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2.おまけが本編みたいな超能力

 主人公が神様の手違いで死んでしまう物語が近頃増えている。——ような気がする。

 大抵の話はそのまま異世界へと行くことになるのだが、『生き返る』という点で見れば、それもまあ『お約束』の範囲内だろう。

 そして中には、異世界でなんやかんやがあって神様になるという話もあったはずだ。

 だがそれでも——



「最序盤に神様成り上がりしたら、もうそこで終了なのでは?」


「え、なんの話?」


「いや悪い、忘れてくれ」



 あまりにも話の展開がファンタジーだったから、物語に置き換えて考えていたとは言いづらい。

 どれだけ突拍子の無い話でも、一応は現実なのだ。……現実なのか? これが俺の夢で、妄想という可能性の方が高い気がしてきた。

 お、いいところにシャーペンがあるじゃあないか……



「ふんっ! いてぇ!?」


「なにやってんの!?」



 とりあえず手の甲に突き刺してみたら、死ぬほど痛かった。——いや、少し盛ったな。さすがに死ぬほどじゃない。

 だがそれでも、激痛であることに変わりはなく、痛いものは痛かった。これは変に奇を衒わず、皮を抓る程度で済ませるべきだったかもしれない。



「これ、夢じゃねえのか」


「そう言ってるじゃん……まあ、それくらいなら、すぐに治ると思うけどね。今のあなたなら」



 呆れたような視線を向けつつ、不思議なことを言う風来。

 一瞬言われた意味が理解できなかったが、疼く傷痕を見たら強制的に理解させられた。


 傷痕が泡立つように蠢いたかと思うと、そのまま塞がったのだ。



「え、キモチワル……もうこれゾンビじゃん」


「私も器が無事なら似たような感じで再生するよ。まあ程度によっては『神格』が足りなくなるけど」



 ここでまた『シンカク』という単語が出てきた。説明が必要な単語で説明をしないでほしい。バルスのフォルスのルスかクコーンでページしてしまう。



「あー、質問。『シンカク』イズなに?」


「うーん、神様の格……というか、核? 人の信仰心とかが元になってて、無くなると身体が維持できなくなるの」


「よくわからん。もう少しむしゃむしゃしてくれないか?」


「噛み砕いてって言いたいの? ……まあ簡単に言えば、神格は神様エネルギーで、器はそのエネルギーを溜め込めるバッテリーみたいな?」


「理解した。ロボットみたいな仕組みしてんのな……」



 しかし、怪我がすぐに治ったことからも、俺がそのロボットみたいな神様になってしまったのは事実なのだろう。

 それなら背中の痕が再生したことにも——ついでに擦りむいていたはずの膝が綺麗になっていることにも——説明が付く。

 と、いうことはつまり……



「成り上がりモノじゃなくて俺TUEEEが正解だった……?」


「唐突に訳のわからないことを言うよね。癖なのかな?」



 はい、癖です。


 まあ冗談はともかく、まだまだわからないことだらけなので、順を追って訊いていかなければならない。

 そしてまず一番に訊くべきことは、健全な男子高校生としてはアレ一択だろう。



「ちなみに、神様になったから俺もなんかすごい力が使えたりするの?」


「今は半分の器しかないから、精々瞬間移動くらいじゃないかな」



 へー、瞬間移動できるんだぁ…………え、最強では?

 某有名タイトルのシークレットアイテムの中でもランキング上位に君臨し続けるあの不思議扉の能力を、俺は死んでいる間に会得してしまったと言うのか……!?



「俺無双が始まってしまう……!」


「まあそれも使いすぎると神格無くなって、また死体に逆戻りだから、なるべく使わない方がいいけどね」


「あ、デスヨネ」



 さすがにノーリスクではなかった。神様エネルギーを消費してしまうのは、半ロボット神的にはかなり大きなリスクのように思える。

 命を削る瞬間移動能力者という肩書きに憧れないでもないが、まあ時間ギリギリまで寝ていても高校に遅刻しないなんて使い方はしない方が賢明だろう。



「ちなみに消費する神格は、『移動させるものの質量』×(カケル)『移動距離の二乗』×(カケル)『瞬間移動係数』で決まるよ」


「めちゃくちゃ物理っぽいな!?」



 超能力なのに! 物理法則無視してるはずなのに!

