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3.動き始めたMy-thology

2話の分かりづらい表現、及び消費エネルギーの設定部分を修正いたしました。


その他不明点はおっしゃっていただければ対応、修正いたします。

 『ゾンビ』という単語を聞いて真っ先に思い浮かぶのはどんな話だろうか。

 おそらくこれには、そこそこバラエティに富んだ回答があると思う。最近ではゾンビであることをネタにしたような、コミカルな日常モノなんかも見られるようになっているし、思い描くゾンビ像は人それぞれだろう。


 だがここに、『かろうじて人型に見えなくもない、ドロドロとしたナニカ』というビジュアル情報を解禁すればどうだろうか。

 少なくとも俺の中では、一択に絞られる。


 パンデミック系パニックホラー、だ。



「——徘徊するゾンビがいた」



 だからこそ俺は、その言葉をいつになく真剣な表情と声で吐き出した——つもりだった。一応、自分の中では。

 だがそれに返されたのは、風来の胡乱げな表情と、呆れたような声。



「ゾンビ? いるわけないでしょ、そんなもの。現実見よう?」


「神様だっているわけないんですけどねぇ!」



 『いるわけない』の筆頭株主にだけは言われたくないセリフだ。

 あと、俺も見たくてゾンビを見たわけじゃないからな。あれ見るくらいなら現実の方がマシだからな。



「そもそも、龍斗くんだってゾンビみたいなものじゃん。鏡でも見たんじゃない?」


「ゾンビみたいなものっ!?」



 俺があんなおぞましいものと一緒なわけがないだろう。——少し怖くなったので、一度洗面所で鏡は確認。大丈夫、溶けてない。



「ていうか、俺をゾンビみたいなものにしたのは風来だったのでは?」


「神様をゾンビみたいなものって言わないでよ。不敬だよ?」


「おまえが先に言ったんだよなぁ……!」



 不敬も何も、敬えるところがまだ一つも見つかっていないのだが。

 見た目は小中学生くらいだが、神様だし敬老あたりには引っかかるか……?



「言っとくけど、神に歳の概念は無いからね?」


「エスパーかよ」



 その読心術は俺にもできますか?

 ……できなさそうだなぁ。いま風来がなんで呆れたような顔をしているのかもわからないし。あ、溜め息吐かれた。


 いや、話がだいぶ脱線してしまったが、今の問題はゾンビだった。無双系パニックホラーなら俺TUEEEルートも残っているが、単純なパニックホラーなら「俺は最強だ!」とか言ってる人間から死んでいくからな。見極めは大切だ。

 差し当たっては、風来になんとかゾンビの存在を認めてもらうところからなのだが——



「そもそもなんでゾンビは信じられないんだ? 神様がいるんだから、ゾンビがいたっておかしくないだろ?」


「いや、私はここにいるけど、ゾンビはここにいないからね? というか、どこにもいないからね?」


「頑なだなぁ……」



 だがまあ、そこまで自信満々に否定されると、俺の見間違いという可能性も視野に入れるべきという気もする。あれは或いは、半年ほど時代を先取りした人の仮装(コスプレ)だったのかもしれない。

