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さて、これできっかり3分。
由月はカップ麺の蓋を置け、割り箸を左手に持つ。
「それよ」
何が『それ』なのか、一同は首を傾げる。
由月はカップ麺にフーフーと息を吹きかけ、一口啜る。そこそこ美味い醤油味。
「吉沢サン、アナタ、震えているわ」
「!」
「そんなアナタの精神力はいつまで持つのかしら? 死ぬまで?
だとしたら優秀すぎるわ」
「!!」
熱くて食べられない。由月は1度、割り箸を置く。
「地域単位で見ても生存者は3割。内、発狂者を1割。残りの6割が蘇えり。
この現象は日本だけで起こっている事ではありませんから、
これを世界単位に拡大して計算してごらんなさい。
1人頭、何人仕留めれば蘇えりを駆逐できるのか。私の起算では不可能と出ているわ」
日本の人口だけでも1億3千人。その7割近くが敵と考えれば頭も痛くなる。
一生をかけても倒せる数とは思えない。
話を聞いているだけで恐ろしくなる仁美は、無意識にも統也の側に寄る。
「不可能って……」
「だ、だから戦闘を回避しろと言うのか、キミは!」
「数を減らす考えで彼等と対峙するのは合理的ではありません」
「馬鹿な!」
「何も、逃げ惑えと言っているのではありません。
アナタ方の言う戦闘を、自らが生き延びる範囲に留める事を推奨しています」
「そ、そんな事が、我々に許される訳が無い……」
自ら追って仕留めるのでは無く、追われたなら仕留めると言う考え。
そうする事で、身を危険に晒す確率を減らし、万一に備える事が出来る。
確かに、由月の言い分は理解できる。だが、隊員等に見えるのは葛藤。
自衛隊員の隊服を着ている以上、生存者を守る義務に駆られる。
生存者も又、隊員達にそれを課す。だからこそ、N県へ向かう覚悟を決めたのだ。
受け身ではいられない。
「圧倒的多数の彼等との戦いに挑むよりも、彼等から逃れる術を身に付けなくてはならない。
最低限の戦闘が、彼等との最低限の接触になる。私は、」
カップ麺は食べ頃の温度。
「アナタ方に生き延びて欲しい」
この言葉に全員が息を飲む。
戦っても戦ってもキリが無い。では、いつまで戦えるのか、と言う事。
体力や健康は日々衰えて行く。精神に限っては既に限界を見せている。
その中でも生き延びる為には、戦いの技術だけを磨いても意味が無いのだ。
静かに麺を啜る由月を、統也は見つめる。
(俺は、誰にも死んで欲しくないって、それだけを思って……
でも、この人はずっと俺達が生き延びる事だけを考えていたんだ。
どうしたら生き延びる事が出来るのか……足掻いて、足掻いて。
誰もが死なない事じゃない、誰もが生きる事……それが前提)
万事、死ななければ事勿れでは無い。
安息と静寂を獲得する為の回避は、逃げる事とも違う。
生きる事は、死なずにいる事では無いのだ。
元の生活を取り戻すよりも今は、状況に順応し、生存者の生息手段を確立し、その環境を守る事。そうでなくては、生き延びる事は出来ない。
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