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N県に向かうメンバーは車庫に集まり、余念なく装備を整える。
「まさか、岩屋サンが来るとは思いませんでした」
統也は大きな木箱を椅子代わりに腰かけ、護身用に預けられたアサルトライフルに弾倉を装填させる。残った2つの弾倉はビニールテープで固定して連結。
これで最初の弾倉が殻になっても直ぐに交換できる。
実戦部隊さながら、板に付いた統也の手付きに、岩屋は胡坐をかいて唖然。
そして、我に返って統也の言葉に返す。
「ぁ、あぁ……ここに籠もってるのも、息が詰まるんだよなぁ、」
「それはそうかも知れませんけど、ここにいた方が安全だと思いますよ?」
危険は御免の岩屋だからこそ、今も生きていると言っても過ぎる事は無い。
然し、岩屋は表情を曇らせる。
「こうゆう話はさ、ここだけにしたいんだけど、」
「?」
岩屋は周囲を見回し、そばに人の耳が無い事を確認する。
さぞ聞かれたく無い話の様だ。統也の手が止まる。
そして、岩屋は呟く様に言うのだ。
「キミはスゴイな」
「えぇ?」
「危険だって分かってる所に飛び込んで、人を助けて、自分も生きて戻って来た」
「ハハハ。運を使い切った気がします」
「運かな? 俺は違うと思うよ。単に、キミの力だ」
「岩屋サン?」
「……俺も、そう出来たら良かったのになぁ」
視線はコンクリートの床に。
岩屋の脳裏は、婚約者を思い出している。
「キミを見てると気づかされる。
俺は、そうゆう勇敢な男になりたかった筈だって。
ホントは真っ直ぐに生きたいんだよ。でも、そうはいかないんだよなぁ……
いざとなると、こぉ……
自分の事しか考えられなくなるってぇか。カッとなるってぇか。
自分を棚に上げて偉そうな事を言ってるってのは、いつも後んなって気づくんだ。
でも、止まんねぇんだよなぁ……それも俺の本音だからさぁ。
だから憧れるんだよ、キミみたいなヒーローに」
これが、岩屋がこの場に来た本当の理由。
ヒーローにはなれない。でも、ヒーローに力を貸したい。そんな情意。
「ヒーローか……今日は褒められてばっかりだ。調子狂う、」
「ヒーローだからな、早めに慣れといた方が良いぞ?」
ここ迄の話はここ迄だ。
岩屋は腰を挙げ、ワンボックスカーの運転席に乗り込む。
「んじゃ。そーゆーわけだから、俺の言う事聞いて安全にな!」
「ハハハハ。はい。努力します」
岩屋の車に乗る以上、主導権は岩屋にある。
それに逆らえば手痛い鉄拳が飛ぶのは学習済み。
そして、エンジンがかかる。
「行くぜぇ、統也! 俺は前の車に着いて行く!!」
信頼を以って統也を名前で呼び、岩屋はアクセルを踏む。
先頭を走るのは浜崎・坂本が乗るセミトラック。
続くジープには由月と日夏に、運転手の吉沢。
最後尾に、岩屋の運転するワンボクスカー。
正門は車で通れる状況に無いから裏門へ回る。
そこに、飛び跳ねて手を振る仁美が見える。何か言いたそうだ。
統也は助手席の窓を開け、顔を出す。
「どうしたんですか、平家サン!?」
「止まって! ちょっと止まって!」
岩屋が急ブレーキで車を止めると、仁美は素早く後部ドアに手をかける。
「乗せて! 私も行くから!」
「えぇ!?」
「イイから早く! 前に離されるよ!」
早速、前の車両に後れを取るわけにはいかない。
岩屋が慌ててドアロックを解除すると、仁美は後部座席に飛び乗る。
「はい! イイよ、行って!」
「ど、どうして来たんですか、平家サンっ」
「どうしてって、1人で居残ったってしょうがないでしょっ?」
「皆がいるじゃないですか、」
「……あぁもぉ、イイから!」
駐屯地には避難者の多くが残っているも、仁美にとっては親しみのない赤の他人。信頼できる統也がいなければ、誰もいないのと同じ事。
統也に向かう先があるなら、そこに着いて行くのが1番安全なのだと、仁美は信じて疑わない。
こうして、車はN県を目指すのだ。




