第九十六話
テスト期間だってのにちゃんと執筆してるw
でもパラちきしかやってないわ。早く伊勢ロブの方も進めたい。
大木をナイフでなぎ倒すと、上からドラコイェストが落ちてくる。あまりの衝撃にロクな受け身もとれなかったらしい。特に怪我はしていないが、美しい顔でアホ面を晒している。
だが、この程度のことはソンダビットでも可能なはずだ。きっと彼女が衝撃を受けているのは、木をなぎ倒したことではなく、乱魔魔法の中でも俺が十二分に動けたことだろう。
どうやら問題なく彼らに魔王級の理不尽さを見せつけられたようだ。
そしてイズナーの言葉により模擬戦闘が終了する。少し遅れているが、俺の戦闘風景から何か魔法技術を奪おうとしたのだろう。大量のメモ紙が見えた。
「ほら立て、帰るぞ。ちょっと休憩しよう」
俺は呆けたままその場に座り込んでいるドラコイェストに手を差し出す。ソンダビットは気絶してるから、仕方ないが俺が担いでいこう。
「すいませんチャンクーさん。自分たちのあまりの弱さに戸惑いが隠せませんでした。人の命を預かるものがこれではダメですよね」
ドラコイェストが俺の手を掴みつつ、そう漏らした。
ちょっとやり過ぎたか? だがこれは必要なことだ。魔王級の強さを知らなければ、これから先戦い続けることはできない。
「そう悲観することはないさ、お前たちには才能がある。言っただろ、訓練次第では魔王にも対抗できるようになると。俺がお前たちを鍛え上げてやる。今日の経験は必ず実力に昇華させられるはずだ」
彼女の軽い身体を起こし励ます。
彼女たちの実力は現時点でもかなりのものだ。人類の中では最上位に位置するだろう。故に衝撃も大きい。
しかしそもそも、人類と化生では種族的に差がありすぎる。
俺は人間のような姿かたちをしているが、その実人間とは遠くかけ離れた存在。力に差があるのは当然なのだ。
それを埋めるのが、訓練と高い技術力である。正直、今回の場合はそのどちらも俺を相手するのには不足していた。
だから彼らが俺に勝てなかったのは、ある種自然的なこと。何も悲観になることはない。
「それとドラコイェスト、お前はちょっと英語が下手だな。こういう時は、SorryじゃなくてThank Youって言うんだ。その方が気持ちが楽だろ?」
謝罪と感謝は異なる言葉のようで、相手に伝える気持ちはほぼ同じだ。ならポジティブな言葉の方がいい。言う方も、言われる方も気分がいいからな。
「……えぇ、そうですね。では改めて、ありがとうございました、チャンクーさん」
そう言ってドラコイェストは薄く微笑んだ。
やはり彼女は微笑んでいる表情が良く似合う。戦闘中の真剣な表情も美しかったが、俺はこちらの方が好きだ。
ソンダビットもこのくらい可愛げがあればいいが、コイツは中々表情が固まっている。長身のイケメンなんだから、笑顔が映えそうなものだが。
そんなソンダビットを肩で担ぎ、イズナーの車両に向かって歩き出す。彼が目を覚ましたら休憩がてら少し話がしたい。やはり人間というのは、コミュニケーションで成長する生き物だからな。
場所は変わって、イギリス軍駐屯地の一室。国連軍が借りている小部屋。
ソンダビットをベットに寝かせ、少し様子を見ている。ドラコイェストは対物ライフルの整備を始め、イズナーに至っては取ったメモの確認に集中。リテアはお茶を淹れに行くとか言ってどこかに行ってしまった。
正直気まずい。ムードメイカーのリテアがいないと喋り出しが見つからないんだ。二人は自分の作業に集中してるし。取り敢えず今は、窓から外を眺めて黄昏るフリをしつつ、今の状況について考えてみる。
イギリスもアフリカほどではないが、少なからず悪魔の被害を受けていた。というか、今は世界的に魔王の眷属たちが溢れている時代。被害を受けていない国の方が少ないという。
故にイギリスも駐屯地の部屋や軍事施設は余っており、逆に重要な兵器の類は不足しているのだ。そこに俺たち国連軍が配属され、より広い範囲で世界中の異変に対応しようというわけである。
もちろん国連軍も駐屯地を各地に持っているが、こちらの方が費用が少なくて済むらしい。国側からしてみれば迷惑な話だが、国連の会議でこれを決定したのもこの国である。嫌とは言わせん。
