第七話
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「先制攻撃を仕掛けるぞチャンクー! 爆発で眼をつぶせ!」
「了解だ! オラオラ! そのまま突っ込んで来いや!」
まずは全体の数を減らす。遠目で見ていたよりもはるかに群れの全長が長い。恐らく万単位の群れだろう。蝗害という現象を考えれば少ないほうだ。本当に、ただの偵察部隊なんだろう。
力を大きくとって切り離す。調整は効かないが瞬間的に大火力を出せる。爆炎と砂埃で前方の様子がほとんど見えなくなった。だが、ジダオの索敵能力があれば問題ないだろう。
「景気よくぶっ放していくぞオラァ! ジダオ! リーダー格は譲るって言ったがもう殺しちまったかもな!」
俺は次々と爆発を起こしていく。群れの大部分が崩壊し、ビビッて逃げようとした通常のバッタたちは爆風に乗って距離を稼ごうとするが、先に炎が追い付いて焼き尽くした。
「なかなかやるじゃないかあのキモ変異種」
「ああ、どうやったのかわからないが爆風を耐えきって接近してくるな」
ジダオの言った通り、似非人型バッタが爆発や砂埃などお構いなしに風のような速さで突っ込んでくる。
「あれは俺に任せて、お前はバッタどもを一匹も逃がさないように殺して回れ。あいつらは隙を見せればすぐに増える。統率のとれる大群は、すでに人類に甚大な被害を与えているだろう。特に食料は速攻で食いつくされる」
「わかった。お前も気をつけろよ。俺の爆炎を耐えきる方法を持ってる。できれば殺すついでにそれも聞きだしてくれ」
「わかってる。それが俺たちも使えるなら、戦力の増強が期待できるからな」
ジダオと別れて俺はバッタの群れの後ろに回り込むように動きつつ、周囲を囲むように見える範囲を爆炎で包んでいく。
ただのバッタ程度なら俺の爆炎で一網打尽だ。この調子で全滅させるか。
頑張ってくれよ、ジダオ!
さて、奴をどうやって殺すか。まずは足を止めるべきだな。
氷を生成して奴に放つ。やはり速度はかなりのものだ。俺の氷弾を躱した。殺すつもりのものでは無かったとはいえ、すごい身体能力だ。
……まあ、俺ほどじゃないがな。
急接近してきた奴の上段の四連撃を、大きく後退して躱す。足を止めるのは失敗か。
「なあ、さっきのどうやったんだ? たかがバッタの変異種が爆発を耐えきれるわけがない」
「グフフ、何モ知ラナインダナ。ダガ、ソンナモノ簡単ニ教エルト思ッタカ? 貴様ラハ殺ス。情報ハ与エナイ」
そうだろうと思った。なら拷問でもして聞き出すか? いや、昆虫に痛覚や苦痛などの感覚があるかはわからない。
それなら、生きたまま解剖でもするか。チャンクーの力に干渉していた経験を生かせば力の解析ができるかもしれない。
「まずはお前を再起不能にするとこからだな」
「犬畜生ガ、俺ニ勝テルト?」
「バタバタ五月蠅い害虫風情が、言ってくれる。力の差を見せつけてやろう」
近接戦闘を仕掛けてきた害虫に氷弾を連射する。害虫は器用に体を縦に横にと動かして氷弾を躱した。
距離を離してはくれないか。体を硬くするだけではなく、こいつ自身の戦闘センスもとんでもない。
害虫が四本の腕を今度は上段、中断、下段と分けて巧みに攻撃してくる。まあ、その上中下段というのも、人間の体格を想定した攻撃だ。
こいつの戦闘は人間と戦うことを中心に構成されている。
俺の氷弾をよけれたのは銃を想定してのことだろう。俺の氷弾はせいぜいリロードなしで速射できるハンドガン程度。そのレベルなら動体視力とある程度の技術があれば、弾道を予測して避けるくらい人間でもできる。
今の攻撃にしてもそう。上段からたたきつける右腕。下段から掬い上げる左腕。挟みこむ両腕。人間なら頭蓋、金的、心臓などの臓器が詰まった胴体を効率よく破壊することができ、かつ防がれにくい。
人間なら、な。
