続・マジで恋する5秒前。
続編を書いてほしいとのありがたい言葉をいただきました。作者冥利に尽きます〜(ノ□<。)゜。本当にありがとうございます!ここに日の目を見ます♪初めての方はこれの前作にあたる『マジで恋する5秒前。』を先に読むことをオススメいたします(^∀^)
『―――どうしてくれんの?あんたのせいで私今まで独り身だったんじゃない』
『―――いいんじゃない?代わりに俺が手に入ったんだし』
―――あれから一ヶ月。あたし達は、相変わらず、だった。
「るーーいーー!!いい加減起きてってば!何回声かけたと思ってんの!?」
「ん〜…」
「お母さん起こしたからね!?知らないよ」
「う゛ー…」
そんなこと言われても…眠いものは眠いんだもん。
もぞもぞと動きながら、寝ぼけた頭であたしは脳内で言い返した。
現在時刻は…多分正午前。日曜の、天気のいいある日のことだった。
ぼやーっとしている脳内に、階下の会話が聞こえてくる。
「ごめんね〜、飛鳥くん。琉依昔からあぁで」
今…知ってる名前、聞こえた気がする。
「…いえ、別に」
それにこの声。
「知ってますから」
飛鳥…?
「な、わけなぃかぁ〜…」
私以上に朝に弱いあいつが、こんな時間にココにいるわけない。
うん、気のせいだな、きっと。
そんな感じに自己完結して、再び眠りにつく。けれど再び惰眠を貪ることは、叶わなかった。
ゲシッ。
「ぐぇッ」
ドンッ。
「いったァ!!」
横っ腹にものすごい衝撃を受けたと思えば、そのままベッドの反対側に転げ落ち、しりもちをつく。
一瞬何が起こったのか理解できなかったけれど、視界の端に映る人影があたしの脳をばっっっちり覚醒させてくれたようだ。
よろよろと膝立ちして、ベッドの淵にどうにか手をついた。
「ぐうぅぅうう…ッ」
思いっきりあたしの横っ腹を蹴飛ばした犯人なんて、もういやってほど予想がついている。否、ここまできたら確信よっ!
「―――飛鳥ッ、ふざけんな!!」
完全に立ち上がったあと、あたしは目の前に傲慢な顔して立っている、幼なじみ―――兼、恋人…の、はず(自信ないけど)―――の飛鳥に悪態をついた。
「起きろ」
「はぁああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!?」
今のあたしのどこをどーみて寝てるって言えるわけ!?
「あなた頭おかしいんじゃないデスか!?」
「琉依」
「…なっ、なによ!?」
そ、そそそそんな色気たっぷりの声で名前呼んだって、許さないんだから!
―――今あたしと飛鳥は、ベッドを挟んで向かい合っているわけだけど。…何を思ったのか、飛鳥はゆっくりとベッドを迂回すると、あたしのすぐ前まで来て立ち止まった。
「…………ッ」
近いの、近いってば!
きっと今、あたしの顔、超赤くなってるでしょ!?
ぎゅっと目を瞑って、顔を背けた。…こんな間近で、目合わせてらんないっ。
「…琉依?」
「はひゃあッ!」
〜〜〜〜〜〜〜っ!!
絶対、絶対わざとだ!飛鳥はあたしが耳弱いって十分知り尽くしたうえで、耳元で吐息なような声を発する。
「…ぃ」
「ふぇっ?」
「やばい」
「へっ」
―――やばいって飛鳥サン、何が?
と思った次の瞬間、飛鳥は思いっきり声を上げて。
…笑った。
「ははっ!おもしろ…っ、やばい、うける」
「は…」
一瞬、めったに見られない飛鳥の笑顔に目を奪われてポケーッとしていたあたし。
べ、べつに見とれてたわけじゃないんだから!
「な、なによ。なに爆笑してんのよ」
はっと我に返り爆笑の理由を問いつめる。
「鏡」
え。鏡…?鏡見ろってこと?
そう解釈して、出入口付近にある鏡台を除きにいく。…そこに映ったあたしは。
「うわぁーお」
びっくりだね、こりゃ。
「頭おかしいのはどっちだって話だよ」
「………」
いつもの無表情に戻って、飛鳥はその後すっぱりとあたしを切って捨てた。
…ぐうぅ。
―――あたしの頭は、10時間睡眠による、それはそれはりいぃーっぱな寝癖で大爆発していたのだ。
鉄火面の飛鳥も、吹き出すわけデスヨ。
「行くぞ」
「って、この状態でどこへ」
「昨日、映画」
えぇー…と?
