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※パラレル地球の救い方※  作者: Negimono
第二章 中国・ロシア編
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第百一話

 場所は変わって、ここは中国の平原。俺たちはあの後予定通りロシアに戻され、今度は被害が拡大中だという中国まで来ていた。

 現在、ロシアと中国は魔王の眷属を退ける条例を結んでいる。そのため、俺たちもこの地で戦うことを命じられたわけだ。


 しかし、ソンダビットやドラコイェストが得意な環境とも言えない。平原などはむしろ、重量もあり耐久性と安全性に優れた、戦車を始めとする戦闘車両の出番だろう。

 それでも俺たちを出向かせたのは、きっと俺の実力を見ておきたかったんだな。ソンダビットやドラコイェストのことなど、ただの付き人程度にしか思っていない。


 ロシアも中国も、それぞれ国のため、そして友好関係を結ぶ者のために戦ってはいたが、どうにも行動が遅く感じた。


 俺のような者は、どれだけ酷使されても関係ない。人間の裁量で動く程度の範囲であれば、苦にならないのだ。それが化生と人間の違いであり、奴らが理解できていない部分でもある。もっと大胆に俺を使ってくれて構わないと、いつも言っているのだが。


 ロシア人のメンツだけでなく、フランス人であるリテアもこっちに来ている。それもあって、彼らは俺のことを上手く動かせないのだろう。フランス人の代表がいるということは、ヨーロッパ側の目も考えなければいけないということだ。リテアは、本当はそんな重要人物じゃないが。


「チャンクーさん何ボーッとしてんスか。もうすぐ妖怪と鉢合わせるポイントっスよ」


 俺が考え事をしていると、ジープを運転しているソンダビットが声を掛けてきた。ドラコイェストはこの場にはいない。彼女はもっと後方、対物ライフルの適正距離に構えている。


 にしても、敵地のど真ん中にたった二人とは。指揮官は何を考えているだろう。バカなのかな。少なくともタンザニアの指揮官ジェリアスであれば、こんなことはしなかった。

 よほど俺の力を信頼しているのか、はたまた別の理由か。何にせよ、上層部の頭のネジが外れているのは確かだった。


「お~、どんな敵がいるのかは分かってないってのが、またゴミだよな。ホント、クソみたいな仕事しやがって。帰ったらまたしこたま説教してやる。連中、せめてこの作戦にどういう意図があるのかくらい事前に教えろっての」


「ハハハ、そんなこと言えるのは、世界の重要人物であるチャンクーさんだけっスよ。俺やドラコが指揮官に質問なんかしたら、場合によっては命令違反と言われて重たい処分もあり得るっスから」


 意味が分からん。ソンダビットだって、世界に必要な戦力だ。代わりの人間なんて、そう簡単に見つかるものではない。

 それが、上官に質問することすら躊躇うほどに立場が低いなんて。いったいこの国はどうなっているんだ。


「まぁ良い。今は敵に集中しよう。前方1時の方角、妖怪の群れ。数は……ざっと16体ってところか。問題ない、このまま突っ込め。ドラコイェストは俺たちが群れと接触してから発砲開始だ」


『承知しました』


 通信機越しに、ドラコイェストからの了承が届く。

 彼女に先に発砲させないのは、当然ながら無意味なことではない。群れを相手にする上で一番面倒な、拡散して逃げられるのを防ぐためだ。


 今、ドラコイェストは俺たちの後方にいる。そこから銃弾が飛んでくれば、仲間が吹き飛ばされた方角から逆算して、視線の上には俺たちの車両が目に入るだろう。そうなってしまえば、彼らに戦う意味はない。


 妖怪とは魔王の眷属であっても、生物の領域を脱していないものだ。奇襲に失敗したり、有利な状況を崩されたりすれば、簡単に逃げていく。彼らが真正面から戦ってくれることは少ないのだ。


 だからこそ、まずは俺とソンダビットが突撃するのだ。隆盛シリーズを使えば、彼らが逃げ出すのをある程度防げる。ドラコイェストには少し高所に上がってもらって、逃げようとするものを撃ちぬいてもらおう。中心部に居座る者は、俺とソンダビットが殺す。


 ソンダビットは強気にアクセルを踏み込み、妖怪の群れに飛び込んでいった。この何もない平原、流石の彼らもこれに気付き、一方向へ塊になって逃げていく。

 しかしジープの方が速い。魔法が強力な妖怪という種族だが、身体能力自体はさほど脅威でもないのだ。


 数体の妖怪を跳ね飛ばし、俺たちは群れの内部まで侵入した。


「隆盛・金ッ!」


 車両の中から魔法を使ったが、俺の魔法制御はこの数か月でさらに向上していた。車両を傷つけることなく、地面から鉄の山を生成することも容易いほどに。


 隆盛・金を受けて、早速逃げ出そうとした何体かが爆雷と針山に巻き込まれ絶命している。中には強行突破していく者もいたが、あれはドラコイェストに任せれば問題ない。


「俺たちの相手は、コイツか」


 目の前には10体の妖怪。中でも、別格の魔力を持つ者が1体。他のは全部雑魚だ。それこそ、顔が完全にバッタと同じだった人型種と同じ程度。大した知能も無ければ、魔力だって格下だ。


