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プロローグ「晴れ、時々神様」

 空から、少女が降ってきた。



「は?」



 なるほど。それだけを聞けばどこぞのファンタジー小説の導入かと思えるかも知れない。これから少年は、降って来た少女と共に世界を救う旅に出ることになる——なんてシナリオはいかがだろうか。


 しかしどうだろう。現実に今、上空高くからそのシルエットを急速に肥大させていく少女は、実体を伴う恐怖として俺に迫ってきているのだ。目測からして、高速道路を走る車よりも速い速度が出ているだろう。——出ている気がする。この角度だとイマイチ判然としないけれど。


 では、そんなエネルギーの塊(ばくだん)が落ちてきたとして、それを物語のように両の手で受け止めるなどという対処が果たしてできるのだろうか。

 これは当然、素朴な疑問などではなく、議論にすら値しないほど必然的な反語。すなわち続く言葉は、「否、できない」だ。

 もしそんなことができるなら、それは受け止めた男がスーパーマンだったか、降ってきた少女の体重が小動物並みに軽かったかの二択だろう。



 まあファンタジーの世界ならば、少女が重力に逆らいながらふわふわ落ちてきても不思議ではないのかもしれない。

 そもそも少女が空から降ってきた時点で、何が起きても不思議ではないだろう。

 ただの男子高校生が、普通に落下してくる少女を普通に受け止めることもあり得るかもしれないのだ。


 故に、今まさに『それ』を見上げている俺が、両の手を拡げて受け止めることもあるいは可の——


「いややっぱ無理死ぬ!」


 ——うな訳がなかった。


 受け止める? ありえない。冗談じゃない。自分目掛けて飛んでくる砲弾を抱擁で迎える馬鹿がいるだろうか。そんなもの、遠回しですらない、ただの自殺行為だ。


 俺は『それ』を避けるために、危険を回避するために、手荷物全て——と、ついでに恥と外聞も一緒くたに投げ捨て、駆け出した。その場で躱すだけでは、飛び散るアスファルトに殺されかねない。なるべく早く、遠く、爆心地から離れようと足掻く。


 そうして俺は走って、走って、十二秒に渡る死ぬ気の全力疾走の結果、百メートル近い距離を稼いだところで脚が(もつ)れて地面を転がった。



「はぁっ、はぁ、これなら……」



 擦り剥けた膝に構うことなく、荒い呼吸で酸素を肺に流し込みながら、元いた場所を振り返る。きっとすぐにでもアスファルトを穿つ爆音が響くだろうと、そう思いながら。


 しかし、そんな当然は(くつがえ)される。

 爆音は響かなかった。アスファルトは穿たれなかった。少女は、どこにも、いなかった。


 忽然(こつぜん)と——まるで、端からそんなものは無かったとでも言うかのように——空間のみを残して、少女のシルエットは消えていた。

 そして、その姿を探そうとする前に、俺の視界に変化が起きていた。辺りが少し、暗くなったのである。

 そう、気付けば俺は、雲一つない晴天の下で、日陰の中に立っていたのだ。



「へ?」



 許された辞世の句は、そんな間抜けな一音のみ。

 陽を遮ったモノを確認することもできずに、そのまま俺は潰された。

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