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休憩所のフロアに戻ると、窓のサンシェイドは下ろされ、室内の明かりが外に漏れないよう即席カーテンが引かれている。
日夏は統也は駆け寄り、カップ麺を手渡す。
「お湯が湧かせたのでカップラーメンにしたんですが……食べられそうですか?」
「ありがとう、日夏。貰うよ」
全員の顔がフロアに揃うと、浜崎は外の様子をチラチラと確認しながら言う。
「明日は早朝から出発し、N県の避難所への到着を目指す。
夜間の見張りは交代で行うから、キミ達も協力してくれよ?」
夫々が頷く中、統也は1番に挙手をする。
「俺、見張り入ります」
「駄目ですよ、統也サンっ、統也サンは休んでくださいっ、
まだ顔色も良くないですし、僕、頑張りますから!」
日夏は食料をトラックの荷台に乗せるばかりが今日の仕事。
死者との銃撃戦を繰り広げた側と比べれば、楽な役回りだ。
ここは率先して動かなくては立場が無い。
然し、それを言っては統也の思いも似た様なものなのだ。
自分が情けなくて仕方が無いから、皆の役に立ちたいでいる。
「大丈夫だよ、日夏。俺はさっき車の中で休ませて貰ったから。
どうせ暫くは眠れそうに無いし」
「で、でも……」
「良し。それじゃ、1番手はキミ達に任せるんで良いかな? 2人いてくれれば安心だ」
浜崎の言葉に、統也と日夏は目を合わせて頷く。
由月はカップ麺にポットの湯を注ぎながら一同に言う。
「私の方から宜しいでしょうか?
食事をしながらで結構ですので、聞いて頂きたいの」
由月とカップ麺のミスマッチな絵面を思わず凝視。
その様子を是と捉えると、由月は続ける。
「この度は無事に生き長らえる事が出来て何よりでした。勇敢な皆サンに感謝します。
然し、我々が生きて帰還するには、今日のようなやり方では危殆が過ぎると、
お気づきですか?」
隊員等は顔を見合わせる。
仁美は首を傾げるも、統也と岩屋・日夏は 由月が何を言わんとするのかが想像できる。
「大川サン、それはどうゆう事だ?
確かに今日は蘇えりとの戦闘はあったが、こうして無事に食料を補給する事が出来た。
何か問題があるのかな?」
「でしたら、浜崎サンには認識を改めて頂かなくてはなりません」
「我々の作戦に不備があると言いたいんですか?」
「はい」
カップ麺の蓋を閉め、壁かけ時計を見上げる。時刻は16時半。
由月は空いている椅子に腰を下ろす。
「彼等との接触は、極力避ける事を推奨します」
これに、浜崎は露骨に眉を顰める。
「ゾンビを倒さなければ、我々は永遠に逃げ隠れしなくてはならない。
キミは、それを分かって言っているのか?」
「逃げ隠れは兎も角、彼等を見つけて狩猟行為を繰り返すには限界があります。
先を急ぐのは解かりますが、危険の水準を高めるべきではありません」
「我々は速やかな任務遂行を求められている。
それとも、キミの言う『ゾンビの寿命』が尽きるのを待てと?」
「極論を言えば」
「待ってちょうだい、大川サン!
アナタの話では、ゾンビの寿命には個体差があるんでしょう!?
そんなの、いつになるか分からないじゃないの! 何年先になるかも分からない!
私達は貴方達の、民間人の命も預かっているのよ!
一刻も早く片付けなくちゃ、こっちが先に死んでしまうわ!」
吉沢は扼腕させながら立ち上がり、恐怖に怯えた表情で由月を睨む。
今はN県の避難所に行き、食料と医薬品のトレードを済ませ、居慣れた駐屯地に戻りたい。
その一心だ。