俺に向かって繰り出された攻撃は上段と中段が収束し下段の一撃も頭以外の急所をつくことができない。ここまで簡単になってしまえば躱して反撃するのも簡単だ。
だが、俺はあえて奴の胸中に飛び込む。奴の攻撃はすべて俺に直撃した。奴の胸の位置まで飛び上がったことで四方向の攻撃は奴の想定していた通りの位置に突き当たる。
しかしそれは俺の身体を貫くことができない。腹、胴体、背中。そのすべてが俺の皮膚に触れた時点で停止する。
「ナニ!? 今ノハ必殺ノ攻撃ダッタハズダ!」
「雑魚が、生まれの差だ。俺は火山から生まれ、天の力のほぼすべての種類を扱える。対してお前はバッタを操るだけの害虫ごときが神のまねごとをして作り出した雑魚眷属だ。それが、俺の肉体を害せるはずがない」
「ナンダト!? 貴様俺ドコロカ蝗魔王サマまで愚弄スルカ!!」
俺は害虫の胸にドリル状の氷を生成する
「さあて、お前の耐久テストだ。しっかり踏ん張ってくれよ!」
胸部にドリルを突き立て回転させる。まずは出力弱めで行こうか。ついでに奴の体内に力を流し込んでいく。
ふむ、チャンクーの時みたいに力に干渉することはできないか。
同時に奴は俺をつかんだまま羽ばたき体を宙に浮かせる。
「何するつもりか知らねえがお前はもう詰んでるぞ。諦めて俺の検証に付き合え」
「コノママ貴様ト共ニ落下シ共ニ死ヌ!!」
「それならもっと高いところに行こうぜ。この程度の高さじゃ俺は殺せないぞ」
「ナニ!?」
下から突風を吹かせ、俺たちの身体をさらに上昇させる。
「おお~高えな。チャンクーがバッタどもを殺しているのがよく見える。やっほー!」
「貴様! 俺ヲオチョクルノモイイ加減ニシロ! 今スグ殺シテヤル!!」
害虫は五月蠅く動かしていた羽を止め、地面に頭を向ける。そして再び羽を動かす。今度は上ではなく下に向かって。
「今てめえに死なれると困るんだよな。俺に体を硬くする方法を教えやがれ。ドリルの出力を上げるぞ雑魚!」
ドリルはさらに回転を速めるが、これでもこいつの身体を貫けない。こいつの身体は可燃性のはずだし、爆炎を防げた時点で鎧とかの通常の方法で体を強化しているわけではなさそうだ。
「もうちょい出力を上げるか」
ドリルの出力を上げる。今度は大気と擦れあい火を噴くほどの大出力だ。
チャンクーの鎧にも傷をつけられる出力は害虫の身体に穴を開け始める。
ほう、これは。なるほどな。傷をつけた場所から膨大なエネルギーがあふれだしてきた。同時に害虫の身体がもろくなった。
何かつかめたかもしれない。これ以上こいつから引き出すのは無理か。
「そんな落下スピードじゃ俺は殺せねえよ」
落下中の俺たちに向けて下向きに突風を吹かせる。
俺たちは雷のごときスピードで落下した。地面と激しく衝突するが、俺は無傷で着地した。
ふぅー成功か。流石にあの高さじゃ無傷とはいかなかったはずだ。
害虫は俺があけた穴から力を吹き出し体を硬くすることもできず、頭が破裂して死んだ。
「おーいチャンクー! こっちは終わったぞ!」
「俺も今終わったところだ! あいつから情報は引き出せたか!?」
害虫処理を終えたチャンクーと合流する。
「あの害虫から身体強化のすべを引き出した。あとで伝える。だが先に人里に向かおう。人類がやばい」
「何をそんなに急いでいるんだ。この程度の敵なら大したことないだろ」
「そうだ、こいつ程度は大したことがない。大したことがないから自殺覚悟で巻き込みを狙った。つまりこいつは死んでも群れにとって損にならない雑魚だ。万単位の群れを統率できる変異種が、ただの使い捨ての駒だ」
大群に物を食う以外の目的を与え、指揮できる者が使い捨ての駒。なら、大将はこんなやつよりも遥かに強大なはずだ。いくつかの国がすでに崩壊していてもおかしくはない。武力を手に入れた大群が人類を殺して回らない意味がない。
急がなくては。