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(しゃ、しゃしゃり出てしまったぁ……
俺なんかが行ったって役に立つ事なんか無いのに、
出来る事って言ったら、ここに残って、外の人達を埋葬する事くらいなのに、)
存外 損な性分。
否、馬鹿がつく程のお人よしだから、岩屋は統也の腕を掴み、手を下ろさせる。
「な、なに言ってんだ、水原君!
道が通れるかも分からねぇ、ただ車に乗ってりゃ着くわけじゃねぇんだぞ!?」
ここ迄の道のりを運転して来た岩屋だからこそ分かる事。
残虐な現場は繰り返しフロントガラスの視界から見続けている。
ストレートに進めれば時間のかからない目的地であっても、死者の群れに出くわせば否応無しにも迂回せざる負えない。もと来た道を戻れる確証も無い。
これ以上、自分の持つ運に期待するのは疵釁でしかないのだ。
雖も、知らぬ顔が出来ないのが、統也と言う男。
「点滴が、足りないんです」
統也が求めるのは、田島を生かす為の生命線。
その呟きに、岩屋は息を飲む。
(あれが無ければ田島が死ぬ……死なせたくない……もう誰も死なせたくない……)
『統也、母サンを頼んだぞ』
(俺はもう誰も、殺したくないんだ……)
死ねば死者として蘇える。
そうなれば、統也は速やかに田島を殺さなければならない。
それは友として、誰にも任せられない事なのだ。
だからこそ、今生きる田島の為に出来る限りをしてやりたい。
そこに、由月が腹を押さえながら現れる。
「一部を除いて、皆サンご無事だったんですね」
「由月サン、起きて大丈夫なんですか!?」
昨晩、意識を失った由月は統也によって部屋で寝かしつけられ、今の今まで眠っていたのだが、食堂に顔を出して早々実に淡白な物言いを聞かせる。
一同も由月には威圧されるのか、心配して駆け寄るのは日夏ばかりだ。
由月は呆ける統也を見やる。
「統也君、私も同行するわ」
どうやら話を聞いていたらしい由月の言葉に、統也は色然。
両手を突き出し、由月の主張を撥ね退ける。
「だ、駄目ですよ!
ここを出るのは危険な事で、それに、負傷した人を連れては行けません!」
「こちらは情報が足りないのよ。こうなったら自分の足で稼ぐしかないわ。宜しいかしら?
どうせここに居ても、負傷した頭でっかちな小娘は役に立ちはしないでしょう?」
「そ、そんな、大川サン、我々は……」
「構いません。アナタ方の腹の内が聞こえた所で、私のすべき事に変わりはありませんから」
ここに来て初日に脱走を企てた事もあって、隊員達の間でも由月の悪評は高い。
由月は一同を見やる。
「それで、他に同行する人はいないのね?
それなら統也君、アナタのバイクで行きましょう。私、免許を持っていないのよ」
差し出される細い白尾魚の様な由月の指先に、統也の目は奪われる。
「あの、決定……ですか……?」
「文句は出ていないようだけど?」
文句も何も、話の早さに誰もが着いていけてない。
然し、それを打ち破る様に、仁美が統也と由月の間に割り込む。
「ちょ、ちょっと待って! 2人で? はぁ? ムリに決まってんじゃんッ?」
N県の避難所へ行けば良いと言う話では無い。
道々食料を得て、届け、医薬品を持ち帰らなくてはならない。
避難者の搬送も併せれば、バイクでこなすには不可能な容量だ。
だが、由月は仁美を見るでも無く答える。
「何にしろ、2人で出来る範囲に限られると言うだけの事」
「はぁ? それって意味ナイって思うんですけどっ?」
「他に手が借りられない以上、二束三文の収穫を豊作と捉えるしかありません」
「な、何それ!?」
由月に中止する頭は無い。然し、それを言えば統也も同じだ。




