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《現在、事例の無い大惨事が各所にて起きています!
こちら、都心部とC市を繋ぐ幹線道路では、何台にも渡る車の玉突き事故が、
―― あ! 先頭車両あたりで煙が……きゃぁ!! 今、炎上しました!!
事故の影響でしょうか、歩道でも、いえ、周囲に倒れている人が多く見られます!
中には混乱に乗じて狂ったように暴れ回る人もいます! まるで暴動です!
とても日本国内での出来事とは思えません! ――あれ? スタジオと繋がってる?》
《繋がってるが、向こうからの音声が届いてないのかも知れない。おかしいな……》
《いいから実況続けろ!》
《ぁ、はい! えぇ、スタジオの音声がこちらには届きませんが……
あぁ、何でしょう!? あの人、血塗れです! 血塗れの人が歩いています!
向こうにも! 事故に巻き込まれた方かも知れません!
話を聞いてみましょう!》
現場クルーとスタジオとの遣り取りに支障を来たしているも、この内乱にも似た騒動を報じない手は無い。
大スクープの意気込みで、リポーターはマイクを持って負傷者に駆け寄る。
「統也、これ……ヤバイよな?」
「ヤバイと思う、」
2人はゴクリと喉を鳴らす。
《すみません! ちょっとアナタ、酷い怪我をしてますね!?
事故ですか!? それとも暴動に巻き込まれたんですか!?
……え? ……えぇ!? ちょ、ちょっと、その怪我 酷すぎませんか!?
誰か救急隊を、って、――え? ……ぎゃッッ、、》
《ぅ、うわぁあぁ!! 何だよ!? 襲いかかって来たぞ!!》
2人が予想した通りの展開が見事に全国放送。
負傷者はマイクを払い飛ばすと、尚もリポーターに襲いかかり、猛獣の様に牙を立てる。
まさかの食人鬼か、カメラマンは装備を手放して逃げ出す。
放置されたカメラに映し出されるのは、キャスターの体から吹き出る血飛沫。
《たす、…助けぇぇ、……》
見ていられない。統也はワンセグを切って項垂れる。
「同じだ……街でも同じ事が起こってる……」
「と、統也、どうすんだよ! オレ達どうしたらイイんだよ!?」
田島は喚くも、それを宥めるだけの平常心は統也にも無い。
エアコンの効いた涼しい警備室だと言うのに、ダラダラと汗が流れ落ちる。
(情報が状況に追い着いて無い!
リビングデットなヤツらには、時と場合なんて無い!
人間を見れば無差別に襲いかかる!
現状に乗り遅れれば、アイツらに喰い殺されるって事だ!!)
報道関係者ですら把握しきれていない以上、テレビは頼りにならない。
統也は鞄を弄り、携帯電話の充電器を取り出す。
「田島、今の内に充電しとこう」
「何だよ、こんな時に!」
「電波が無いわけじゃない、
繋がらないだけで、相手が応答できる状態になれば……
向こうから電話がかかって来るかも知れないし、ネットで情報交換だって出来る。
ライフラインが活きてる限り、そうゆう端末は生かしておかなきゃ駄目だ」
携帯電話は万一の命綱にもなる。そう冷静に聞かせるも、統也の口調は早い。
それだけ焦燥している表れに、田島は再び震え出す。
「騒ぎが起こってるの何て、さっきのテレビ見れば、誰だって分かるだろ!?
警察とか自衛隊もいるんだし、助けが来るまで ここにいればイイんじゃねぇの!?」
「勿論だよ。助けが来るなら……」
「どうゆう意味だよ……?」
携帯電話の充電を開始。
点灯する赤いランプを見つめ、統也は最悪の想像を口にする。
「警察にも病院も電話が繋がらないんだ。
もう、ヤツらに襲われた後なのかも知れない……」
「ぇ……」
「そうじゃ無く、逸早く動いて人が出払ってるだけだとしても、手が足りないって事だろ、」
「そんなぁ……」
「テレビが緊急放送するくらいだ、何処も彼処も混乱してる。
こっそり隠れてるだけの俺達を探して見つける余裕なんて、誰にも無いって思うよ、俺は」
警察や自衛隊が機能を失っているとは思わないが、意識は必要な場所に集中し、それ以外は後手になる。
人を当てにしていられる程、悠長な現状で無い事を自覚しなくてはならない。
(事の発端は堀内からだって勝手に思い込んでいたけど、ひっどい幼稚な発想だったよッ、全ては俺達の知らない間に、とっくに始まってた!
だったら、警察も病院も自衛隊も関係ない、皆同じ……助けを求める側になる!)




