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オバサン


 落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け! 俺!!

 大きく息を吸って~~~、吐いて~~~。吸って~~~吐いて~~~。

 よし! 今一度しっかり確かめよう!


 俺が持ってる神から渡された魂のサンプルと、今光っている魂をよ~~く見比べてみよう!

 さぁ、どうかなぁ~~~?

 

 色は? 光りは? 大きさは?


 …………なぁんど見比べても……。

 一緒!!! だよなぁ……。


 ではでは、竜王の気配はどうだろう?

 姿は隠しているから、俺が勝手にそう思い込んでいるだけかもしれない。

 うん!

 何百年と近くに居たんだから、竜王の気配はよぉくわかっている。

 俺がそれを間違えるはずがない。


 間違える…………はずがないよなぁぁぁぁぁぁ!!!!!


 竜王が、人の近くに居る理由はただ一つだろう……。

 あの”人”の器に入っている魂は……竜王が、自分のすべてだと言い切ったあの人霊だ。

 色も光りも、大きさも全然違うが、それこそ竜王があの人霊を間違えるはずがない。


 やっと探し当てられたのか……良かった……。

 と、言っていいのか!?


 大御神は、あの魂が入った”人”を守れと言ったんだぞ?

 と、言うことは何か?

 まさかまさか、竜王から守れって事かぁ―――――――!?

 無理! 天地がひっくり返っても、無理!!!

 何を考えておられるんだ、大御神は!

 たまたま近くを通りがかった竜に、頼む事じゃないだろう!


 なんて、一人漫才のごとく、一人突っ込みをしならがあれやこれやと悩んでいるうちに、竜王と、人が話し始めた。

 ……トイレで。


 トイレや風呂、洗面所と行った所は、自分の事だけを考えられる場所だ。

 他の場所だと、あれをしないと、これをしないとと用事を見つけてしまうが、こういう所では、自分と向き合っている事が多い。ので、霊的な物を感知する事も多くなる。

 そういう所にオバケが~~て言う話が多いのもその為だ。

 トイレの花子さんとか、洗面所の鏡に何かが映ってたとか。


 て! こんな説明より! 


 どうして!! 話しなんかできるんだ!?

 これの方が大問題だ!


 器のない霊の状態ならまだしも、人の器の中に入っているのに、何故話が出来てるんだ!?

 魂の周りに分厚い壁があるようなもので、霊的なものはちょっと感じる、程度にしかわからないはずだ。いくらトイレに入っていようとも!

 それなのに、ちゃんと会話が成立している!

 もっとも、”人”の方は、自分の勝手な妄想だと思い込んでいるようだが。


 そりゃそうだろう。

 

 物質文明が盛んになって、精神的なものはどんどん廃れて行っている時代だ。

 俺達竜も、人間が自分達で作りだした想像上の生き物になっている。

 勿論、今の世でも俺達と話せる者は居る。だが、神がそう言う人生を与え、それなりに修業を積んだ者達に限られている。


 あの人霊が入った器は……何処からどう見ても、そこら辺を歩いている何処にでも居るオバサン! だ。

 魂のサンプルからの情報によると、四十過ぎのバツイチ、二人の子持ち。

 少し前に実家を出て、子供たちと三人でマンション暮らしを始める。それまでは専業主婦。

 これじゃぁ、人界に影響を及ぼす事はなさそうだなぁ。今から頑張るのかもしれないが、誰かから恨みを買ってそうな雰囲気もないし、妖怪化け物、魑魅魍魎の気配もない。

 て事は、やっぱり、竜王から守れって!?

 あのオバサンから、竜王を遠ざけろってか!?

 やっと見つけた人霊から、あっさりと竜王が離れるか!?

 邪魔者は排除! されるのは俺の方な気がするぞ!

 

 ……パスしたら……竜界追放どころか、一気に消滅……だよな。

 大御神、直々の命だもんな。

 けど! 竜王と戦っても……同じ結果な気が……。

 あ~~~~~~運の悪さ、復活!!

 今度のは最低最悪だ!


 俺が運の悪さを嘆きに嘆いている間に、人霊の入ったオバサンはトイレを出て、ベランダへと向かい始めた。


 会話はまだ続いていて、

「あのですねぇ。えらく長い間私をお探しになられたそうですが、私に何か用でもおありだったんですか?」

と、オバサンが聞くと、

「もちろんじゃ」

と、竜王が嬉しそうに答える。

「へぇ、どんな用でしょう。私に出来る事でしたらしますから」

 さっさと用を済ませて、厄介ばらいをしたいのがありありで言う。


 竜界に居た時は、銀色竜さん、だ~~い好き! て言ってたのになぁ。


 そんな見え見えの態度にもめげることなく、竜王はこうのたまった。

「んむ。そうか。なれば、我の妻になってくれ」


 はい~~~~~~~~!!!!!??


 な、な、な、なんて仰せになられました!? 竜王様!!

 そ、そのオバサンを、つ、つ、妻に!!?


 いや、まぁ、器の見た目なのはわかっておりますがね!

 けど、でも! やっぱりオバサン!!!


「……一応、聞きますが、人間と竜って結婚できるものなんですかね」


 オバサンの方が冷静に聞いた。さすがはオバサン!


 出来ない事はない。

 もちろん、器に入ったままは無理。

 器が壊れて、魂が自由になった後なら、できる。

 ただし……。


「うむ! やっと大御神の許しを得た!」


 これが必要にな…………るんですけど!! 得たんですか!?

 得たわけですか!?