本来魔王の眷属は魔王が撃破されてから数年の間生存する。だが十年以上はこの世界に留まれないのが常。しかし稀に、その残滓が魔力を蓄え復活することがあるらしい。
そう頻発する現象ではないはずだが、現在何故かそれが大量発生しているのだ。
特に強力なのが、俺が倒したバジリスク、ジダオが倒した翼竜。今も大西洋に居座っている海龍、アメリカで政治を乱しまくっている悪魔に、中国で巨大な群を率いている大妖怪。
とにかく強力な眷属が続々と復活を果たしている。これは明らかに異常事態だ。今すぐにでも軍の強化が必要である。だからこそ、現時点でも人類最高峰の実力を持つ彼らを、俺が再教育しなければならない。
本来であれば俺は大西洋にいる海龍を相手しなければいけないが、あくまでも軍は兵器の開発と軍人の強化を終えてから作戦に移すつもりらしい。
バジリスク程度の強さなら俺一人でも充分相手できると伝えたんだが。せめて中国の大妖怪を相手させてほしいものだが、彼らは俺の力を恐れている。軽々しく任務を与えてはくれない。
ここまでの状況、俺はまた新しい魔王が出現すると見ている。もしくは既に現れているか。
通常なら魔王が現れ、それを化生が討伐。のちに新しい技術を人類に授けて終了というのが流れだが、今回はこれまでと状況が違い過ぎる。
だから早いうちに敵の戦力を減らしておくべきだといつも言っているのに。
そんなことを考えていると、小部屋の扉がガチャリと開く。
「みなさ~ん、お茶を淹れてきましたよ! あとお菓子ももらってきちゃいました。えへへ、難しい話には糖分が必要ですからね」
入ってきたのは当然、お茶を淹れに行っていたリテアだ。
彼女の声が部屋に響くと、途端にこの空間の雰囲気が明るくなる。
対物ライフルをいじくりまわしていたドラコイェストは手を止め、とんでもない集中力で手を動かしていたイズナーも彼女の方をチラリと向いて笑顔を浮かべている。
なんだろう、彼女の言葉には場を明るくする魔法が込められているとでも言うのか。
リテアのポジティブで明るい雰囲気は、簡単に周りに伝わっていくのだ。
「あれ、もしかしてお仕事中でしたか? でもついさっきあんな激しい模擬戦をしたんですから、紅茶でも飲んで休んだ方が良いと思いますよ!」
「そうね、いただくわ。ちょっと暇潰しをしていただけだから」
「じゃああっしも。集中してたら大分時間が経ってたみたいですね。これは今必要な業務ではないですし」
そう言って二人はリテアが淹れてきた紅茶を手に取る。お茶菓子はクッキー。良い組み合わせである。
「ぷはぁ~、我ながら結構良い出来です! 皆さんもどうぞ」
いや、リテアが一番先に飲むのかよ。こういうの淹れてきた人はあんまり率先して飲まないもんだと思うが。
言われてイズナーとドラコイェストがカップを口に運ぶ。
俺は彼女の紅茶を何度か飲んでいるが、その味は彼女たちの表情を見れば良くわかる。
「あら、美味しい。これ、リテアさんが自分で淹れたんでしょう? とても良いお茶だわ」
「うんうん、そうですね。あっしはあんまり紅茶は飲まないですけど、これだったら仕事場でも淹れてもらいたいですよ」
リテアもドラコイェストも美人で紅茶を飲む姿が良く映えるが、イズナーは筋骨隆々低身長おじさん。紅茶を飲んでいるとマスコット感がすごいな。
その二人がリテアに称賛の声を掛けた。やはり彼女は紅茶を淹れるのが上手いらしい。たまにお茶菓子を自分で作ってくることもある。
「さあさあ、チャンクーさんも飲んでみてくださいよ」
リテアが俺に催促してきたときには、既に彼女はお茶菓子に手を出していた。ちょっとテンポが早くはないか。
と思いつつも、俺はカップに手を伸ばす。
「うん、美味しい紅茶だ。いつもありがとうな」
彼女は俺の言葉に「えへへ~」と照れた様子を見せつつ、めちゃめちゃクッキーを食べている。それをドラコイェストは微笑みながら眺めていて、イズナーはまたメモ紙に手を伸ばそうとして留まっている。
ちょっとした日常の一ページ。彼女の存在があるだけで場の空気は明るくなる。やはり彼女も魔術師なのだ。
ジダオ君全然出せなくてすまぬ。もうちょっと進んだらSIDEジダオもやるから。
え、もしかしてSIDEジダオいらない?