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竜踊り


 それから、日、一日とお袋は元気になり、今ではせっせと俺の世話をしてくれている。

 残ったのは、でっかい壷に入った大量の薬湯。

 お袋がショックで体調を崩したと聞いてから、貯めに貯めて持って来たんだろう。

 こんなに要らないっつうの!

 どうも、どっかずれた所があるんだよな、あの竜王様。有能なんだがなぁ。


 そして、これが一番困りものの、寝坊助の人霊が入った結界珠……!

 さっさと竜界の外に放り出そうかとも思ったが、あの狸竜がそれを知った時の事が恐くて、いまだに持っている。


「飯にするかぁー!」


 仕事場の責任者からの声に、皆がそれぞれの所で、飯を食べ始めた。

 俺も、いつもの場所でお袋が作ってくれた弁当を開けた。


 俺の仕事は、竜王争いでボロボロになった建物の修復工事。

 親父も争いに入っていたので、罪滅ぼしの意味もあるが、こういう仕事にしかありつけなかったのが現状だ。

 竜王に逆らった者の末路って奴だな。

 ここに居る者、皆がそうだって訳じゃない。大抵は、まぁ、言っちゃなんだが、こういう仕事するしか能がない者達だ。

 竜の能力ってのは、生れ付きだ。能力の強い親からは、能力の強い子供が出来る。多少の例外はあるようだけどな。

 上の者に取り入って、上の方の役職に就く者も居るが、能力が強くなることはない。

 

 俺の能力なら、もう少しましな仕事に就けるはずなんだが、どうしようもないな。

 あの竜王が竜王でいる限りは、ここだな。


「ねぇ~~~」

 弁当を食べ終えて、のんびり空を見ていたら、結界珠の中から寝坊助人霊が声を掛けてきた。


 お、一応、まだ消えてないか。

 家に置いて来て、もしお袋に見つかったらマズイかと、持ち歩いている。


「なんだ? 神さんからの呼び出しでもあったか?」

 こいつが消えても俺の所為じゃないが、やっぱ、ちょっと後味悪そうだから、気にはしている。

「ううん。ないよ」

「じゃ?」

「どうして、いつもひとつなの?」

「は?」

「みんな、あっちで食べてるのに、どうしてひとつで食べてるの?」


 ……………………………………。

 んなもん! 放っとけっての!

 それに! ひとつだぁ―――!? 一頭と言え! 一頭と! せめて一匹!

 俺は、物じゃねぇぞ! 


 と、たかだか人霊に怒鳴り散らすほど、俺は大人げなくはない。

「ここの方が気楽だからだ」

 で、俺はこう答えた。

「でもぉ、ひとつは寂しいよぉ」

 だから! ひとつはやめろって!

「俺は寂しくない」

「ふぅ~~~~ん」

 何だ、その信じてなさそうな、ふぅ~~~~ん、は!


 ホント! おかしな人霊だ。

 光りは、相当生きている魂が放つ光りなのに、大きさは人霊になりたての大きさだ。

 これほどの光りを放つなら、もっと早くに人霊になれていたと思うんだがな。

 ま、タイマンしまくって、人霊に中々なれない奴も中には居るが、そう不真面目に生きる奴にも思えない。

 それに……。


「おまえなぁ」

「何?」

「竜に会ったって言ってたがな」

「うん! 会ったよ!」

「……恐くなかったのか」

「恐い? どうして?」


 いや、普通! 大抵! 大体は!

 竜に会ったら恐がるもんだろう!

 俺に対してもこの態度! 竜を竜とも思ってない、この不遜な態度!


「全然、恐くなかったよ! すっごく優しそうだったもん!」

 優しそうねぇ……。竜が優しいか、優しくないか、一目見て分かるもんか?

「それにね! すごく懐かしい気がした!」

「懐かしい?」

「うん! だからね! もう一度会いたいって思ったの!」


 もう一度会いたいって……竜と人霊がそんなに簡単に会えるか!

 あの狸竜が、天に行く途中で引っさらって来なけりゃ、天へ行って、竜に会った事さえ忘れてしまうのに。


 ……懐かしい……て思ったのは、忘れてしまってはいるが、以前にその竜と会った事があるって事か?

 もし、その竜が、竜王だとしたら……。

 

「仕事始めるぞ~~~!」

 おっと、やば! 真面目にやらないと、ここまで干されたら、マジ、仕事なくなっちまう。

「毎日、大変だねぇ~~」

 あのな……。

「おまえは毎日寝コケてられて、羨ましいよ!」

「他に、何かさせてくれる!?」

「……無理!」

「ぶぅ~~~~~!」


 ぶ~~~~~~!?

 ……クッ…! ホントに面白い奴だよ! 竜に向かってぶぅたれる奴がいるとはな!



 こんな風に、昼休みや、仕事場への行き帰りに話すようになって、しばらく経った頃、再びあの竜王の腰巾着、狸竜が声を掛けてきた。

 狸竜が俺に声を掛けてくる理由はただ一つだ。


 どうする?