 大御神が許しを与えたんですか!?


 ああ、それなら、話しが出来るのも頷ける!

 何しろ、神が認めた奥さんだもの!

 じゃな~~~~~~~い!!!!!


 何考えてんだ!!!

 あの狸じじ……大御神は―――――――――――――――――!!!!!


 …………………………………。

 え――――――――――――――…………。


 少し……教えて欲しい事があるんですが…………。

 暑い中、日焼けを気にしながら歩いている、そこのあなた。

 お話しを読んでいるあなたでも結構です!


 俺は!!

 いったい! 何から! あのオバサンを守ればいいのでしょうか!!!


 生霊死霊、妖怪化け物、魑魅魍魎。

 果てはフラフラ浮いてる浮遊霊まで、竜王のでっかい気の気配に、驚き慄き、避けに避けて、回れ右して何処かへ飛んで行く。

 ちょいと興味を持った、物見高い奴が近付こうものなら、竜王の一睨みで遠いお山の向こうへ逃げて行く。


 最強最高の守護竜が付いてるってのに、俺は何の為にここに居るんだ!!!?


 しかし! しかしだ!


 すみませ~~~ん。すっごい守護竜が付いているので、用無しになったから帰ってきました~~~。

 誰が付いているんだ?

 竜王で~~す!

 

 …………無理だな。うん。無理だ。


 で、俺はオバサンにくっついている竜王にくっついている。

 本来なら、オバサンにくっついてる筈だが、近付けませ~~~ん!


 しっかりと、”そなたは我が守る”と宣言され、俺の立場を芥子粒ほども残さず潰された竜王様は、オバサンが何処へ行くにもついて行く。

 それも、いそいそと! という雰囲気をあからさまに振りまいて。

 そして、毎日毎日、隙を見つけては”妻になってくれ!” 攻撃。

 そしてそして、オバサンはそれを完全無視! か、”なりません!” 宣言。


 ただなぁ、その後に、何故かこれが付く。

 ”泣かない!”

 て、姿を隠してるからわからないが、まさか、泣いてるのか? 竜王が!? プロポーズを断られて!?

 想像つかないんだが……。

 ついでに、たまぁ~~~~に、オバサンが竜王に興味を示し、褒めたりすると、小躍り以上の、盆踊りでも、コサックダンスでもしそうな雰囲気が漂ってくる。


 本当に竜王か?

 やっぱ、間違えてるんじゃないか? 俺。


 こんな自問自答をしながらも、日は過ぎて行く。


 ある時、オバサンが我らの姿が見える者の所へ行った。

 占い師とか言う者の所だ。

 霊が見える者は、ちょっと霊感が強いと言うくらいだが、神が見える者は、神に選ばれし者だ。

 そう言えば聞こえはいいが、つまりが俺達と同じ、神様の使いっ走りに選ばれただけなんだがな。


 随分年取ったじいさんだが、そのじいさんが、オバサンに向かって、

「あんたはなぁ、とてつもなく! それはどえらく大きな神さんに守られてんねんで」

と言った。


 それくらいからだろうか。

 もしかして、本当に竜が居るんじゃないかしらぁ、とオバサンが思い始めたのは。


 と言うのも、それまでさっぱり気にしなかった見た目を気にし出したのだ。

 化粧品売り場に行ったり、少々出過ぎて来たお腹を引っ込めようと運動し始めたりと。

 

 器の見た目がどうだろうが、俺達にはどうでもいいんだが。


 それより、竜王と話す回数がグンと増えた。

 話す内容も、信じてそうな感じになってきた。


 特に、夜、眠る前になると、嬉しそうに竜王の気配がオバサンの周りを取り巻く。

 何かをしようってわけじゃない!

 眠る前や、眠ってからは、魂が器を離れやすくなる。

 つまりは、竜王により近い所に行けるわけだ。魂が。

 それを感じたくて、寄り添うのだろう。


 布団に入りながら、竜王と話しをし始める。

 

 まだ竜王がはぐれ竜だった頃、それまでの記憶がない不安を感じているにもかかわらず、大御神が大量に、竜王が作った結界空間に生まれたばかりの魂を放り込んできた辺りの話し。

 それからどうやって話しをしだすようになったかとか、どんな風にその中で過ごしたかとかを話しながら、オバサンは眠りに落ちる。

 本人は、眠っているとは思ってないだろう。

 器はしっかり眠っているのだが、魂は竜王の元へと飛んでいる。


 そんな事が繰り返され、オバサンの魂は、竜王が作り上げた結界空間にまで飛んで行きはじめた。


 ちょっと……やばいんですけどぉ…………。


 人界でなら、他の人間や、動物、自然界の気や、妖怪の類の気まで、色々ワチャワチャありまくりなので、気配を断っていれば、そう見つかる事はないのだが。

 あの竜王の隠し部屋のように……いや、あの部屋を、ここと同じに作ったのだろう。


 マジに! 何もない!


 あるのは、竜王とオバサンと…………俺の気だけ。


 けどなぁ……一応、用無しとは言え、守護竜だ。

 器を守るのではなく、魂を守るのが役目。

 その魂から目を離すわけにはいかない。

 

 例え! 俺より強くて頼りになりそう~~~な竜が付いていようともだ。


 どうか、気付かれませんように。

 と、ひたすら気配を殺して、じ~~~~っとしていたんだが……。


 ある日……。


 ……こっち……見てます?

 ………………見てます……よね。


「そこで、何をしている」


 アハハハハハハァァァ…………!!


 ばれちゃいましたぁぁ???






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