、ラズルシェーニェの威力を見るのが楽しみなのだろうな。


 俺もそういうときは多い。自分で新しく作った武器などは、その日のうちに試す。昔はジダオと共に魔法の研究をし、その都度模擬戦を行ったものだ。

 懐かしいな。まだ数か月しか経っていないのに、思い出すとジダオの顔が見たくなる。


「その剣の威力は俺も保証するよ。イズナーとともに様々な試験を行ったが、その全てにおいて合格基準を大幅に上回った。切断魔法に関しては、恐らく世界最強と言える。というか、自然力を武器に転用できたのは、たぶんうちくらいだろうな」


 ジダオはあまり魔法が得意ではない。自然力の研究というのは、精密な魔法制御能力が要求されるのだ。いくらアメリカの技術が進んでいても、それは魔力を基準とした話。自然力が絡んでくると、俺の協力なしに研究は難しいだろうな。


「私も、新しい銃を試すのが楽しみですよ。それに、やっぱり慣れ親しんだこの場所で、自然力を用いた身体強化を使ってみたい。訓練では何度も使ってきましたが、より実践に近い状態で使いたいと、ずっと思っていたんですよ」


 そう、イズナーたちは既に、自然力を用いた身体強化まで完成させてしまっていた。俺もこれに関してはかなりの協力をしたが、それでもやはり、彼らの技術力の高さというものを窺わせる成果だ。


 武器によって発動される通常の魔法に対し、身体強化は術者が細かく制御する必要がある。それができなければ、術者の身を破壊するだけなのだ。

 ゆえに、魔力よりも遥かに出力の高い自然力を身体強化に転用するのは、もっとずっと先の話だとばかり思っていた。慎重に研究する必要があるからだ。


 しかし蓋を開けてみれば、イズナーたちはあっさりとこれを完成させてしまっていた。

 確かに、自然力は柔軟性が高い。魔力よりもずっと、感覚的に扱うことが可能なのだ。これは、融合力と自然力の関係からも分かる。


 そして彼らはそれを知っていた。アフリカの戦士たちのことを、よく研究していたのだ。

 だから、彼らは敢えて大胆に研究を推し進めた。もちろん安全管理を怠っていたわけではないが、俺の予想よりも遥かに早く研究は完成していたのだ。


 どうやら、俺がロシアに来る以前から、自然力を想定した兵器の試作を幾度も行ってきたらしい。自然力の出力を落とさないまま、人間の脳と現行の装置で制御できるように、彼らはその身を研究へと捧げてきた。


「その集大成が、この二人か。数多くの研究者の夢を叶えるのは、それを扱う魔導士だ。国のため、魔導士のため、そして今後の未来のために、彼らはここまで戦ってきた。ならば次に身体を張るのは、それを手にした俺たちである。さあ、敵のお出ましだぞ!」


 見上げるほど巨大な樹木。その脇から、ひょっこりと髭だらけの巨人が顔を出した。

 頭髪も髭も真っ白で、ありえないほど長い。上半身は裸だが、その身の前面はほぼ全て、頭部から生える毛で覆われていた。この森を代表する精霊にして巨人、レーシーである。


 彼が出てきたということは、もう俺たちには、アレを倒す以外に道はない。

 レーシーは旅人の方向感覚を狂わせる魔法を使う。こと誘導の魔法に関しては、俺ですら一時惑わされるほどの威力を発揮するのだ。


「分かっているな? 今回も基本的にはお前たちに任せる。危なくなった時だけ、俺は手助けに入るぞ。あの程度の敵なら、簡単に屠れるだろう」


 レーシーは今までも二人が相手してきた。強さで言えば、中国の野原で出会ったあの妖怪よりも劣る。攻撃力もさした脅威ではないし、誘導の魔法以外、特段注意すべき攻撃もない。ならば、俺の手出しは無用だ。