「フフフ、貴方が噂の化生様、チャンクーですね。私は……」


「ああ、今そういうの良いから。自己紹介とか省いてさ、さっさとかかってこいよ。ソンダビット、雑魚連中は任せるぞ」


 大きな薙刀、偃月刀のようなものを持った人型の妖怪が対話を試みてきたが、正直どうでも良い。この程度の格下に名乗る名は持ち合わせていないんだ。

 獣の姿をした妖怪は全てソンダビットに任せ、俺はコイツだけを相手する。


 俺の冷たい態度に怒りを覚えたのか、人型の妖怪は鼻息を荒くし襲い掛かってくる。

 妖怪のわりには、意外にも身体能力が高い。投擲系統を妨害する魔法も展開していた。


 これが妖怪の強味、多彩な魔法を操る。悪魔の類もあらゆる魔法を持っているが、彼らのそれは人間の思考を妨げ、悪い方向に導くもの。

 対して妖怪の場合は、実際に戦闘で扱う魔法が多い。防御系のものから、攻撃に扱えるものまで様々だ。


 伝承を読み解く限り、悪魔と妖怪の魔法に大きな差があるのは理解できないが、現実にこうなっているのだから仕方がない。伝説や神話の類から敵の特徴を見定めるのは難しいというわけだ。バジリスクは伝承の通りだったが。


 しかしなるほど、車両を持ってこなかったのはコイツがいるためか。鋭い斬撃は、喰らえば鉄の装甲をも粉砕できるものだった。それに投擲妨害は戦車の主砲をある程度退ける。流石に無力化は出来ないが、ロシアから戦車を持ち出すより、戦車を遥かに凌ぐ俺を用いた方が簡単だと考えたのだろう。


 奴の攻撃は確かに鋭く、重く、そして力強い。だがそれは、俺がアフリカで苦戦を強いられた蝗魔王ワンの足元にも及ばないものだった。

 彼と比較すれば、まさに児戯にも等しい動き。この程度、俺が対応出来ないはずがなかった。


 突き出した偃月刀を彼は横に薙ぐ。しかしそれは、彼の視線を見れば簡単に分かった。恐らく、最近骨のある敵を相手してこなかったのだろう。これから頭を狙いますと、その目に書いてある。悪い癖だ。


 俺は彼の攻撃を少しだけしゃがんで回避し、見送った瞬間に伸びきった腕を押さえつける。瞬間、俺は上に伸びあがった。これだけで彼は、もう何も出来なくなったのだ。


 頭突きは当然ながら腕に阻まれ届かず、捕まれていない方の腕で攻撃しようにも、膝を曲げることが出来ないのだから充分な威力を発揮しない。

 であれば足蹴りを放とうとも思うだろう。だがそんなものは、俺が少し前のめりに倒れるだけで完封できる。むしろ奴の背中を地面に付け、より悪い状況に陥らせることも容易いのだ。


「やはりこの程度か。アフリカの戦士たちに比べれば、本当に幼稚なものだ。そもそもお前は、この偃月刀の適正な距離というものを把握していない」


 偃月刀のような長物は、もっと遠くから扱うのだ。剣士や闘士をリーチの差で圧倒し、敵を全く寄せ付けないのがその戦い方である。

 俺が素手で接近できている時点で、コイツは三流もいいところ。ド素人同然なのだ。


「お前など、アララーの力を使うまでもない。死ね、爆炎!」


 掴んだ腕に炎を放ち、奴の身を焦がす。その熱量は偃月刀をも溶かしきり、ついには彼を絶命へと至らしめた。


 しかしアララーか。アイツは今何をしているのだろう。白と黒の剣は問題なく使える。だが、彼が対話してくれることはなくなってしまった。蝗魔王を殺したその日から、彼は全くこちらに現れないのだ。


 少し、心配である。もともと死んでいる奴ではあるが、彼と共に戦った思い出が、俺にはある。話したいことだって、沢山あるのだ。


「チャンクーさん、こっちは終わりました!」


『こちらも、逃げ出した妖怪は全て撃破。目に付く範囲に他の妖怪はいません。作戦成功です』


 振り返ると、ソンダビットが巨大な両刃剣で獣の妖怪を叩ききっていた。隆盛・金を解除すると、周囲には妖怪の死骸が転がっている。


「帰るか……」


 妖怪の死骸を燃やし、俺達は帰路につくのだった。

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