第九十四話
ガハ! テスト期間だってのに伊勢ロブもパラちきもちゃんと更新してんの草。
あ、そういえば、二章以降ジダオ君の出番が激減してるから、どっかでSIDEジダオぶち込みます。まあもうしばらく先だけどね。
場所はロシアの樹林を想定した広大なフィールド。巨大な針葉樹が立ち並んでいる。
彼らの生まれ故郷、ロシアにかなり近い。彼らの得意なフィールドだろう。よくもまあ、イギリスにこんな錬兵場があったものだ。今にもレーシーがひょこっとあそこの針葉樹の影から顔を出してきそうである。
「では、これより化生チャンクー殿と、国連軍ソンダビット、ドラコイェストの模擬戦をはじめやす。制限時間はナシ。あっしの判断で戦闘を止めやすが、よろしいですか」
イズナーが俺たちの顔を交互に確認し、了承を得る。
にしても既にドラコイェストの姿が見えないが、彼女はどこに行ったのだろうか。
確かに、そちらが有利なように場所を選んでもらって構わないと言ったが、狙撃手の彼女に戦闘が始まる前から姿を消されては、俺も出方が分からないな。
「それでは! 始めー!」
開始の合図があったが、俺とソンダビットは全く動かずに互いの出方を窺っている。
彼の持っているのは、身の丈ほどもあろうかあというほどの大剣。確かにあれならば、レーシーを真っ二つ出来るのも頷ける。
その大剣からは強力な魔力を感じた。直撃を受ければ、流石の俺も無傷では済まないだろう。
対して俺が手に持つのは、相変わらず白と黒の双剣。
蝗魔王を倒して以来アララーは全然反応を見せなくなったが、彼の力は未だ失われてはいない。ただ、この剣の魔法を解放すれば、万に一つも俺が負ける要素はなくなる。
定石通り黒の剣を右手に持ち前に、白の剣を左手に持ち心臓と顔を守るように引き締めている。肩も足も縦軸に構え、正面からの垂直の衝撃に備えていた。
「仕掛けてこないのか? まぁ良い、今はお前よりドラコイェストがどこに行ったかが重要だ。あのクソでか対物ライフルの威力が分からんからな。取り敢えず、地戴!」
最近マジで使用用途がなかった魔法、地戴。これは大地の性質をこの身に宿す魔法だ。
単純に防御力を向上させることもあるが、効率よく重量を増やせたり、電撃系の攻撃を完封出来たりと、意外と副次効果も大きい。蝗魔王戦では全く役に立たなかったが。
「……タングステンの全身鎧は使わないんスか? アンタほどの化生なら、そうコストの大きい魔法でもないはずでしょ」
「なんだ、使ってもいいのか? あれを使ったら、お前の剣撃は全くと言っていいほど通用しなくなるぞ。それに、対物ライフルでも貫けはしなくなる。それでは訓練にならんだろ。人間にはちょうどいいハンデだ」
対物ライフルとは、本来タングステンで作られた装甲車や戦車などを貫くための物。
しかし、俺の自然力で作られたタングステンは、人間の技術程度で貫けるものではない。例え貫通の魔法がこもっていようとも無駄である。
「自分ら、ロシアじゃ結構な実力者として有名なんスけどね。確かにアンタに比べりゃ弱いかもっスけど。本気で来なきゃ、痛い目見るっスよ!」
本気、本気ね。俺が火山の化生ってこと忘れてないか?
本気を出せと言われたら、まず酸素断絶結界を使う。人間程度ではそれだけでチリも残さず消滅してしまう。
それを知ってか知らずか、出方を窺っていたソンダビットは遂に動き出した。人間とは思えぬスピード。身体強化の魔法だろうな。
流石は先進国の技術。特に巨大な魔力タンクもなしに身体強化を動かせている。
しかし、何か違和感があるな。身体強化の魔法って、もっとバカみたいな出力を出せていなかったか?
少なくともジェリアスはもっと速く動けていた。
まさかとは思うが、先進国の最新技術って、安直な自然力入り水銀がぶ飲み戦法より弱いのか?