 二人もそれを分かっている。俺の言葉に頷くと、それぞれの有利なポジションを取りに動き出していた。


 ソンダビットはまっすぐ走ってレーシーの目の前まで出ていく。

 彼の得意分野は奇襲ではなく直接戦闘。あの樹木のように大きな巨人に対して、彼は真正面から戦おうというのだ。


 対してドラコイェストは、身体強化を利用して素早く木の上まで跳び、対物ライフルを構えている。

 彼女の得意とするのは、高所かつ見つかりづらい場所からの銃撃。自分の身の安全を守りつつ、効率良く敵を屠るのだ。


 しかし、どうやらまだ撃つつもりはないらしい。

 恐らくだが、あのレーシー以外に潜伏している者がいないか警戒しているのだろう。レーシーは森の精霊だ。ひとたび位置がバレれば、他の仲間に総攻撃を喰らう。


 言葉を返せば、それだけソンダビットのことを信頼しているのだろう。あのレーシー一体程度には、絶対に負けるはずはないと。だからこそ、まだ撃たない。


「オオオオオォォォォオオオオオオッッッ!!!!!」


 突如、ドラコイェストの動きを観察していた俺の耳に、およそ生物のものとは思えない音の振動が入り込む。

 何かと驚きそちらを見ると、まさか、ソンダビットの勇ましい雄叫びであった。


 全身を使って雄叫びを上げるソンダビット。それを受け、当然レーシーは彼に気付く。どころか、後ろの潜伏していたレーシーすら、彼の雄叫びに釣られてその姿を現した。


 ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ!


 瞬間、連続で火砲が轟く。当然、木の上で機会を窺っていた、ドラコイェストの対物ライフルである。いったいどんな魔改造を施したのか、七発連続で弾を撃ちだし、そのどれもが確実にレーシーの脳天を貫いた。


 そしてやっと、木の下にいるソンダビットが動き出す。

 即座に剣を構え、混乱するレーシーに向かって一直線。大上段から一撃お見舞いした。

 彼の長身から放たれる斬撃は、いくら巨人と言えど防ぎ切れず、袈裟切りにされ上半身と下半身がサヨウナラしてしまった。


 いったい何体潜伏していたのか、続いて二体三体と巨人が現れるが、そのどれもがソンダビットの大剣の前に沈んでいく。ソンダビットただ一人に、森の精霊が成すすべなく蹂躙されていくのだ。


 ただ振り回しているように見えるが、その実彼は、あれで他の誰にもマネできない技術を持っていた。そうでなければ、あれほど長い得物を素早く振りぬけるはずがない。少なくとも、俺には上段から振り下ろすのが限界だった。


「さて、そろそろこっちも試すっスかね。身体強化、火山の種ッ!」


 溢れだす炎の濁流。その全ては、ソンダビットの肉体から漏れ出た自然力によるものだった。


 しかしそんなものはお構いなしに、森の巨人はソンダビットへ掴みかかる。体格差で劣るソンダビットは、寝技をかけられてしまえばおしまいだ。


 彼もそれを熟知しているのか、掴まれる前に倒しきろうと構えを取る。

 だが意外なことに、彼は敵の攻撃に対し、剣ではなく拳で返答した。


 打ち付けられる拳。本来なら、体重差がありすぎて、レーシー相手には絶対通用しない。

 しかし彼の拳は、巨人の平手を容易く砕き、その先の腕までも破壊して見せた。そして肩から先は、轟々と燃え盛る炎に焼失させられた。


 気付くと、周りには一体のレーシーもいない。力を失い、樹木ほどもあった巨体が木の葉ほどに小さくなった死体が、ただその場に転がっているだけだ。


「いや~、本当にすごい威力っスねラズルシェーニェは! それに、この炎魔法も。今まで扱ったことのない魔法って、最高に気持ちいっス!」


「そうね。身体強化の調子も以前より良くなっているし、希望通り、私の銃にも自動魔法が搭載されていて、とても戦いやすかったわ。普段キモイおっさんだけど、仕事は出来るのよね、あの人」


 これが、世界最高峰魔導士の実力。これこそが、今後の世界を守っていく戦士たちの力。最高に興奮する。俺も、うかうかしてはいられなくなってきたな。

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