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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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「こ、小僧……その銃は、何処から……」


 統也が手に握るのはハンドガン。

全ての銃器は没収している。統也がそれを手にする事は出来ない筈だ。


「アンタの腰から借りたんですよ」

「あ、ぁ、ぁ……」


 黒目だけで腰ベルトを見やれば、空のホルスター。

一心不乱にストレッチャーを押す松尾には、統也が銃を抜き取った事には気づかなかったのだ。

その間抜けさに両手を挙げ、膝を突く。


 眠たげな松尾を哀れに見下し、統也は苦笑する。



「アンタはもう、寝ちまってください」


「!!」




 カチ……



 トリガーを引くも、弾は発射されない。

それでも、撃鉄の乾いた音に松尾はドサリ……と倒れ、眠りにつく。

もう起きる事は無いだろう。


 統也の片手には弾倉から抜かれた弾が握られる。



(殺せる筈が無いでしょう……)



 統也は銃を置き、ストレッチャーを退かす。

由月は裏口にズルズルと背を擦りながらペッタリと座り込む。


「大川サン、大丈夫ですか!? すみません、こんな目に遭わせてっ、」


 余力も失い立ち上がれない由月は、統也の困り果てた顔を見るや小さく笑う。



「噂どおりの人」


「え?」



 統也の疑問に答える間も無く、由月は意識を失う。



*



 ――7日目。



 翌朝を迎え、騒ぎは収束。

統也の指示通り、一同は食堂の一箇所に集り、息を潜めたのが功を制し、

由月が投光機を消した時点で発砲を繰り返していた隊員達も隊舎に撤退したからこそ、被害を最小限に留める事が出来た。



「スゲぇぞ、統也! オメぇはホントにスゲぇ!!」



 緒方は統也の頭を両手でガシャガシャと撫でる。

統也の髪はモミクチャだ。然し、どれだけ褒めても飽き足らない。

抱きついたり背を叩いたり、陽の目を拝めた感動を抑えられずにいる。


「ぉ、緒方サン、本当にもう充分褒めて貰いましたので、」


 隊員等からすれば肩身の狭い話だが、統也がここでの英雄だと認めざる負えないだろう。

岩屋は統也の背を肘でつつく。


「水原君、既に女子は皆、キミのトリコだ。羨ましいなぁ」

「な、なに言ってるんですか、岩屋サンっ、」

「統也サンはやっぱりすごいです! 僕、本当に尊敬してます!」

「皆を集めて纏めてくれたのは日夏と緒方サンだろ? 俺は口だけだから」

「違います! 統也サンが指示してくれなかったら、今頃……うぅぅ、」


 日夏が泣かない日は無い。

そんな中、仁美は虫の居所が悪そうにそっぽを向いている。

どうやら女性達が統也に向ける羨望の眼差しが気に食わない。

『ガキ扱いしてたクセに!』と言いたげだが、それを言っては仁美も同じ様なものだから、口を尖らせるに留まる。


 緒方は問う。


「んでぇ、これからどうしたらイイってんだよ?

松尾将補はドサクサに紛れて寝ちまったんだろ? これから誰がここを仕切るんだ?

幾ら統也の頭がキレるからって、まだガキだ。何でもかんでも押し付けられねぇぞ」


 駐屯地内の混乱を避ける為、松尾の昨夜の暴挙は統也と由月の胸に留まっているが、避難所としての機能を失わない為にも統率者を不在にした儘にはしておけない。


「松尾サンの代わりを決めましょうよ! こんな時だもの、責任者は必要だわ!」

「松尾サンの下って誰なんです? やっぱり、その人が代表になるべきでしょ?」

「そうなると……村岡サン、アンタじゃなかったかい?」


 避難者達は口々に話し合い、三等陸佐の村岡を指名。

村岡は松尾より若く、それ程の貫禄は無いから少し押され気味だ。



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