 そういうわけで、もう一度ベッドに腰掛けて千里眼タイム。


 …………あー、はいはい、なるほどね。



「風来さん風来さん」


「なにかね龍斗くん」


「ゾンビ増えてる」


「えぇ……」



 公園内だけで三体に増えていた。三倍だ。

 人によっては正気度のチェックが必要なその風貌は、さすがに季節外れのハロウィンパーティとは思えない。



「それ、本当にいたの?」


「いた」


「うーん、少なくとも天界にはそんな変なものはいなかったけど……」



 ここでまたもや聞き慣れない単語が出てきて、そういえば、と能力以外のことをまだ何も聞けていないことを思い出した。

 優先順位は間違っていなかったはずだが、状況把握だって必須項目(マストオーダー)ではないだろうか。——忘れていたが。



「質問。天界とは?」


「私たちが住んでた世界。この世界に重なるように、少しだけ位相がずれて存在していたの」


「よくわからんが……風来はそこから落ちてきたってことか?」


「まあそうだね。私達みんな、堕ちてきた」



 普通に肯定すると見せかけて、新たに情報をチラつかせて興味を引く高等テクニックを使われた。

 くそ、気になるじゃないか……

 徘徊ゾンビも気になるが、その対処のヒントになる情報が出てくる可能性もあると信じて、俺は風来に続きの説明を要求する。



「私達みんなって、どういうことだ? 風来以外にも、空から降ってきたお茶目な神様がいるのか?」


「お茶目って言わないで。不可抗力なんだから」


「ふかこうりょく?」


「だって天界、壊れちゃったから。——住んでた神様全員、ここに堕ちるしかなかったんだよ」


「……世界が、壊れた?」



 あははと笑いながら語られたが、それはゾンビよりも大きな問題なのではなかろうか。世界が壊れたら、ゾンビはどこを徘徊すればいいんだ。



「正確に言うなら、誰かに壊された、だけどね。……もしかしたら、そのゾンビも天界壊しが関わっているのかも」


「じゃあ、ゾンビを放置してたら地球も壊れるのか……?」


「可能性はあるかな。とりあえず、調べてみないことには何も言えないけど」



 ゾンビの存在を受け入れて貰えたのはありがたいが、想定よりも数段芳しくない状況だったらしい。

 あくまでも可能性とは言っているが、地球が壊れる可能性なんてものがあるのなら、それが天文学的数値だろうと大事(おおごと)だろう。



「戦うなら、武器になるものがいるな……軽くて鋭利なものとかか」


「さっきのそれは?」


「シャーペン刺したってゾンビは怯まないだろうよ。——果物ナイフあたりが無難か」



 刃渡り九センチなので完全に銃刀法違反なのだが、ゾンビに突き刺すためというのが正当な理由足りうると信じようじゃないか。



「あ、私にも何かちょうだい」


「そこに転がってるの持って行っていいぞ」


「ペンじゃ怯まないんでしょ!」



 そんなやりとりを挟みつつ、風来には小振りの包丁を手渡すことに。

 ……包丁、絵面がださいな。



「ありがと。それじゃあ、龍斗くんがゾンビを見たって思い込んでるところに連れて行ってよ」


「しつこいな! 実際にいたからな!」



 少しムキになって反論したところで、ふとある設定を思い出した。


 公園は大して遠くないとはいえ、風来も一緒に瞬間移動すると俺の寿命が持って行かれるんじゃないのか?



「風来さん風来さん、体重何キロ?」


「不敬! 自分の分くらい自分でまかなうから!」



 あ、そういうこともできたんですね。なんだか割り勘をねだった情けない男みたいになってしまったな。

 まあそもそも、風来の神様エネルギーで生かして貰ってる時点で実質ヒモだったけれど。

 ——あれ、そういえば俺、未だに生殺与奪の権を握られてないか? ……いや、元々は死んでたし今更か。



「……ゾンビの件が片付いたら、もう少し話があるから」


「ん? おう」



 おっと、唐突に深刻そうな顔をされても、反応に困ってしまう。キミはそんなキャラじゃなかっただろうに。

 ——あ、呆れたような顔になった。その表情多いな。気に入ってるのか?



「はぁ……龍斗くんは何か考えたら口に出すか顔に出すかしないと気が済まない性格なのかな?」


「顔に出すってなんだよ……」



 俺の表情筋にはそんな能力があったのか?

 将来は通訳で荒稼ぎできそうだな。



「とにかく、早くゾンビの調査に行こうよ。もし本当にいるなら、こんなことしてる暇ないんだからね?」


「まあ、そりゃそうだな」



 あ、俺の表情筋パワーで公園の場所を伝えたら風来も瞬間移動できるように——冗談だから。睨まないでくれ。


 さすがに悪ふざけが過ぎたので、大人しく従うことに。

 公園を意識して、ゾンビが三体から変わっていないことを確認しつつ、仲良く手を繋いで、いざ飛ばん!



『龍斗くん、でんわですよ。早く出ましょう。龍斗くん、でんわですよ。早く出ましょう。龍斗くん——』



 ——としたところで、部屋に響いたのは『着信音』。

 震える俺の携帯電話が示すのは、着信音の声の主であり、むしゃむしゃミームの元締めである幼馴染を指した、『瑠璃』の二文字。



「なんか、すまん……」


「いまさら電話の時間くらい変わらないから、いいよ」



 風来も快く許可してくれたので、通話ボタンを押して電話を繋ぐ。

 瞬間、耳に刺さる叫び声。



『龍斗くん! 助けてください!』


「——どこにいる?」


氷上原(ひがみはら)霊園!』


「わかった。すぐ行く」



 電話を切り、再度瞬間移動の準備を進める。当然、行き先は変更して。



「悪い、風来。少し遠出することになった」


「聞こえてたから、わかってる。——少なくとも今の私は、龍斗くんを殺す気なんて無いから、安心して飛んで」


「はっはー、そいつは心強いな!」



 風来の言葉に後押しされ、俺は人外の能力を行使する。



 そうして俺は、物理の壁をぶち破り、墓場行きの神話を紡ぎ始めたのだった

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