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――8日目。
迎える翌日も蒸し暑い。
時刻は早朝6時だと言うのに、炎天下と言っても過言では無い気温。
日中はどれだけ暑くなるのか、想像すれば肩を落とさずにはいられない。
昨晩の打ち合わせでは、車を止めず、只管N県入りを目指す事になっている。
夫々が車に乗り込み、出発。
統也は後部座席から運転席の岩屋を窺う。
「岩屋サン、ちゃんと休めましたか?
運転がキツくなるようでしたら、隊員の方に代わって貰えるよう連絡しますので、言ってくださいね?」
「爆睡したから大丈夫そうだ。床で寝たから体痛ぇけど。
それより、昨日の晩はお前らがオールで見張ってたんだろ? 今の内に寝といた方がイイぞ?」
「いえ、日夏と休み休みやれましたし、大川サンが途中代わってくれたので」
「大川サンがぁ? 何だ、あの人、意外に働くなぁ!」
「ええ、本当に。すごく助かりました」
今日は休憩無しで車を運転して貰わなくてはならない。
ドライバーである岩屋への負担は軽減したい。
然し、これと言った働きを見せていない仁美は肩身が狭い。
言葉無く窓の外を眺めるばかりだ。
道の左右は田んぼ。
数日 手入れがされていないだけで、スッカリ寂れた田園風景。
統也は黙り込んだ儘の仁美を気遣い、話しかける。
「平家サン、窓の外は余り見ない方が良いですよ? たまに嫌なものもありますから」
死者の姿は勿論、食事現場ともなれば強烈だ。朝から見たくは無いだろう。
仁美が顔を背けようとした所で、前方に人影。
田んぼから芝生の坂を上り、麦藁帽子を被った中年の女が顔を出す。
「ねぇ、統也クン、あれって……」
生存者だ。
動く車の音に助けを求めて現れたなら、対応を協議する必要があるだろう。
然し、中年の女は仁美の視線に気づくなり、満面の笑みで手を振る。
片手には鎌。片手には人の首。
「きゃぁ!!」
「平家サンっ、」
仁美は統也の胸に飛び込む。
車は速度を落とさず、そのまま通り過ぎ、岩屋は重い長息を吐く。
「あ~~~ヤなモン見たなぁ……あれ、発狂者か?」
「そうでしょうね……」
「あの生首、そのうち復活するぞぉ」
「ぅわぁ……」
脳を破壊しなければ、首と体を切断しても頭部だけは蘇える。
最も、体が無い以上、行動は完全に制御されている状態だから、あの中年女はそんな生首コレクターなのかも知れない。
統也は腕の中で怯える仁美の肩をポンポンと叩く。
「大丈夫ですよ、平家サン。もういません」
「も、もぉヤダ、最悪……何でこんな目に遭わなきゃなんないのよッ、」
それは誰しもが思っている事だから、岩屋は溜息をつく。
その寸暇、ジープがハザードを焚いて停まる。
「あぁ!? 何だよ、どうしたんだよ、こんなトコで! さっきの見えなかったのかって!」
田んぼのド真ん中、1本道で車を停車させるとは何事か、岩屋はブレーキを踏む。
仁美は統也のシャツをギュッと握りながら、声を荒げる。
「こんなトコで止まられても困るんですけど!?
後ろの、あの変なおばサンが来たらどうすんの!?」
統也は仁美を宥めながらライフルを握る。
「降りて様子を見に行った方が良いかな、」
「ダ、ダメだって統也クン! 前が動くの待とう!」
そんな遣り取りをしている間に、バタン! とドアの開閉音が聞こえる。
どうやらセミトラックから浜崎か坂本かの どちらかが降りた様だ。
統也は後部座席の窓から大きく身を乗り出す。
「坂本サン?」
坂本が1人で歩いて来る。
慌てる様子は見えないが、一体 何処へ向かおうとしているのか、表情からは読み取れない。
浜崎はセミトラックの助手席から遅れて降りると、坂本の背を白癩のまま見つめる。
「ど、どうしたのっ? やっぱり……何かあったの!?」
「分かりません。坂本サンが車を降りてこっちへ向かって来るんですけど……」
今の所この界隈に死者の姿は見られないが、フラフラと歩いていては的にされてしまう。
様子を窺っていると、坂本はジープにも岩屋のワンボックスカーにも目を向けず通り過ぎる。
誰もが呆ける中、由月はジープを飛び降りる。
そして、坂本に向かって走ると、腕を取って引き止める。
「坂本サン、確りしてくださいっ」
普段は無表情な由月の表情が険しい。
ただ事では無い2人の遣り取りに不穏を感じ取れば、統也も遅れて車を降りる。