 俺はわざとゆっくりと振り向きながら、頭の中は猛スピードで回転させていた。


 いってらっしゃい、とお弁当を渡しながら笑う、お袋の姿が浮かんでくる。

 あの笑顔が見られるようになったのは……竜王が下さった薬湯のお陰だ。

 なのに……。

 その竜王を裏切るような真似をするのか?

 こんな腹黒狸竜に、思うように動かされる存在にするのか?

 だが、この結界珠を渡さなければ……。

 

 今、持っていないと言おう。

 もう少し、もう少し、考える時間をくれ。

 どんなに考えても、結論は一つだろう。

 けれど、その結論を受け止め、受け入れる時間が欲しい。


 狸竜と向き合い、そう言おうとした時、

「あ―――! 太っちょ竜のオジサンだぁ――――!」

と言う元気な声が響いた。


 …………………………。

 なんで! こんな時に起きてるんだ、おまえは!

 いつもは、寝コケまくってるくせに!


「おお! 持っておったか。それは良かった」

「はぁ……」

「長い間、ご苦労であったな。さ、返してもらおうか」

 にんまりと笑いながら、狸竜が手を差し出してくる。


 くそったれが!

 どうせ、俺の思い通りになんて、何ひとつならないようになってんだ!

 俺は諦めの気持ちと一緒に、結界珠を狸竜に渡した。


「あの竜さんに会える!?」

「ああ、会わせてやろうとも」

「わぁ―――い!」


 わぁ―――い! じゃねぇって!

 おまえが大切に思っている竜に、辛い思いをさせに行くんだぞ!


 ……いや……俺がそう考えているだけか。

 あの人霊が竜王の弱みで、あいつを利用して竜王を自分の思い通りに動かそうとしているってのは、俺の勝手な考えで、思い込みかもしれないじゃないか。

 そうだ。狸竜は一言もそんな事は言ってない。

 ……そうだとしても、言うわけないが……。


 落ち込みまくっている俺の耳に、チャリチャリーンと言う音が聞こえてきた。

「それで、母親にうまい物でも買って食べさせてやるといい」


 あ?

 薬代……には足りない気がするが……?

「聞くところによると、随分と元気になって来たそうではないか。良かったのぉ」

 はぁ?

 つまりは、もう薬は必要ないから、これくらいでいいだろう、かよぉ!

「くれぐれも、この事は口外せぬようにな。折角元気になった母を、また床に伏せさせたくはなかろう?」


 とことん、嫌な野郎だよ。

 こんな奴に! あの竜王が……!

 いやいや! 俺の思い込みだ! そうであってくれ!


 俺は、投げ捨てられた金を拾い、

「では、失礼します」

と、頭を下げ、すぐに飛び退った。


 振り返るな! もう俺には関係のない事だ!

 そう何度も自分に言い聞かせたが、俺は振り返られずにはいられず、ついに振り返った。


 その俺の目には、意気揚々と王宮へと飛んで行く狸竜の姿が映る。

 やはり……目的は竜王か……?

 竜王なのか……!?


 あの時から、お袋は完全に竜王の崇拝者になっている。それなのに、俺が竜王を追い詰める片棒を担いだと知ったら……。

 言わなければいい!

 誰も俺があの結界珠を持っていたなんて、知らないのだから!

 そう! 忘れろ! あの結界珠の事は忘れるんだ!


 忘れろ! で忘れられたら、誰も苦労はしないっての。

 結局俺は、あっちこっち飛びまくり、飛んでる間、忘れろ忘れろを繰り返し続け、続け、続け…………忘れられるかよ! で、ここに来た。


 ここは何処かって、あの狸竜の屋敷の近くだ。

 もしかしたらだ。もしかしたら、上手くいかない場合もあるじゃないか! の希望を託して、狸竜の帰りを待っている。

 落ち込んだ顔で帰って来い~~~~~!

 と念じつつ。

 だが……。


 不細工な盆踊り以下の竜踊りをしながら、狸竜は帰ってきた。

 玄関近くに潜んでいる俺の事なんて、気付く様子もなく玄関に入ると、

「竜王殿が承諾なされたぞ! 支度だ、支度だ! 忙しくなるぞ!」

と、叫びながら奥へと消えて行った。


 ズド――――――――――ン!

 と、落ち込む俺を残して。


 俺はフラフラと何処をどう飛んだか覚えてないくらいフラフラと飛び、、なんとか家に辿り着き、玄関でドスンと腰を下ろした。


「あら、今日は遅かったのね。どうしたの? 疲れた顔をして……」

 お袋が出迎えに来て、心配そうに覗き込んでくる。

「まぁ……ちょっと疲れた……かな……」

 本当のことは言える筈もなく、俺は誤魔化し笑いで答えた。

 すると、

「今日の仕事は大変だったのね……。そうだ! 竜王様に頂いたお薬湯を飲みなさないな! あれ、本当に効くのよぉ!」

と、ものの見事に、追い打ちをかけてくれた……!

 

 諦めろ! 俺! これが俺の運命だ!



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