飛鳥は、単語しか言わない癖がある。だからあたしは、自分の力で飛鳥の言いたいことを読み取らなきゃいけない。いい加減、それにも慣れてるけど…。この場合、日曜の昼に来て昨日、映画って言ってるわけだから。
「あ、あぁー!」
「早く」
「…メ、メンゴ」
思い出したあたしは、苦い顔をする飛鳥にかまわず現金にも笑顔になって、洗面所に向かって走りだした。
「30分待って」
―――そうだ、忘れてすっかり寝入ってたけど、あたし昨日映画見に行きたいって言ってたんだ!
慌てて準備を終えて居間に行くと、お母さんが飛鳥相手に語らっていた。
「でねぇ、その時あの人ったら」
う、うわぁ。よくあの鉄火面を前にあんなにお喋りできるわよね。いっそ感心するわ。
「…お母さん、あと一時間で映画始まるから。行こっ、飛鳥」
「ああ。―――琉依、借ります」
「あらー、そんなんでよければいくらでも」
…実の娘相手にひどくないデスか。
了解を得たと解釈した飛鳥が、敷居のあたりでぼーっとしていたあたしの右手をさらっていった。
「っ!?」
途端、真っ赤になるあたし。そのままおとなしく従って玄関まで行くかと思われた時―――。
「…ねぇ」
リビングの母に、呼び止められ。
「あんた達ってさ」
そして、
「付き合ってんの?」
―――爆弾を落とされたのだった。
「映画、面白かった…よ、ね?」
―――数時間後。映画館を出た街の中。
「………………」
「あーなんだっけほらあの主人公がヤバくなった時」
「琉依」
「…な、何よ」
「いい」
「は?」
「考えごと、してた」
…やっぱばれてるよね。実は考えごとしてて映画ちゃんと見てなかったこと…。
だけど、とあたしは思う。
…あたしが何に関して悩んでたと思うの?あんたとあたしのことについてなんですけど?
「…ねぇ、飛鳥」
「………………」
「飛鳥ってば」
「………………」
「飛鳥!」
「うるさい」
往来で騒ぐな。
そんな声音で振り返りもせず、飛鳥は一言そう言うのみ。
「…………っ」
正直、泣きたい。
…飛鳥が無口なのも、そのうえたまに口開いても言葉が悪いの分かってる。
でも―――でも、今このタイミングでそんなこと言う?お母さんに―――あんな風に突っ込まれた、その後で。
あたしの足が止まっても、飛鳥は気づかずに歩いていた。人混みにまぎれながら遠ざかる背中に、あたしは、憎しみと悲しみと、ほんのちょっとの期待をこめて、半分まで減った紅茶のペットボトルを投げつけた。
ドンッ、と鈍い音がして、ペットボトルが地に落ちる。
「…なに?琉依?」
「分かってない」
「…は?」
「あんたは全然、分かってない」
「……………」
「お母さん、聞いたよね。あんた達付き合ってんの、って」
「……………」
「どうして答えなかったの?あたし達、何なの?本当に付き合ってるの?付き合ってるはずだよね?そうならどうして、全然そんな素振りないの?」
―――あの日、あのお店での出来事から。
あたし達は、ただの幼なじみ同士から、恋人同士になったんだと思ってた。
でも、違ったのかな。あたしの独りよがりだったのかな。
だって、よく考えたらあたし、飛鳥本人からは好きだとも付き合ってとも言われてない。ただ由香の口から聞いただけ。しかも偶然。当の飛鳥はこんなだし。
「キスは一回されたけど、それきり。それでさえ勢いで、みたいな感じあったしね?本当は飛鳥、あたしのことなんてそれほど好きじゃないんでしょう?」
「………は?」
「ずっと今まで近くにいたからなんとなく、なんじゃない?」
…あたしが込めて投げた期待は、さっき聞いたとき、間髪入れずにあたしの言葉を否定してくれるんじゃないかなっていう期待だった。
…でもそれも、泡になって消えた。
「琉依」
「もーいーよ。飛鳥なんか…馬に蹴られて死んじまえっ!このわからんちんッ」
最後に精一杯の罵倒を残して、あたしはその場を後にした。
くっそぅ、追いかけるくらいしろよコノヤロウ。
…ねぇ飛鳥。言葉を欲しがるのは、間違ってることなのかな。あたしがおかしいの?
