第九十五話
ひっさしぶり~。
すみませんでした。実は95話はもうできてたんですが、バイトが長引いて今帰ってきたんです。まあ予定時間に待ってる人なんていないと思うけど。一応パラちきは金曜の22時予定です。
俺の言葉に対する返答として、ソンダビットが突撃してくる。
彼は俺よりも遥かに身長が高く、肩幅も大きい。その迫力は相当なものだ。実力が伴っていれば、だが。
やはり何度見ても遅い。蝗魔王の眷属である、上位人型種よりも明らかに遅いのだ。水銀がぶ飲みで戦っていたジェリアスは彼らと渡り合えていたのに、ソンダビットにはそれが出来ないというのか。
この程度の攻撃では、防御型長期戦タイプの俺にすら命中させることは叶わない。
正直俺は魔王級の中でも特に速度が遅いが、その俺が難なく攻撃を避けられるようでは話にならないぞ。
相変わらず上段からの振り下ろし。彼の得意な戦い方なのだろう。
しかし上段からの攻撃というのは、往々にして隙が大きいものだ。これは、自分が相手よりも速く、パワーがある場合以外は危険である。
全く、俺の言葉の意味が分かっていないらしい。腰に下げた拳銃を使えと言っただろうに。お前が剣を振り下ろすよりも、弾丸が俺に到達する方が遥かに速い。
それとも、俺の言葉を理解した上で敢えて剣を使っているのか? ソンダビットはバカだが戦い慣れている。それこそ、ロシアで多くの人間から慕われるほどに。
ならば何か意図があるはずだ。
彼らは二人一組で戦ってきた一流の戦士。彼に狙いがあるというのなら、十中八九ドラコイェストとの合わせ技だろう。先程も、人間にしては鮮やかな連携を見せてくれた。
彼女は俺の言葉を理解しているだろう。大事そうに抱えていた対物ライフルを手放し、姿を消してしまった。
彼女では俺にダメージを与えられないと理解したのだ。きっと次は手を変えて仕掛けてくる。
ならソンダビットの単純な攻撃に付き合ってやるとするか。彼らの中で何か策があるというのなら確かめてやる。
俺はアララーの双剣を腰の鞘に納め、足と肩を横軸に合わせて迎え撃つ構えを取った。正面からの衝撃で簡単に後方へ押されてしまうが、地戴を用いた体重があればなんら問題はない。
「ではソンダビット、それからドラコイェスト。お前達に少し、魔王級の理不尽さというものを教えてやろう。よく見て、そして感じろ。絶望的な実力差と、それを超えなければいけないというお前に課せられた使命を。蕾炎」
指先に宿る青い炎。極小サイズではあるが、その熱量は酸素断絶結界を上回る。
この数か月で、俺もかなりレベルアップしていた。自然力の出力効率が上がり、以前よりも遥かに少ない力で高い熱量を生み出すことができるのだ。
俺の魔法が付与されていない金属程度なら瞬時に溶解させられる。
振り下ろされる大剣。それにそっと指を添わせるだけ。
特に踏ん張ることもなく、テクニカルなことは何もない。
俺は炎を纏った指を軽く大剣に当てただけだが、たったそれだけでも彼の大剣を破壊するには充分だった。
指を当てた場所から金属が溶けだし、大剣が半ばで折れてしまったのだ。
「なっ!?」
「分かったか、これが魔王級の理不尽さというものだ。お前がどれだけ強かろうと、こうなってしまっては意味がない。だから考えろ。こうなった時にどうすればいいのか。こうならないようにどうすればいいのか」
俺が言い放った瞬間、ソンダビットは行動に移した。どうやら俺の言葉を理解していなかったわけではないらしい。
腰から太ももに掛けてある拳銃ではなく、背中側に装備したショットガンを素早く抜き発射したのだ。
驚くほどの早業。伊達に一流の軍人を名乗っているわけではないようだ。
狙いも正確で、指先では防ぎにくい足元を的確に弾きに来た。
だが、それではまだ足りない。俺の防御力の前では、たとえ生身だとしても受け切れる。貫通や切断の魔法では俺の肉体を害することは出来ないのだ。
だがこれで終わりではないはず。俺の予想では……。
ズドドドドッ!!
ほらな、背中に重たい衝撃が連続した。間違いなくドラコイェストだろう。
しかし背中から連射武器を使うとは。もしソンダビットに命中していたらどうするつもりだったのか。
ショットガンを放ちリロードを挟んでいるソンダビットをガン無視し、素早く後方に振り返る。
正直ショットガンなんて脅威にもならないが、訓練次第では充分魔王級にも通用するはず。ソンダビットにはもう少しアレを使わせることにした。
そしてドラコイェストに目を向ける。相変わらず木の上で立ち位置有利を確保し、安全圏から攻撃を仕掛けてきていた。
俺の言葉通り、場所を特定された瞬間連射を中断して木の上を走り出す。
ソンダビットよりもさらに遅いが、樹上であることを考えれば人間とは思えない動きである。
にしてもあの銃は……まさかバトルライフルか!?
