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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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「大川サンっ、」

「統也君、彼を連れ戻すのを手伝ってちょうだい」

「は、はい!」


 先頭のセミトラックに坂本を連れ戻すより、直ぐそばにある岩屋の車に押し込んだ方が良さそうだ。統也は後部座席のドアを開けに戻る。

口調を神妙に、由月はゆっくりと坂本の腕を引きながら後ずさる。


「坂本サン、今日も暑いわね?」

「ぁ、暑い……暑い……」

「大川サン、もしかして 坂本サンは夏病に……」

「ええ。でも、落ち着かせれば きっと意識を取り戻すわ。そうよね? 坂本サン」

「聴こえる……」

「何が聴こえるのかしら? 話を聞かせてちょうだい」


 坂本の目は宙を漂い、何処を見ているのか分からない。


「聴こえる……嫌な音だぁ……」


 坂本の足はピタリと止まり、石化したかの様に動かなくなる。

次の瞬間、統也と由月は同時に目を見開く。



(銃を持ってる!!)



 坂本が腰にぶらさがるハンドガンに手を伸ばせば、由月はそれを制すべく身を乗り出す。


「駄目よ、坂本サン!!」

「大川サン、危ない!!」


 行かせて仕舞えば、由月は発砲に巻き込まれる。

統也が由月を抱き止めると同時、坂本は銃口を口に咥える。



 ――ダン!!



「ぁ……」


 由月は目を見開く。統也の背後で坂本がバタリ……と倒れる。

坂本がどうなったかは、振り返って確認する迄も無いだろう。

統也は由月の体をギュッと抱き締める。


(自殺者……

今生き残っているからと言って、影響から逃げ切れたわけじゃない……

タイムラグは、いつ俺達を指名するか分からない……)


 影響は継続。これが、今を生き延びる事の難しさ。


 由月の体は震える。

統也の肩越しに見た坂本の死の瞬間が目に焼きついて離れない。



「あ、ぁ、あ、あぁあぁあぁ!!」



 由月の叫びが響き渡る。

統也は由月を肩に担いで岩屋の車に駆け戻ると、声を荒げる。


「岩屋サン! 進んで! 進んでください!!」

「す、進めって言ったってッ」

「早く!! ヤツらが来る!!」

「ッッ、クソ!!」


 岩屋はクラクションを短く鳴らすと、1度 ハンドルを切り返し、ジープとセミトラックを追い越して発進を煽る。

坂本とは付き合いの長い浜崎と吉沢からすれば、この場を見て捨てるには余りにも忍びない。

然し、死者達は血臭を嗅ぎつけ、何れはこの通りに群がるだろう。

1本道を塞がれる訳にはいかないのだ。

思いを振り払うようにジープが走り、その後をセミトラックがつく。


 岩屋の車中では由月が悲鳴を上げ続ける。


「あぁあぁあぁあぁ!! あああああああ!!」

「大川サン、しっかりしてください!!」

「な、何だよ、どうしちまったんだ、大川サンはぁ!?」


 暴れる由月に座席を占領される仁美は3列目シートに逃げ込み、成す術も無く縮こまる。


「そ、その人、大丈夫なの!? 普通じゃないって!」

「大丈夫、大丈夫ですからっ、」

「あぁあぁあぁあぁ!!」

「あぁクソ!! 前に着いてく気まんまんだったから、道が分からねぇ!!」


 岩屋はカーナビを起動。指を迷わせながらN県を設定する。

今頃は坂本の血の臭いに誘われ、死者が集い出しているに違いない。

そこに、中年女の発狂者が混戦する事を思えば逃げるが勝ち。


 統也は暴れる由月をシートに押さえ付ける。


(って、錯乱にしても、こんな暴れ方ってあるのか!?)


「大川サン、俺を見て! 声を聞いて!」

「うあぁあぁあぁあぁあぁ!!」

「もう済んだ! もう終わったんだ! 落ち着いください!」

「あぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!」

「クソっ、」


 話にならない。こうなったら力ずくだ。

統也は由月の腹の上に馬乗りになると、両手で顔をガッチリと押さえ付ける。


「大川由月!! 良く聞け!! アンタは賢くて、論理的で、合理的なんだろ!!

合理的に考えろ!! ここは何処で、今、アンタはどうすべきなのか!!

アンタがそんなんじゃ、俺達が生き延びる事は出来ないんだ!!」


「ぁ……、――、……!!」



 由月の視点が合わさる。目と鼻の先に統也の顔が見える。

漸く冷静さを取り戻した様だ。


「――統也君、近いわ」

「!?」


 統也は慌てて由月の顔を離すと、勢い余って座席の下に転がり落ちる。

ついでにドアに頭を強打。


「イテッ、」


 明日には単瘤になっているだろう。




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