―――そして。あたしは、視界が滲んで見えるなんて…絶対気のせいなんだと、半ば自分に言い聞かせて歩きだすのだった。
七時すぎに家に帰ると、お母さんがもうご飯を食べ終わって居間でテレビを見ていた。 あぁもぅ…会話するのが億劫だ。ばれない内に部屋に入っちゃえ。
廊下を、音を立てないように最新の注意をはらって進んでいた……はずなのに。
「おかえり。遅かったね。あんたご飯は?それに飛鳥くんは」
なんでばれたかな…。あなた後ろに目でもついてらっしゃるの?
仕方ない、答えよう。
はぁー、とため息をついて、体の向きをお母さんの方へと変えた。
―――飛鳥は、と聞かれたのには理由があって、あたしがいつも飛鳥と遊んだ後そのまま家に連れ帰ってくるからだ。そして一緒に晩ご飯を食べて、飛鳥が帰る。
それなのに今日はいないから、不審に思って、お母さんとしては当然の疑問をあたしにぶつけたんだろうと思う。
でもなんだか妙にぎくっとしちゃうのは、気のせい?あたしの気持ちの問題?
「…べつに、いつもどおりだから。遅くないし。あと、飛鳥って誰かしら?あたくしの知り合いにそんな人いなくてよ。おほほ」
「……頭でも打った?」
「失礼な。正常です」
「それが正常だなんていよいよやばいんじゃないの」
「…うっ、うるさいなぁっ。もー寝るから、ご飯いらないっ」
全くどいつもこいつも癪に触るったら!
あたしは階段を駆け上がって乱暴に自室の扉を開け、やっぱり乱暴に閉めた。
鞄を床に放って、さっさと部屋着に着替える。
ずっと前にあいつから貰った、2LのTシャツ。それから、はき古したグレーのスカート。
だぼだぼで、もうほんっとヤル気ない。…べつにいーんだ。もう今日外出る用事もないし…。
「あーあぁ…」
ベッドにうつ伏せに転がりながら、考える―――なんでこんなことになっちゃったんだろ。こんなはずじゃ、なかったのに。楽しくデートして、夜はまったりする予定だったのに。…まぁあたしの頭のなかでだけの予定だけどさ…。
あたしが、悪かったんだろうか。言っちゃいけないことを、言ったりしちゃったんだろうか。
でも、あたしが日中飛鳥に問いかけた疑問は、実はずっと悩んでいたことだった。
あたし達本当に付き合ってるの?あたしのこと、ちゃんと好き?本当はあの日の出来事さえも、あたしが見た夢だったりする?
一度考え始めたら止まらなくて、不安は膨らむ一方だ。
顔を埋めた枕が、冷たく濡れる。
でもあたしは―――こんなにムカッ腹たっている今だって、あの声が聞きたくて仕方ない、と実感させられてしまうのだ。
少し低く、でもどこか幼さを残す、あいつの声を―――。
「琉依」
………え。
「琉依」
コンコン、と窓を叩く独特の音と共に、あいつの声が聞こえた。
嘘だ。そんな。まさか。―――飛鳥…?
すぐにでも飛び起きて窓に駆け寄りたくなったけど、昼間のやりとりを思い出してこらえた。
―――あたしと飛鳥の部屋は二階で、ベランダを通じてお互い行き来できる。『家と家の間に家が建つ』都会だからこそ、可能な造りだろう。
それだけ居場所が近いんだ、あたしが帰ってきてるのもふて寝してるのも、とうにばれていたに違いない。
「琉依」
なおも飛鳥はあたしの名前を呼ぶ。
「琉依、鍵」
あぁもう、本当にやめて!あたし昔から飛鳥の言うことには逆らえないの!分かってんでしょ?それ以上言われたら、
「鍵、開けろ」
―――カチャ。
開けちゃうのよ、まんまと…。
それでもなお、あたしは飛鳥と目を合わせなかった。
これはもう、意地だ。
………一瞬沈黙が部屋に落ちる。窓際で、向かい合ったまま目も合わせないあたし達。正確には、あたし一人、なのかもしれない。
そんな時、不意に左手首を掴まれた。
「っ、何!?痛ッ…」
「来い」
「はぁっ?やだよっ、離してッ」
「琉依」
名前を呼んで、一睨み。ただそれだけ。ただそれだけのことで、こいつはあたしを屈服させる。
…悔しい。こんな自分が情けない。飛鳥に勝てない自分が、情けない。
静かになったあたしを見て、次の瞬間飛鳥はあたしを抱き上げた。
「ふわっ?」
たまらず間抜けな声が上がるけど、飛鳥はそれを完全無視して自分の部屋へ向かって依然歩を進めている。お姫様抱っこなんて可愛いものじゃない。母親が赤ちゃんを抱っこする時のような、向かい合わせになるまさしく『抱っこ』だ。
「ちょっと、何すんの!おろしてよーっ」
しかも、あたしの場合ちょっと肩に担ぎ気味だから、下手すりゃスカートからパンツ見えてんじゃないの!?という危機感つきだ。
「あ…すかっ」
落ちないように背中に手を回してしがみ付きながら、非難めいた声を出すけれど、それでも聞き入れてもらえる様子はない。
―――悲しくなった。
…どーして飛鳥ってそうなの?あたしのこと、どーでもいーと思ってるんでしょ?