大口径の弾丸を撃ちだす、長距離から中距離において高い性能を誇る銃だ。銃身は対物ライフルよりも短く、樹上では取り回しやすいだろう。
しかし大口径を扱う性質上反動も凄まじく、基本的にはセミオートで扱う銃のはず。とてもではないが、樹上で動きながら連射で扱える代物ではない。
確かに対物ライフルで俺にダメージを与えられなかった以上、相応の性能を持つ別の武器を使う必要がある。
バトルライフルならその点はクリアだ。俺の助言通り、連射できる武器を選択している。
だが普通、木の上であんな物使おうと思うか? 心底驚いたな。
ったく、警戒すべきは彼女の方だったか。だが先程からずっと勘違いしていることがある。彼女はそれを理解しているのだろうか。いや、彼女ほどの腕を持つ者が分かっていないはずはないか。
まあ、分かっていても敢えて教えてやろう。
「ドラコイェスト。言っただろう、魔王級の理不尽さを見せると。少なくともその武器の本領を発揮できないようでは、魔王に対抗するのは不可能だ。事実、その武器でもまだ俺の身体を害するには工夫が足りていない」
ただ連射できるだけでは足りないのだ。そもそもバトルライフルは対物ライフルより遥かに威力が弱い。もっと工夫と思考の限りを尽くさなければ、魔王を撃破するなんて到底不可能なのだ。
樹上とはいってもバトルライフルの適正距離はもっと遠い。ソンダビットと連携を取るにしても、このエリアでなければ他にやりようがあったはず。
わざわざ彼らはこのエリアを選んだのだ。俺はロシアのレーシーとは違う。流石の彼らもそれを理解していないわけがない。
今もドラコイェストは樹上からバトルライフルを放っていた。彼らに何か狙いがあるというのなら、特に反撃もせずに迎え入れてやろう。
ソンダビットも先程から特に攻撃してきていないが、今は放置でいい。
「チャンクーさん、気付いてますか?」
不意にドラコイェストが話しかけてきた。反動の大きいバトルライフルを扱っているというのに余裕なもんだ。彼女も身体強化が得意なのだろう。
「どうしたー?」
「私たちも、貴方が活躍している間に日々進歩しているんですよ。特に貴方が作り出した設置型魔法は、現在全ての先進国が躍起になって開発中です。当然、私たちロシアも例外ではありません」
なるほど、設置型魔法か。国連軍に技術提供はしたが、人間が扱うには相当な研究が必要である。
だが確かにあれは強力な魔法だ。俺も多用している。しかしそれが何だというのか。
「何が言いたい?」
俺が問いかけると、彼女はその美しい顔で妖しく微笑んだ。
「余裕ぶってるのも今の内、ということです。今回は大変勉強になりました。感謝を」
直後、周囲に散らばった弾丸から魔法が発生する。それも、切断や圧力と言った単純な魔法ではなく、もっと意外で有効な魔法だった。
よく勉強している。これは技術班のイズナーを高く評価しなければいけないな。
乱魔魔法だ。俺がタンザニアで作り出した魔法だが、どこでこの技術を手に入れたのか。
俺が体内で使用している地戴にも作用するほど強力である。俺が身体強化で向上させた防御力を低下させるのが狙いか。
そして二手目はやはりアイツだ。
「自分からも感謝を伝えておくっス。勉強になりました。そして、これが自分なりの感謝の伝え方っスよ。受け取ってください!」
背後から木に隠れて接近していたソンダビット。彼の巨体から繰り出せれるは、刃渡り20cm程度のナイフだ。
暗殺でもするかのような手つき。
なるほどこれが狙いだったか。ドラコイェストが俺を引き付けつつ防御力を低下させ、ソンダビットがそのパワーでトドメを刺す。
良い連携である。戦闘において重要なフィジカルを敢えて外し、こちらの予想を裏切る戦い方。
本来ならば、身体の大きいソンダビットが俺と戦いつつ、ドラコイェストが暗殺を狙うのが定石であるはず。
しっかり考えて戦っているな。
「おめでとう、合格だ。そしてお前たちの感謝、しかと受け取った。これは御礼だ、遠慮せずに受け取ると良い」
ソンダビットのナイフは低下した防御力では危険だったため、先に予防させてもらう。
何、軽く拳で頭を小突くだけだ。ソンダビットは気絶してしまったが、なんというとはない。
そして素早くナイフを奪い取り、ドラコイェストが立っている大樹に刃を押し付ける。
人間の切断魔法は俺の自然力で増幅され、易々と切り倒してしまった。
「お前たちはこの俺が全力を尽くして戦えるようにしてやろう。そのうち、単独で魔王にも対抗できるようになる。お前たちにはそのくらいの才能があるぞ」