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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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98


 ――8日目。


 迎える翌日も蒸し暑い。

時刻は早朝6時だと言うのに、炎天下と言っても過言では無い気温。

日中はどれだけ暑くなるのか、想像すれば肩を落とさずにはいられない。

昨晩の打ち合わせでは、車を止めず、只管N県入りを目指す事になっている。

夫々が車に乗り込み、出発。


 統也は後部座席から運転席の岩屋を窺う。


「岩屋サン、ちゃんと休めましたか?

運転がキツくなるようでしたら、隊員の方に代わって貰えるよう連絡しますので、言ってくださいね?」

「爆睡したから大丈夫そうだ。床で寝たから体痛ぇけど。

それより、昨日の晩はお前らがオールで見張ってたんだろ? 今の内に寝といた方がイイぞ?」

「いえ、日夏と休み休みやれましたし、大川サンが途中代わってくれたので」

「大川サンがぁ? 何だ、あの人、意外に働くなぁ!」

「ええ、本当に。すごく助かりました」


 今日は休憩無しで車を運転して貰わなくてはならない。

ドライバーである岩屋への負担は軽減したい。

然し、これと言った働きを見せていない仁美は肩身が狭い。

言葉無く窓の外を眺めるばかりだ。


 道の左右は田んぼ。

数日 手入れがされていないだけで、スッカリ寂れた田園風景。

統也は黙り込んだ儘の仁美を気遣い、話しかける。


「平家サン、窓の外は余り見ない方が良いですよ? たまに嫌なものもありますから」


 死者の姿は勿論、食事現場ともなれば強烈だ。朝から見たくは無いだろう。

仁美が顔を背けようとした所で、前方に人影。

田んぼから芝生の坂を上り、麦藁帽子を被った中年の女が顔を出す。


「ねぇ、統也クン、あれって……」


 生存者だ。

動く車の音に助けを求めて現れたなら、対応を協議する必要があるだろう。

然し、中年の女は仁美の視線に気づくなり、満面の笑みで手を振る。

片手には鎌。片手には人の首。


「きゃぁ!!」

「平家サンっ、」


 仁美は統也の胸に飛び込む。

車は速度を落とさず、そのまま通り過ぎ、岩屋は重い長息を吐く。


「あ~~~ヤなモン見たなぁ……あれ、発狂者か?」

「そうでしょうね……」

「あの生首、そのうち復活するぞぉ」

「ぅわぁ……」


 脳を破壊しなければ、首と体を切断しても頭部だけは蘇える。

最も、体が無い以上、行動は完全に制御されている状態だから、あの中年女はそんな生首コレクターなのかも知れない。


 統也は腕の中で怯える仁美の肩をポンポンと叩く。


「大丈夫ですよ、平家サン。もういません」

「も、もぉヤダ、最悪……何でこんな目に遭わなきゃなんないのよッ、」


 それは誰しもが思っている事だから、岩屋は溜息をつく。

その寸暇、ジープがハザードを焚いて停まる。


「あぁ!? 何だよ、どうしたんだよ、こんなトコで! さっきの見えなかったのかって!」


 田んぼのド真ん中、1本道で車を停車させるとは何事か、岩屋はブレーキを踏む。

仁美は統也のシャツをギュッと握りながら、声を荒げる。


「こんなトコで止まられても困るんですけど!?

後ろの、あの変なおばサンが来たらどうすんの!?」


 統也は仁美を宥めながらライフルを握る。


「降りて様子を見に行った方が良いかな、」

「ダ、ダメだって統也クン! 前が動くの待とう!」


 そんな遣り取りをしている間に、バタン! とドアの開閉音が聞こえる。

どうやらセミトラックから浜崎か坂本かの どちらかが降りた様だ。

統也は後部座席の窓から大きく身を乗り出す。



「坂本サン?」



 坂本が1人で歩いて来る。

慌てる様子は見えないが、一体 何処へ向かおうとしているのか、表情からは読み取れない。

浜崎はセミトラックの助手席から遅れて降りると、坂本の背を白癩びゃくらいのまま見つめる。


「ど、どうしたのっ? やっぱり……何かあったの!?」

「分かりません。坂本サンが車を降りてこっちへ向かって来るんですけど……」


 今の所この界隈に死者の姿は見られないが、フラフラと歩いていては的にされてしまう。

様子を窺っていると、坂本はジープにも岩屋のワンボックスカーにも目を向けず通り過ぎる。

誰もが呆ける中、由月はジープを飛び降りる。

そして、坂本に向かって走ると、腕を取って引き止める。



「坂本サン、確りしてくださいっ」



 普段は無表情な由月の表情が険しい。

ただ事では無い2人の遣り取りに不穏を感じ取れば、統也も遅れて車を降りる。


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