いや、それはないな。多分魔力タンクの軽量化のためだろ。知らんけど。
いかにも、敵を真っ二つにせんといった上段からの一振り。
身体強化もそうだが、大剣にも小さくない魔法が掛かっている。アレは、切断の魔法か。切れ味や威力に関係なく、対象を切断できる魔法だ。
大げさに言えば、得物が剣でなくとも対象を切断できる強力な魔法。あの魔法をかけておけば、鉄パイプだって人間を一刀両断できる。
「良い太刀筋だ。だが、それでは俺の肉体を傷つけるなんて不可能だぞ!」
俺は前方に構えた黒の剣でこれを受け止めた。
体格差はある。ソンダビットの方が俺より20cm以上も大きい。筋肉量も体重も負けている。
ただし、地戴を使っていなければだ。この体重と剛力があれば、ソンダビットの攻撃も容易く受け切れる。まるで小枝で叩かれたような気分だ。
俺は腰を捻り、黒の剣を滑らせつつ彼の大剣を後方へ流した。俺の身体も流れに逆らわず、素早く後ろ向きになって後方蹴りを喰らわせてやった。
人間の肉体は背中側の筋肉の方が四倍も多く強い。これを上手く活用できれば、より効率よくダメージを与えられる。
しかしソンダビットの対応も速く的確だ。
俺に流されたことで腕は伸びきっているが、体勢を崩してでも片足を上げてガードした。
正解だな。腹を貫かれては、人間は動けなくなる。
特に俺が狙った腰は人体の要。この威力なら腰の関節を外すことも可能だったが、もしそうなればソンダビットはもう戦えない。
その点太ももで受けてしまえば、激しい痛みは伴うし体勢も安定しなくなるが、これ以上戦えないということはない。
「手痛いな。けど、狙い通りっスよ!」
直後、俺の頭部めがけて弾丸が飛来する。
全く意識の外からの攻撃。正直彼らのことを舐め腐っていた俺は、この弾丸を甘んじて受け止めてしまった。
そう、受け止めてしまったのだ。
弾丸は俺の頭部に着弾するも、床にスーパーボールを投げるみたいに跳ね返って地面にコロリと転がった。
「んなっ!?」
「そこだな、岩石砲ッ!」
飛んできた方角からドラコイェストの潜んでいる場所を特定し、即座に岩石砲を撃ちだす。
目を向けると予想通り、木の太い枝の上から狙撃していたようだ。距離は対物ライフルの適正距離よりも遥かに近い。
ここは視界が悪く、遠くまで行けば射線が通らなくなる。だから距離的にはある程度近くにいなければいけないのだ。
彼女は鈍重な動きで対物ライフルを背負いなおし、木から降りようとしていた。
岩石砲は小枝をなぎ倒し、ドラコイェストの元まで一直線に飛んでいく。
だが途中で大木に遮られてしまった。
威力ミスったか。本当は木を貫いてちょっとビビらすつもりだったが。
人間相手に訓練というのも難しいものだ。殺してはいけないというのがキツ過ぎる。
「お前らなぁ、ちょっと考えが浅はかなじゃないか?」
こいつら、魔王との戦いを想定しているのだろうか。
本当にこれが魔王に通用すると思っているのだろうか。
「弱い、あまりにも弱い。蝗魔王が相手なら、ソンダビットは一手目で切断されていた。防御力が足りていないのだから、危険な攻撃をすべきではない」
ソンダビットの一手目はあまりに無防備だった。
蝗魔王の動きは驚くほど速く、剣を振りぬく前に刀で斬られて終わりだ。まず一手目は、当たらずとも腰に下げた拳銃を使うべきだった。
「ドラコイェストは弾を放った後の対応が遅い。そも、全方位を視認できる蝗魔王の前では、対物ライフルを素直に使っていても命中するはずがない。奴は銃弾を容易く避けてしまうからな」
蝗魔王に連射できない銃は絶対当たらない。彼の動きも凄まじく速いが、それ以前に彼は弾が発射される前に避けているのだ。生半可な隠れ方と、工夫のない撃ち方では当たるはずがないのである。
俺は常に蝗魔王を基準に考えているが、魃魔王も彼と似たような芸当ができた。だから他の魔王も、彼と似たような性能を持っている可能性が高い。
彼らはあまりに魔王の力を過小評価し過ぎている。妖怪や悪魔の類なら通用するだろうが、魔王が相手では正直戦力としては期待できない。
もし彼らとチームを組めというのなら、もっと訓練する必要がある。
ああ、アフリカの人型種何体か生かしておけばよかった。奴らは蝗魔王と似たような動きをするし、対魔王訓練では優秀な的だ。
あれに勝てない程度では話にならん。
やっぱジェリアスやクラグ、アッサムはすごかったんだな。
だが彼らは伸びしろがある。才能は凄まじいものだ。鍛えようによっては、充分戦力になるはず。
「さあ、ガンガンかかってこい! お前らの甘さ、弱点をすべて見せてみろ!」