「…あたしを…何だと思ってんのよぅ…ッ」
ついに我慢できなくなって、ずっと胸にわだかまっていた不安が、嗚咽となって口に出てしまう。
「うぅ〜っ…。もうやだよ…あんた何考えてんのか分かんないっ…」
さっきまで感じていた憤りは姿を消し、今はただ悲しかった。頬を静かに涙が伝う。
―――今だってやっぱり返事はなくて。二人でいるはずなのに、一人でいるような孤独感を感じる。
…これだ。あたしは、これが嫌で仕方なかったんだ。二人でいるのに否応なしに寂しさを感じることが、どうしても嫌だったの。
涙は止まらない。鼻はぐずぐずしている。何より、胸が苦しい。
もう喋る気力も失せて黙ると、余計身に染みた。…ほらね。いつだって、喋っているのはあたし一人だけ。独り相撲だよ、こんなの。
…と。不意に、目線の高さが変わった。
―――降ろされたのだ。飛鳥のベッドのうえに。
次いで、飛鳥もベッドに腰掛ける。スプリングが軋む音が、やけに大きく響いた。
「琉依」
「な…によ」
「言いたいことはそれだけ?」
「はっ?」
思いも寄らないこいつの言葉に、一瞬我を忘れた。
それだけ?それだけって言ったこいつ?…何言ってんの?
「あっ…!」
んたねぇ、となおも飄々とした態度の飛鳥に噛みつく。
「琉依」
だけどそれは、強い視線と声音に遮られた。
「………っ」
「…琉依。オマエはそう言うけど。オマエこそどうなんだよ」
「え…」
あ、あたし…?
「―――オマエこそ俺に何も言ってないじゃねーか。オマエは俺のことどう思ってんの?…もしかしたら付き合ってると思ってんのは自分だけじゃねーのかとか考えたら、俺だって不安になる」
…珍しく饒舌な飛鳥に。切なそうに揺れる瞳に、あたしは言うべき言葉を見失った。
「だから言えなかった。琉依のお母さんに、付き合ってんのかって聞かれた時、すぐに答えられなかったんだ」
そこで飛鳥は初めて視線を落とした。
「オマエ、あの時聞いたよな。あたしのこと好きだったの?って聞いたよな」
―――あたしは飛鳥の言葉を、どこかボンヤリとしたまま―――それでもしっかり聞いていた。
「…答えたじゃねーか。そうだけど、って。…確かに直接好きだって言葉は言ってない。それは悪かった。でも俺は―――琉依になら、それで十分伝わると思ってた。…十六年間一緒だった、オマエなら」
あぁ、あたしは―――。
「だから」
「飛鳥。…もういいよ」
…なんて馬鹿だったんだろう。今まで飛鳥の何を見てた?
「…琉依?」
「ごめんね。あたし、飛鳥が好きだよ」
「―――」
「伝えるの遅くなって、ゴメン。喋るの苦手なのにいっぱい喋らせて、ごめん」
そこまで告げると、あたしは隣に座る飛鳥の襟を掴んで引き寄せて―――静かに唇を重ねた。
一拍おいて離れると、すぐ間近で呆けている飛鳥がうかがえる。
「あたしは、飛鳥のものだよ」
改めて言うと、飛鳥はそれまで以上に驚いた様子を見せて。
…次の瞬間、噛み付かれるように唇を塞がれた。
「ちょ―――あ、すかっ?」
なんでいきなりこんなことをするのか。問いただす意味で語尾を上げてみたのだけれど、全く汲み取ってもらえない。
キスは、角度を変えながらどんどん深まるばかりだ。
「んぅ…はっ」
一瞬の隙に息継ぎ。
ちょっと、ヤバい、まじで苦しい!