 ていうか瞬間移動係数ってなんだよ……



「でも実際、そういう能力みたいなのってどう使うんだ? 神様になったとか言われても、あんまり身体の感覚とか変わってない気がするんだけど」


「うーん、感覚的な話になっちゃうんだけど……こう、行きたいところに自分がいるとこを想像して、『あ、自分いるなー』とか『ここがあそこかー』みたいな感覚になったら大体瞬間移動できてるって感じかな?」


「いや、全然わからないが」



 むしゃむしゃを所望します。



「じゃあ、ちょっとやってみせるから、見て覚えよう」


「瞬間移動って見えなくない?」


「心構えとかそっち側の話ね。まず行きたいところ……部屋が狭くていい感じのスペースがないね?」


「一人暮らしだから、これでも広い方だからな?」



 高校生の一人暮らしで八畳一間というのは、破格の広さではないだろうか。

 まあベッドと勉強机と本棚のせいで手狭に感じてしまうのは確かだが。



「じゃあ、この本でいいや。この本を今からその辺に飛ばすよ。——まず、この本がその辺の空中に浮かんでるのを想像して……あ、あるある。浮いてる浮いてる。あー、これはもう向こうにあるなー、はい!」



 最後の掛け声と共に風来の手にあった本が消え、同時に何も無かったはずの目の前の宙域に顕れて、そのままトサリと机の上に落ちた。

 それを見た俺が最初に感じたのは、驚きではなく納得だった。十分に距離を取ったはずの風来が、唐突に頭上に現れた理由が、それで説明できるからだ。

 まあ、こうして生き返らせた上で説明している以上、故意ではなかったのだろうが。



「瞬間移動の話が嘘じゃないことだけはわかった」


「やり方は?」


「わかるわけないんだよなぁ」


「まあたぶん最初は『瞬間移動であそこに行きたい』って頭で強く考えるだけでもできると思うよ」


「今までの説明はなんだったんだ……?」



 最初からそう伝えるべきだったと思うのだが、まあ風来には風来の考えがあるのかもしれない。——いや、割と何も考えてなさそうな顔してるな?



「今なにか失礼なこと考えなかった?」


「イヤイヤ、そんなワケないじゃないカ。——とりあえず、俺もこのシャーペン動かしてみたいんだが……軽ければあまり危なくないんだよな?」


「まあそれくらいならすぐに補充されると思うよ。飛んでけーって意識してみよう」


「飛んでけー」



 あ、なんか半透明のシャーペンが空中に浮かんでいるようなものが見えてきた。ゲームの着弾アシストナビみたいなUIしてるな。

 確かにこれを自分の身体でやるなら、風来の説明もあながち的外れではなかったのかもしれない。

 そのまま半透明のシャーペンが実体を持つように意識すると、手に持っていた感覚が消え、転送先から落下した。ちょろいぞこれ。



「……これ、飛ばせる物の条件は?」


「自分以外のもので瞬間移動させられるのは、触れているものか視界内のもので、移動先は視界内限定かな。ちなみに消費する神格は、さっきの式にさらに『自分と対象までの距離の二乗』がかかったものが加算されるから、重くて離れているものはやめた方がいいね」


「自分以外ってことは、自分が瞬間移動するときは違うのか?」


「自分が瞬間移動するときは、記憶にある場所なら幽体離脱みたいなことして転移先確認できるから」


「千里眼じゃん」



 おまけ能力が強すぎるのでは?

 知り合いの様子とか見れそう。


 いやまあこれまでの流れからして——



「でもお高いんでしょう?」


「なんと見るだけならタダ」


「マジかよ千里眼使いになります」



 無料(タダ)……ああ、なんという甘美な響きだろうか。

 本当に大丈夫か? 三十日間限定とかいうトラップはないか?



「とりあえず外でも覗いてみたら? 戻るときは『やっぱやーめた』で戻れるから」


「おっしゃやるかぁ」



 行きたい場所……とりあえずイメージしやすい近所の公園でいいか。あ、ロード無しで画面切り替わるんですね、ハイテクだぁ……あ? あー、え?


 チョットナニカ不思議なものが見えたため、俺は帰還コマンド『ヤッパヤーメタ』を連打した。



「なあ神様」


「風来って呼んで? 私も龍斗くんって呼ぶから」


「おーけー風来。それで、質問があるんだが……」


「なに?」


「公園になんかヤバそうなのがいた」


「もう少しむしゃむしゃして?」



 ついに神様にまでむしゃむしゃが感染してしまった。実は元ネタは幼馴染の口癖なんだが……

 いや、今はそんなことを言っている場合じゃない。



「なんか、こう、どろっとした人形みたいな、気持ち悪い感じの……あれだ」



 俺は一拍置いて、正体を告げる。



「——徘徊するゾンビがいた」

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