第八話
具体的な地名とか出すつもりだったんですが都合が悪くなったので小説らしく存在しない都市を作ることにしました
燃え尽きたバッタどもを尻目に、俺たちは再び歩き出す。
今回のことで人類に対する脅威は想像以上だったことが分かった。急いで誰かに話を聞かなければならない。できれば警察とか軍とかの戦闘ができる組織に話を聞けるといい。
今の状況やバッタの進行具合を把握している組織を探さなくては。
そいつらに俺たちが奴らと戦えることを示すため、人型の首を持っていくのも忘れない。
「今回は急ぎだ。ジダオの背に乗って進もう。ちんたらしているわけにはいかなくなった」
「わかった。お前を乗せても俺は十分に走れる。遠慮なく乗ってくれ」
ジダオの背は、灼熱のアフリカ大陸であれだけの動きをしていたとは思えないほど毛量が多い。モフモフだ。大変よい触り心地。掴む場所も多く、騎乗に適している。
「スピードを出すぞ。しっかり掴まってろ!」
ジダオは一瞬で速度を引き上げ、風よりも速く走り出す。巻き上げる砂埃はバッタの大群の比ではない。
この速度では地面が砕け、走ろうとすれば砂を蹴って空を走るだけのはずだが、ジダオは器用に大地を踏みしめ、さらに速度を引き上げる。
「こいつぁすげえな! 人里まですぐだぜ!」
ジダオの背に乗りしばらく進んでいると、建物が見えてきた。二階建てだが背の低い建物だ。付近には大きい畑も見える。
「見えたぞジダオ! 建物だ! 多分あそこに人がいる! 速度を落としてくれ!」
「了解!」
スピードは落としたものの、車並みの速度の走りはすぐにその建物までたどり着いた。
「ご苦労さん。ここからは俺の出番だ。おーい! 誰かいないか!」
人を呼ぶために俺は声を張り上げる。ここの農地には作物があった。なら、それを管理している人もいるはずだ。
「どなたですか?」
俺が声を上げてすぐに一人の男がやってきた。歳は30過ぎくらいか。手には鍬を持っている。草刈りでもしていたのだろう。
俺の声に反応して出てきた男はジダオを見て腰を抜かした。
「お、狼!? なんでこんなところに!?」
「こいつは大丈夫だ、農家さん。俺たちはバッタどもを指揮している大将を殺すために来た。できれば警察か軍に連絡してくれると助かる」
ジダオに腰を抜かしていた男は、俺が声をかけると少し落ち着いた様子だった。
「ま、魔王を倒すために降臨された化生様でしたか! ぜひとも! 私どももあのバッタには痛手を負わされておりまして。見てくださいこの畑、作物がまだ若いでしょう。種まきの時期ではないのですが、植えなおしを行わないことには収入がないものでして」
すでにここもバッタたちが来た後だったか。
普通、時期を過ぎたら植えなおしなんて行わない。土は疲れているし、成長にもよくない。うまく育つとも思えない。だが今は、そんなことも言ってられない状況なのだろう。
「今はバッタを捕まえて売ってどうにか生活しているんです」
「バッタを売る?」
「ええ、アメリカのとある企業が、バッタを粉末にして動物の飼料にするからと、バッタに懸賞をかけたんですよ。畜産農家の知り合いもそれを真似てバッタを集めているんです。まぁ最近はあまり売れていないようですが。何も聞いていませんが、買い手の国に何かあったようです」
なるほど、バッタを動物の飼料に。増えすぎた害虫も使いようってことか。
しかし、買い手の国に何があったのか少し気になるな。
「おっと、話が長くなってしまいましたね。すぐに警察に連絡します。警察から軍にも連絡がいくと思います」
「助かる」
「警官が来るまでうちで待っていてください」
その後すぐに警察の車が来た。どうやらこの農地はそこまで田舎ではなかったらしい。
「化生様が来られたとの報告があり、参りました」
「地の化身チャンクーと天の化身ジダオだ。北の方で人型の変異種を殺した。これがそいつの首だ」
やってきた警官にでかいバッタの頭を渡す。
やっぱ無理やり巨大化して人みたいな形をとらせていただけだってすぐにわかる。この程度の脳じゃ、人間の言語を処理しきれないわけだ。
「おお! バッタの分隊を指揮する分隊長ですね。規模はどの程度でしたか?」
「大体5万程度だな。指揮官は俺が殺した。群れはチャンクーが焼き尽くしたから問題ない」
ジダオが答えた。俺は具体的な数を把握していなかったが、ジダオはそれを知っていたようだ。
「狼型なのに言語能力があるんですね! お二方はどうやら相当高位の化生様のようです!」
「どういうことだ?」
「今までの化生様はほとんどが人型で、記録にある動物型は産業革命以前の騎馬が最後です。それも騎乗者がおり、馬の方は知能はそこまで高くなかったそうです。それに、地や天といった、自然現象を扱えた化生はほとんどいません」
俺たちは既存の化生とはだいぶ違うのか。
「化生や魔王の明確な違いはなんだ?」
「人に害をなすものが魔王で、人を救うものが化生です。10年前ほどに降臨された医学の化生様によれば、どちらも神に創造されたものであり、本質的には全く同じものだそうです。昔は化生様は救世主と呼ばれていたのですが、何かのきっかけにより、人に害なすものになる場合も過去にあったそうなので、今では神が作ったもの、または神の化身という意味で化生と呼ばれています」
「なるほどよくわかった。話してくれてありがとう」
多分だが、俺たちを創ったのは魔王とかを創っていた側の奴だろう。知能の高い動物型のジダオ。自然の力を扱えることもそう。10年前に現れたってのが医学の神なら、今まで人類を助けてきたのは人類からそう遠くない存在のはずだ。
「ですが、5万単位の群れですか。バッタたちが群れをそこまで分割しているとは。しかも指揮官をつけていた」
「指揮官は俺たちの偵察に来たと言っていた。恐らく敵の大将には俺たちが来たことを感づかれている」
「なるほど、偵察ですか。奴らにそんな知能があったとは。続きは軍の人も交えて署で話しましょう。お二方には変異種の相手をしてもらうことになると思います」
俺たちは警官の車に乗り込んだ。ジダオは後ろだ。あいつはデカすぎる。
これから、この状況を覆して見せる!
―――???―――
「偵察に送った指揮官が始末されたようだな」
崩壊した町の中で四本の腕を持つ男が不気味に笑う。
「そのようですね。ですが、あの程度では損害にもなりません。我らは順調に街を破壊し、人類への被害を拡大させています。周辺の水場はすべて占拠いたしました」
「そうだよな。アフリカは攻めやすくて助かる。俺たちが攻撃するまでもなく、内政が混乱状態の国も多い。この場所ならあいつも最大限力を発揮できる」
宙を舞う歪な怪鳥に目を向ける。縦横無尽に飛び回り、生き残った人間を食い荒らしていた。
「なかなか、エグイことしますね、あの方。まあ我々も人間を食すこともありますし、人間からしたら鳥に食われるよりも虫に食われる方が嫌でしょうが」
「あいつも昔より生き生きしている。楽しそうだ。にしても今回の化生君はどんな奴かな。強い奴だといいな。殺虫剤を生成するとか地味な奴じゃないと良い」
地味で弱い奴は嫌いだ。前みたいな雑魚を相手させられて消えるのは最悪だ。
「蟲の皇たるこの俺が最高に楽しめる相手を用意していてくれてると良いんだがなぁ」
実は今回ラスボスの伏線として入れておいた要素に大きなヒントを出すポカをしてしまったのですが、直すのもアレなのでそのままにしています