―――でも、やめないで欲しいと思ってしまうあたしもいる。
「っ…!」
し、舌!?いまの舌だよねぇ!?
も、恥ずかしい。声とか勝手に出ちゃうしいつの間にかベッドに倒されてるし。…でも飛鳥にこんなのされると、逆に好きにしてって思えちゃうのは『好き』の魔力なのだろうか。
体の力が抜けて、あたしはされるがままになっていた。頭がぽーっとする。
…だけど。おなかの辺りに素肌が触れる感覚を感じ取った瞬間、脳は一気に覚醒した。
「ちょっ…!ちょっと待て待て待てーっ。何この手ッ。何する気!」
Tシャツの間から滑り込んでいた飛鳥の右手を、半身だけ起こした状態で必死に押さえつけたうえで、詰問した。
「…聞くわけ?」
「やっ、その、言わなくていーけどねっ?てか、あんた親は!?」
「…オマエんちに夕飯呼ばれてるからいない」
うわーんお母さーん!!余計なことしくさってぇー!!
まともな思考は銀河の彼方へ消えた。もはやあたしに残された逃げ道はないと確信。
それでもどうにか飛鳥の下から逃げ出そうともがくけれど、到底かなうはずもない。暴れてうつ伏せになってしまったのをいいことに、なんと飛鳥は背後からあたしの首筋にキスをしてのけた。
「うひゃっ!なっ、なにす…ちょ、腰に手ぇ回すな!そして抱き抱えるなぁーッ」
死ぬ。顔に血が集まり過ぎて死ぬ。
「あーすーかーっ」
「…琉依」
「あによっ」
「俺のもん、なんだろ?」
―――動きが止まった。
こっ…ここで今それを言うかぁ〜〜!?
「そうだけどっ!それとこれとはまたべつっていうか」
「一緒だろ」
「違う!」
「一緒」
「違ぁーう!」
「琉依」
「何よーっ」
「好きだ」
「だから嫌ッ…―――へっ?」
―――今。…あ、あたしの空耳じゃなければ。
「好き、って言った?」
「………」
「ね、飛鳥」
後ろから抱きしめられてる状態だから、今飛鳥がどんな表情をしているのかは分からない。だけど、飛鳥の場合沈黙は肯定だ。
…どうしよう。顔がにやける。
「…ふ。ふへへへっ」
「キモイ」
「―――………」
こ、これだよ。不安になるのも無理ないっつーの。
…でも。飛鳥が、口悪いのも口下手なのも。
感情表現が下手で無愛想なのも。
…そんなの、とっくの昔に分かってることだった。それから、なんだかんだ言いながらあたしのことを大事に思ってくれてるっていうことも。
―――なのにあたしは疑ってしまった。…ほんと、馬鹿だったと今なら思う。
全部含めて飛鳥。冷血漢なのが、飛鳥なんだもん。
それを思い出したら、ふっと自然に、体の力が抜けた。後ろの飛鳥に寄り掛かれば、たちまちゆるやかな幸福感に包まれる。
「琉依」
「…ん?」
「今度こそ胸張って、恋人って言っていいんだよな」
…なにげに、飛鳥の方が気にしてたりするのかな。
あたしは、満面の笑顔で振り返る。
「あたり前田のクラッカー!」
よしっ、今度こそ飛鳥も安堵に笑っているはず―――………と想像して振り返ったあたしの目に映ったのは、なぜかいやそ〜な胡散臭そ〜な顔をした飛鳥だった。
…あ、あれ?何で?
そしてこの後、あたしは衝撃の事実を知らされる。
「…琉依」
「は、はい」
「ずっと言いたかった」
「…え?」
「―――オマエは言葉が古い」
…う、嘘ぉ!?
―――こうして。
今日も朝が訪れる。
「琉ー依ー!…ったく毎日ほんとごめんね、飛鳥くん」
「いえ」
「ほんと琉依ったら」
「もーっ、お母さんうるさい!ほらっ準備できたから行こ、飛鳥」
ローファーを履いて、玄関の扉に手をかける。
―――後ろから、お母さんの声がかかった。
「で?結局のところ、付き合ってるわけなの?」
その言葉に、あたし達は一瞬顔を見合わせる。
…そして。
二人揃って笑顔で大きく、頷くのだった。
読んでいただきありがとうございました!ぜひこのまま連載作品へもリンクしましょう(ノ´∀`)ノ笑♪幼なじみものと年の差ものをご用意いたしております\(^O^)/